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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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思うぞんぶんネタバレ・引用しています。感想はあくまで私の主観的なものであり、ふだん本を読むときと同じ、一回さあっと読んだ読者としての印象です。

「自分ならどう作るか」ということを考えたくなってしつこく書かせていただいている箇所もあります。長いときはえろう長いのですが、私の誤読であれば書き手さんが「それは違うぞ」と思えるよう具体的に書いてみたつもりです。

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D-01 星下双酌
夜の公園で未知との遭遇。「>ビールをおごっている割りにはどうも下手に出てしまう。」なんて主人公の冷静さが楽しい。「まあ飲もう」といきなり言われた主人公が素直に従う導入部の補強として、「>内面の焦りに気を取られ、彼女の返答の不思議さにも気付けないでいた。」という説明があるが、それだけではこの不思議な空気を説明しきっていない気がする。もう説明してもしてもし足りない不思議感なのだ。声をかけたのは自分のほうからだったことも忘れるほど、一気に引き込まれた、というだけでいいと思う。このシチュエーションの異常さを、主人公につっこませ始めたらキリがない。不思議なのは彼女の返答の内容ばかりじゃないのだもの。夜の公園でゆったり構えている女(ここではまだ楽器の練習のように見えている?)が、声をかけてきた見知らぬ男(なぜ声をかけたか自分でも分かっていないような挙動不審者)に、警戒の色も見せず普通に受け答えをするということからして、首をかしげるべき事態。でも読み手は静かな公園の不思議感を充分楽しませてもらっているので、そこは語り手がつっこまない限り気にしないよね。
「>自分の中で邪魔をする何かというのが、世間一般で「常識」と呼ばれるものである事を理解した。」「>いや、違う。常識とは邪魔をするものではなくて、すがるべきものだ。」あたりでは、ツッコミのテンションが理に落ちるのみになってついて行きにくかった。
「>お前はせっかくの休日にまで、気合の入った格好をしていたいのか」以降のやり取りが好き。暗月の正体について詰めるための会話というよりは、楽器や服装など目に付いたものから順に徒然な感じで話す、という雰囲気で読んだ。暗月のほうも躍起になって月の精っぷりを証明する必要を感じていない、というほうが彼女らしい気がする。人間のこわっぱ程度、きっとたたずまいの迫力だけで押せる。「え、月の精って本当なんだ」と朔が時間差で冷静になったりしても楽しい。
「>その言葉と共に、街灯の明かりがふつりと消える。急に真っ暗になったことに慌てていると」があっさりしすぎ。突然あたりが暗闇に包まれるというのは視覚的大事件だ。ドラマティックなひと呼吸がほしいのに、暗闇がまだ読み手の目の前に現れていないうちから「>都会の夜空は月が無くとも街灯が反射をし」と、普段の空についての話題に変わってしまう。仰ぎ見た空も「>それなりに空を彩る輝き」などとされていて盛り上がらない。
暗月のときどうなのかは分からないけど、「>微弱ながらも照らしてくれる」では月の欠けている部分の球面が肉眼で見える日もあることを思い出した。人間の姿をしている暗月に、天体としての月のイメージがキレイに重なる瞬間。
「印をつける」の必然性がよく分からなかった。爪の半月というキーワードに気づかなければ会えないという条件づけをなぜ今さらするんだろう。眷属とまで言ったんだから呼んだらすぐに会えるんじゃないのだろうか。この一番最初の出会いのように。「オマエとしゃべるの面白かったからまた来てやる」と言って、暗月が主人公を見つけやすいようにつけた印だというならまだ分かる。ただこの場合主人公がキーワードの謎を解く必要はないので、夢が一回醒めてしまう面白みは減る。

D-02 十六年目の「ただいま」
冒頭から、描写にくっつく説明に筋が通っているようないないような、むずがゆい印象がある。
強盗の可能性もある土地でのひとり暮らしなら、扉を開けなくても用件や風体が確認できるような小窓なりあるのが自然だ。案の定「>お引き取りください。」と突っぱねたって男の力にはかなわなかった。ラズがタルクの話を聞かざるを得なくなったのは、単に小説の都合としか思えない。
「>見知らぬ男が自分の名を知っていた事」とあるがここで不思議なのはその点ではなく、ラズの顔を見ただけでどうして「>君が、『ラズ』だね?」と言えたのか、だと思う。「>君の父、ゾイから伺っている」にしても聞けたのは名前だけだろうに。普通に考えれば、ラズはただ「近所で聞いたんですか?」くらいの返答をすればいい。誠実そうな姿に目をとめたりイカンイカンと警戒し直したり、名前を知られているという一事を大げさに考えすぎているように思う。
贈られる心当たりもない謎の小瓶を、ラズは受け取らないと始めから思い決めている。この積極的な拒否はどういうことだろう。「>ちっぽけな瓶を渡そうとはどういうつもりなのか。」それが気になるのは自然だし、まさにそれをタルクは話してくれるはずだ。なのに「>人を介して」という部分にえらくこだわって腹を立てている。長いあいだ音信不通だった家族から託されたという品物を持って人がたずねてきたら、普通「遺品か」「死んだのか」と思うんじゃないかな。どこで死んだかくらい聞きたくなるものだ。ラズが、当然生きているものとして父を恨んでいるのはなぜだろう。ラストの描写を手がかりに引っぱってくるのは反則かもしれないが、「>父が最早この世に存在しないという事実は、ラズに少なからずの衝撃を与えた。」ともある。「どっかで野たれ死んでいるかもしれないな」とまで突き放していたわけではないらしい。改めて死んだと聞かされると父は殺しても死なないような気がしてた、とかいう感慨もないようだ。「>母の死の原因が父にある」とあるので、ラズは魔物を引き寄せてしまう父の体質(?)を知っている。黒月石を飲んだから長生きするような気がしていたとか?いやそこまでは書かれていない。ラズが「>今更」と表現する恨みがどんなものだったのかよく分からないので、ラストでわだかまりが解ける感動も薄まってしまう。
ラズの恨みは「捨てた」「そばにいなかった」という言葉でも表現される。でも父の体質を知っているなら、自分に危害が及ばないように出て行ったという可能性は考えなかったのだろうか。叔母夫婦や近隣の人は何かそれらしい様子を見聞きしなかったのだろうか。それとも魔物を呼ぶ男ってことで嫌われていたのだろうか。叔母なんかは姉の死の恨みもあって悪口を言っていそうだ。黒月石の力を持つ男の娘ラズに差別はなかったのだろうか。石の魔力は遺伝しないことにしておけばいいか。想像をたくましくしたところで、本文には何も書かれていない。
「秘められた過去」を軸に話が進むが、誰が何をどこまで知っていることになっているのか、それをどういう順番で伝えようとしてくれているのかがとてもあやふやだった。父の十数年は小瓶が語ってくれるのだろうが、ラズのこれまでの人生について、読み手はぼんやりしたイメージしか持てずに終わる。

とにかく冒頭では、タルクの話も聞かずに突っぱねるほどの恨みである。タルクは「>君がそう言うかもしれない事は、分かっていた」などと謎めかさず、ゾイは亡くなったんだよとまず告げるべきだ。これはお話を台無しにするが、礼儀としては普通そうじゃないだろうか。と言うより、この積極的な拒否やタルクのもったいぶり方、ラズの顔を知っていたことなどは、裏に何か通りいっぺんではない事情があるのだろうと期待させるのだ。なのに最後まで読んでもそんなものは特になかった。タルクは単に近所で「ラズの家ならあそこだよ」と聞いたのだろう。

やり取りがある程度続くと、まとめのような地の文が登場していきさつを整理してくれる。読みやすいが、読んでワクワクはしない。「>二人の存在が、それだけ彼に大きな変化をもたらしたのだろう。」「>同時にそれは、彼の娘への想いの深さを表していた。」「>だけど父への思いが僅かながらも変わりつつあるのは事実だった。」などは不要だと思う。私の欲しいワクワクは、何か派手な事件が起きてほしいという意味ではなく、たとえば「>タルクがゾイにかける言葉として警告を選んだのは、彼の行動を盗み見た後ろめたさからだった。」は好きだ。今まで書かれた情報(タルクは隠れてゾイを見ている・人気のない場所である)をもとにして、新しい絵が提示されている。

〈天空の涙〉は魔物を惹きつける「昼」、その腹から取れる〈黒月石〉は人間の欲望をあおるダークパワーという設定が面白かった。重箱ですが、「>重宝される」は「珍重される」では。

父が語りかけていた謎の小瓶の正体が、声を記録できるなんて便利グッズであったのは大きく不満。魔物と戦うのだって生身の人間の剣でよかったり、黒月石の言い伝えなどが世間的には「>眉唾物」とされていたりして、あまり魔法の氾濫する世界ではないらしく思っていたのに、魔法チックなものだって多少はオッケーなのだと最後に言われても。作中さんざん謎をふりまき、ラストでは主人公のこれからの生き方に光を投げかけるキーアイテムが、小説の終盤に突然現れた世界観ルールに危なっかしく乗っている。ミステリで言うと「終盤になって紹介された手がかり」のように感じ、釈然としなかった。

肉声を再生する瓶という魔法アイテムにもどこかぎくしゃくしたものを感じる。ゾイは生きて娘に会おうとしていたのだから、頑張って生き延びて自分の口で伝えればいいのだ。そのときどきの感動を忘れないようメモっているにしても「>きっと大きくなっているだろうね。」という語り出しは、まるで自分の死後に小瓶が届けられる小説の都合が分かっているかのよう。本人としては、天空の涙の効能にどれくらい自信を持っていたのだろう。そのへんの迷いをぽつりと漏らしておいてほしかった。ところで瓶は古物商から買ったというが、古道具ということは以前使った人の声なんかは残っているのだろうか。十年以上メッセージを入れ続けても大丈夫なデータ容量があるのだから、過去の持ち主のパスワードをたまたま言ってしまったら、いろんな声がしゃべりだしそうだ。買ったときから新品のブランクディスクだったのだろうか。一回聞けばメッセージは消えるのだろうか。メッセージを消す呪文もあるのだろうか。分かるのは、何もかも小説に都合がいいようにできているということだけだ。戦闘で取り落としても割れなかった幸運をゾイは死ぬ前に喜んでいた、とだけでもタルクが言ってくれたりしないだろうか。

「父さん」という解除の言葉はもっとクローズアップするべきだと思う。ここにはゾイの父としての感傷だけでなく、不在を許され、父と呼んでもらえるのでなければ、小瓶の声を聞いてもらう価値もないのだという強い覚悟もこめられている。(はず)

〈天空の涙〉のほうの言い伝えは本当なのだろうか。ラズを探すあいだ魔物の強さが必要だったであろうタルクはそれを試していないようだ。彼は仕事終わりにもらったかけらをまだ持っていて、これから試してみたりするだろうか。そういえば瓶を託すとき、ゾイは大体の住所くらいタルクに教えてやればよかった。

流行病で保護者を失った十六歳の孤児はどうやって暮らしを立ててきたのだろう。近所の人が結婚話を世話してくれたりしなかったのだろうか。「ラズは恨みながらも父の帰りを待っていた」とひと言書いてくれていれば気持ちよく解決するのに。

D-03 鏡からの訪問者

チラホラある誤字は置いて。男が鏡から出てくるホラーめいた冒頭。相手に体温があるらしい表現がいっそうホラー。鏡面にずっとくっつけていたから手の体温が下がってそう感じたのかも、なんて現実的な解釈も同時にチラつかせてあったら素敵。「>何かに額を貫かれた感覚」にワクワク。
病気らしい主人公を気づかう様子もないクラスメイトとのにぎやかな会話が続く。ひとり言をオトメ発言と誤解されて盛り上がる…べきシーンなのだが、処理が乱暴。初対面のはずの男を見て「あの人を夢で見た」と誰かが言ったら、どこかで会ってるんじゃないかとか、「以前に見かけていたはず」という前提を確認し合ってから「恋患い」に話を進めるのが順序だと思う。茗の言葉を吟味もせず盛り上がりたいだけ盛り上がる彼女らは、とても薄っぺらな友だちに見える。

「>私情話」にも困惑。きっと「個人的な話」ってことだよね。個人的な思い出や「こないだこんなことがあってさ」的な世間話のことを私情とは言わないと思う。まあ造語と思えばいいのかな。
「>魅く」の読みが分かりませんでした。
「>気にすることもなくなって、目の前の人物にばかり意識がいくことを覚えた。」とあるが、そんなにすぐさま気持ちが落ち着くもんかな。「~意識がいくことを覚えた」というのは据わりの悪い日本語。
「>はっきりと残る記憶に違わない人物」はもたつき気味。続く「>それだけで心拍数は一気に計測外まで跳ね上がる。」がせっかく鋭い表現になっているのに、邪魔になる。
「>ちょっと、付き合ってくれないか?」は、案内を頼んだという話が通っていないものとして言っているセリフなのに、主人公が口ごもると彼は「>──恵太に聞いてないのか?」 と続ける。話が通っていなくて驚いてることになってしまっている。
「>ざわざわとする心を落ち着かせようと、彼女の頭はいっぱいになった。」では、「彼女」というと「茗」に比べて急に読み手との距離が出て唐突だった。続く「>胸のところまで上がっていた手に、温い感覚が落ちる。」「>急激に均衡の崩れた心を、包むような暖かさがふわりと覆う。」などのように一人称視点をキープするか、「茗の」が重なっても気にせず押しては。それ以前にこの一文が不要かも。死について聞かれると動揺する少女であることはもう読み手にも分かっている。「ざわざわする心」について書きたいのか、「いっぱいになった頭」が重要なのか、的をしぼったほうがいい。
「>眼が絡み合ってしまうと思うほどに」眼が絡むイメージって分からなかった。
「>茗はその場から走り出していた。 / ベッドに投げ出した体が、すごく重く感じる。」展開が乱暴。すでに家に帰ってベッドの上であれこれ思い出していたということだったのなら、抱き寄せられているときの現在テンポな時間経過はもっと遠くから回想する視点で語られるべき。
「いかりろ」という造語かと思ってしまった。「>怒り露」は文語っぽい歯切れの良さがあり、「な口調」など現代風の用法には馴染まない気がする。「怒りも露」くらいにしたほうが通じやすいと思う。

そして後半、投げつけるように男の一人称に変わる。すべてのいきさつを知っていた人間が直接語るのがそりゃ一番手っ取り早いのだが、もっと他に絵解きの方法がなかったのだろうか。とか言ってたらなんと同じ章段中で茗視点三人称が登場してしまった。
「>気にならずにはいられない」は「気にせずには」だよね。「>洋服ダンスの戸は確かに僅かに」は間違いじゃないけど不恰好な日本語。章おわりのキメどころにこれはまずいと思う。
「>そんな毎日だった。 / 今日も前から歩いてきた人が、」また乱暴に日付が変わる。現在進行形ドッキドキの語り口と、回想的な視点が混在している。統一してほしい。

二ヶ月で再会できたのなら早い。茗が卒業して成人してそれでも忘れられなくて思いが成就した、くらいでないと「>“人間”になる」許可だの「>裁きの門」だのが軽くなるばかり。登場は鏡でなくてもよかったと思えるくらい、後半関係ない。タンスという字面に「>神の祝福」がそぐわない。
病気を扱うなら、主人公が病気のことは隠しているのか、クラスメイトは知っているのか、それでもなお病人扱いしないでくれている優しいやつらなのか、掘り下げられるポイントがいっぱいある。「>聞けばなんか昔の病気の再発したらしくって」だけで処理するのはひたすら乱暴。病気について詳細を描くのがそんなに面倒なら主人公を病気にしないでほしい。

D-04 腐乱天使※注意※

ふふぉ~、ふふぉ~と半身にのけぞりながら最後まで読んでしまった。子供のヤなとこヤなとこを突くピンポイント描写が篆刻のノミのようにガツガツと主人公の像を彫りつけていく。自分の立場を正当化することにとりつかれたような一人称。小さなプライドにすがりつく彼女の脅えが匂い立ってくる。「>不潔で不細工でぜんぜん可愛くないのに人懐こい笑顔だけはまるで天使のよう」と彼女が言えてしまうのはおかしい気がした。空ちゃんが自分のでまかせを半ば信じていたように、主人公もきっと「空ちゃんは汚い=なにもかもダメ」と思い込んでいるはず。「天使」という好評価を直接させない方法を取ってほしかった。事件後、空ちゃんの記憶が子供の空想の産物として主人公の意識にしっくりおさまる居場所を見つけていく手際が鮮やか。後半はひたすら震えて読むべし。

D-05 巡礼とロバ※注意※
舌先三寸の悪魔祓いが叫びたいくらい素敵!!聖句や呪文は催眠術師が使うきっかけワードのようなもので、祓いや超能力戦はその場の空気を自分のほうに引き寄せられるかどうかが勝負なのだと思う。そのために必要なのは精神力というか押し出しというか「説得力」で、催眠術師が「これは神の愛です」とものすごい説得力でもって言えば、日光は神の愛に変わる。「>穏やかな巡礼の言葉に悪魔は屈服するしかなかった。」ここで誰より「神の愛がそこにある」と思い込んでいるのはきっと巡礼本人で、つまり信仰心の強い者が勝利するというわけだ。輝かしい描写をされがちなテーマがめちゃくちゃ私好みに料理してあった。
終盤、「>果たして信仰なんてものがそこにあるのかを疑わせるセリフ」という地の文があるが、薄っぺらい皮肉に堕してしまってもったいない。手垢のついた信仰という言葉の狭い定義をとーんと飛び越えてみせるのがこの話の目的なのだ(多分)。巡礼の説得力・揺るぎない胆力こそ信仰と呼ばれるものの正体だと私は思う。揺るぎなさが過ぎて周りも見えなくなれば狂信、強く思い込むことができなくて惑い、悩み、差し出される誘惑に流されてしまうなら…正常ってことだ。

「>ロバはそんな人々の片隅に居るひとりの男を顎で示した。」せっかくロバなので「顎で示す」という慣用句にも「鼻づら」とか「よく伸びる下唇」を使ってはどうだろう。
「>小さな馬面の悪魔」がいつの間に「>馬の悪魔」に変わったのかと慌てたが、最初から馬だったのかな?人間タイプの面長の悪魔だと思っていた。ひづめを鳴らすとかいななくとか馬っぽい行動をさせてみては。

書法について。会話のやりとりがしばらく連続したあとで地の文が入り、それが「ひとつ前のセリフを言った人物についての描写」から始まることがある。主格が頭でっかちというやつだろうか、これは読みづらかった。「>果たして信仰なんてものがそこにあるのかを疑わせるセリフ」とは何のことを指しているのか答えよ、なんて国語のテストみたいなことになってしまう。ちなみにほとんどの人が、「>……そうかもな」がロバのセリフなんだということに「>適当な答えを返した。」を読んでから気づくのだろう。

>「あらら、この女お前を殺す気だぞ」
>「やっぱりそういうことになるのか」
> 楽しそうなロバの声に巡礼は疲れた様子で呟いた。
ここは口調に特徴があるので何とか分かる。でも巡礼のセリフを呼んでから「楽しそうなロバ」と言われるのはやはり読みくだしにくい。

「>それを眺めた巡礼は今更なことを言った。」は、必要のない説明かも。

>「いつも思っていたんだけど、悪魔が悪魔を食べるなんて背徳的だね」
>「いつも思ってるんだが、お前って絶対に頭の螺子がばらばらに飛び散ってるな」
揚げ足を取り合う面白さが生まれたところで、あとに続く「>ロバが呆れ顔で見上げるのを巡礼は不本意そうに見返す。」のもたつきが勢いを殺してしまう。「呆れ顔」で「見上げる」、「不本意そうに」「見返す」、それぞれ二つある描写をどっちかひとつにしぼっては。

> 巡礼は足を止めて飛んで行く天使を眺める。
>「尺には尺をだな」
> ロバも立ち止まって空を見上げながら
ここまでは完全に巡礼のセリフのように読める。「>そんなことを呟いた」が突然登場するので、読み手は慌てて「尺には尺を」の話手をロバに置き換える。

>「だいたいなんで充実した人生が必要で、しかもそれが巡礼なんだ」
> かつて自分を使って悪魔や人間を殺すことを生業にしていた相手の言葉に、
ここは話手を取り違えたりしないが、文章が頭でっかちなのはやはり読みにくい。

巡礼の動機は面白く読んだ。しかし「>いつかわたしを殺す人は、そのために誰かに殺される運命を背負うんだよ」という懲悪的発想は、面食いの神さまの気まぐれな裁量を想像(←巡礼の想像はきっと現実になるのだ。説得力すげーから)した発言とケンカしないだろうか。この世のすべての殺人被害者は何かの悪事の報いを受けているのだろうか。何の落ち度もない人が殺されたときなど、被害者を救わなかった神の仕打ちについてキリスト教は「主は主の計画をお持ちだ」という表現をする。ただ見るだけの天使が今日も空を横切る、という静かな絵には、そんな神の計画に「勝手だ、気まぐれだ」と反発するでなく、かといってひたすら畏怖し盲従するわけでもない、冷淡に踏みつけつつ受け入れるような高度な諦観を感じたのだがどうだろう。なんかこんがらがってたらすいません。

読み直すと↑がこんがらがっているのは、私が「悪魔の所業も神の計画の一部である」と理解したからかもしれない。この作品では悪魔は神の守備範囲外にあって、自由に人を唆してまわっているのか。巡礼を殺す人が誰かに殺されなければならないのは、悪魔が応報主義の信奉者であるからなのですね。同じ悪魔であるロバがそう言うのだから確か。自分が救われるかどうかはますます当てにならないこの世界で、巡礼は神の存在を信じているというより、神を自力で作り出したのかもしれない。「目」である天使の存在も含めたまるごと。またこんがらがることを言いましてすいません。

D-06 空を越えたら
自転車のらぶらぶ二人乗り。密着した背中に思わずムラムラしている女子。こういう女子一人称って、そりゃ自分には自分の内心しか分からないわけだから当然なのだが、男子のほうのムラムラは存在しないものとされているのが私は苦手だ。女子を沸騰させるほど接近したのに男子は全く動じていない。思春期男子のバスドラムをなめたらいかんと思う。普通に会話してたって唇一点を見つめてしまうぞと。息がかかるほど近づくなんて危険行為は、下心があればあるほどかえってできない気がする。はやしたてられてヘドモドとなってしまうのも怖がらず、年に三十回も乙女心を逆なでしに来てくれるなんて、すごく天衣無縫な少年だ。のびのびと告白準備について口に出せてしまうのはありえないほどあけっぴろげ。そんな人としてのガードの低さを彼女は「馬鹿」と言ったのかもしれない。
「>なら、信也がこの坂を登りきってしまったら、私は死んでしまうんだろうか。」以降、トイレに行かないことになっているアイドルのようだった男子が静かに呼吸を始める。彼女が意識の深いところへ降りていって、彼についてのラブコメ描写に手が回らなくなるからだろうか。「>今まで通りでいられる。最も近くて、絶対交わらない私達のままでいられるんだ」パーソナルスペースの最も中心に近い場所は物理的に狭い。そこで誰かと向き合うなら、自分も逃げ道を放棄する必要があるのだ。慣れなくて身動きがとりづらいからドラマや映画と同じ言葉が出て焦ったりして、初恋らしさがぎゅんぎゅん迫る。
このまま逃げ道がふさがれるという不安しか見えない局面を一秒一秒追っていくとき、「>沈没しそうな船みたいに揺れてる自転車」という表現がいい。のろのろした時間経過と、そこを不安定に進む彼らがストレートに浮かぶ。「>私達は今、壊れていくと同時に作られてる。」が好き。何かが目に見えて崩壊するとき、人は人生の一秒一秒が二度と戻らないのだということを最も鮮やかに体感できる。崩壊・死という喪失のイメージと隣り合わせに生が輝くびりびりとした緊張感は一人称の真骨頂でありました。
彼女にとって空坂は「>走馬灯」だったが、彼のほうはそもそも何で空坂を登りきったら告白だと思い決めたのだろう。彼だけの験かつぎなんかが絡めてあったらなおキレイ。とはいえ横断歩道の白を踏まないみたいなチャレンジの意味も、きっと彼女には分かっているのだ。

「>もう少しで完成する彫刻を落として割るような」は、入り口のツカミでもあるのでもうちょっと頑張ってほしかった。ユニゾンするなんて運命としか思えない個性的な例えではあるけれど、状況にあまり沿っていない気がする。あのとき特にどんな「彫刻」も完成しようとしてはいなかったはず。「大中小」「パレットの上で色が混ざる」「空に溶ける」は文句なくふたりが見ていた世界。
「>立ちこぎで二人乗りだと逆にバランスが崩れるだろう。」二人乗りで運転者だけ立ちこぎってムリなのかな。意地でも止まらずに登りきるチャレンジをしたことがないので分からないけど。後ろの人間はサドルの端につかまるので「背中をぎゅ」が不可能ではある。分かりやすいスキンシップがないほうがより爽やかになったという気もする。「>言い方から考えれば、座ったままってことになる。」と断言するほど彼らにとって「空坂二人乗り=バランスが危ない」が自明のことならクラスメイトはもっとキャーキャー騒ぐはずでは。

幕切れでは空の見え方さえ変わり、不変に思えた世界が一秒たりとも立ち止まっていないことを発見して終わる。しかし変化を比べるために使われる重要な一文「>単純に面積の問題で、見上げた空が十メートル前と同じ場所というわけじゃないけど。」は、実は全く頭を素通りした。「十メートル前」に空があるという例えがまずつかみにくい。空なのに「>場所」という単語が使われていることと、「>というわけじゃないけど」という末尾が文意をややこしくしている。「>見上げた空」が「>場所」的に「>十メートル前」の空間と同じであるとは誰も間違えないので、前提としての焦点が少しおかしいのだと思う。主人公は「面積がひろーくないと空っぽくはないが、自分の十メートル前にある空気もひろーいほうの空と成分は同じなのだなあ」という感慨を持っているってことだよね。言葉のリズムには好ましいものを感じるが、この大事なところで例えが人に伝わらないのはもったいない。
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