管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「王さまとブヨピヨ」「サミー・エバーパインの逆襲」の続編です。
全8話。第1話はこちら。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
騎士ハルミオンと十二の試練(8)
「落ち着いて聞いてください。そもそもの初め、猫かぶりを解いて女体将軍を呼び出したのは、私、人間のクドージンでした」
どんなにケアしても治りきらない火傷の痕を、いっそ利用してしまおうという逆転の発想です。
「転成自体はうまくいったのですが、あまりのド級フェロモンに、私はそのまま森で昏倒してしまったのです。気がついたときには、お色気魔女は街に繰り出した後だったというわけで」
「使えん奴だ」
「まだまだ生身なもので」
フェロモンが収束するまでは近づかないでおこうと一旦都に戻ると、クドージンドールにデスクが占領されていました。
「ドールを責めはしません。職場の空席状態を埋めなければと思ったのでしょう」
「いや、私は」
「大丈夫、私でも同じことをしますよ」
なぐさめられても、すっかり人間のつもりでいたジャケットクドージンは納得ができません。
「私がドールだというなら、私の知らない情報があるというのはおかしくありませんか。オリジナルデータは顔を合わせれば同期されるはずだ」
「執務室で会ったときですね。まだフェロモン酔いが残っていて、データが正しく同期されなかったのでしょう。あなたも頭痛を訴えていた」
「あ……」
「ややこしくなりそうだったので、ひとまず私がドールのフリをして引き下がったのですよ。切断音は腹話術です」
しゃべっている口の動きとは別のタイミングで、チュウンッと音がします。
「芸達者だな」
「……じゃあ今は? なぜドールであるはずの私は、こう長々と説明されなきゃ分からないでいるのです」
食い下がられるのを予想していたように、クドージンは自分のシルクブラウスを示しました。
「同期トリガーは見た目に関連して起動するようですね。全く同じ服装の自分を目にしたときだけ、同期セッションが始まるからくりでしょう」
「そんな……」
話のつじつまが鬼のように合っていき、ドールは頭を抱えました。
「私は、私が私であるということ以外分からない。私の一日が始まるのはフル充電された瞬間からなのだろうが、あなたに会って同期すれば、朝目覚めて、猫まんまを作り、いってきますをして出勤した記憶が上書きされるし、近頃のリューさんは本物にだってキスを迫るし」
「そうなのか」
「はあ。悪魔の魔法成分を抽出なさりたいとかで」
もじもじするオリジナルをよそに、ドールの自我は崩壊寸前です。
「ポケットに将軍のお煙草を入れておくのだって、私にとっては完全に自分の習慣だ。自分がオリジナルであることを、またはそうでないことを、何を根拠に判断すればいい」
「そんな必要はありませんよ。私だって本当はあやふやだ」
「……!」
「すみませんね」
オリジナル然としていたはずのクドージンは、ヒラヒラブラウスでお手上げのジェスチャーをしました。
「考えすぎる性格をこう生々しくコピーされては、すっかり自信がなくなりましたよ。自分は果たして人間か人形か。元が人形のような人間だったら、逆にしたって大した違いはないでしょう。私は自分を人間と思い込んだ人形で、とうに充電は切れているのに、将軍の魔力を受信して動きつづけている、なんてね」
「……私だって、あなたを信用できないのと同じくらい、自分が信用できない。いや逆だ。自分を信用しているから、あなたを信用してしまう。私の思考を高度に模倣したドールになら、論理で丸めこまれてもおかしくないと」
「もう双子の弟だとでも思えばどうだ」
離れた場所で将軍が言い、「それはいい」とクドージンの一方は笑いますが。
「……双子だって自我は別々です」
「そうでしょうかね。双子になったことはないが、入れ替わりごっこでふざけているうちに、彼らだって自信がなくなってくるのじゃないかな。でも、必ず見分けてくれる誰かがいれば」
揃って見回すと、面倒くさそうに待っている背中があります。
ジャケット着用のクドージンは、不安げに声をひそめました。
「……将軍は、本当に私たちを区別なさっているのでしょうか。適当に話を合わせているだけだったらどうします」
「さてね」
「だって、もしお分かりなら、どうしてすぐお前が人形だと教えてくださらなかったのか」
「我々に嘘をおっしゃることもあるでしょう」
「なぜ」
「森で私のポケットから持ち出された分が、もうないからだ」
ブラウスクドージンはつかつかと歩き、主の肩をつかみました。
「未成年者の喫煙はいけません」
「ゴホゴホ」
隠れて吸っていたつもりの将軍は、涙目で煙を払いました。
「チッ、規律バカが」
「特徴を見分けていただき光栄です」
おとなしく吸い殻を渡した魔女っ子ティーンは、プンとふくれて歩き出しましたとさ。
今度こそ、めでたしめでたし。
「ひとつ言っておこう」
ひらりと将軍が振り返ります。
「人形はお前だからな」
「そうですか」
「細かい決まりにとらわれるのは、非人間性のあかしだぞ」
「はいはい」
どっちのクドージンも、全然聞いていませんでしたとさ。
本当に、めでたしめでたし。
お付き合いありがとうございました!
続編もあります。冷酷王のスピーチ
他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
「落ち着いて聞いてください。そもそもの初め、猫かぶりを解いて女体将軍を呼び出したのは、私、人間のクドージンでした」
どんなにケアしても治りきらない火傷の痕を、いっそ利用してしまおうという逆転の発想です。
「転成自体はうまくいったのですが、あまりのド級フェロモンに、私はそのまま森で昏倒してしまったのです。気がついたときには、お色気魔女は街に繰り出した後だったというわけで」
「使えん奴だ」
「まだまだ生身なもので」
フェロモンが収束するまでは近づかないでおこうと一旦都に戻ると、クドージンドールにデスクが占領されていました。
「ドールを責めはしません。職場の空席状態を埋めなければと思ったのでしょう」
「いや、私は」
「大丈夫、私でも同じことをしますよ」
なぐさめられても、すっかり人間のつもりでいたジャケットクドージンは納得ができません。
「私がドールだというなら、私の知らない情報があるというのはおかしくありませんか。オリジナルデータは顔を合わせれば同期されるはずだ」
「執務室で会ったときですね。まだフェロモン酔いが残っていて、データが正しく同期されなかったのでしょう。あなたも頭痛を訴えていた」
「あ……」
「ややこしくなりそうだったので、ひとまず私がドールのフリをして引き下がったのですよ。切断音は腹話術です」
しゃべっている口の動きとは別のタイミングで、チュウンッと音がします。
「芸達者だな」
「……じゃあ今は? なぜドールであるはずの私は、こう長々と説明されなきゃ分からないでいるのです」
食い下がられるのを予想していたように、クドージンは自分のシルクブラウスを示しました。
「同期トリガーは見た目に関連して起動するようですね。全く同じ服装の自分を目にしたときだけ、同期セッションが始まるからくりでしょう」
「そんな……」
話のつじつまが鬼のように合っていき、ドールは頭を抱えました。
「私は、私が私であるということ以外分からない。私の一日が始まるのはフル充電された瞬間からなのだろうが、あなたに会って同期すれば、朝目覚めて、猫まんまを作り、いってきますをして出勤した記憶が上書きされるし、近頃のリューさんは本物にだってキスを迫るし」
「そうなのか」
「はあ。悪魔の魔法成分を抽出なさりたいとかで」
もじもじするオリジナルをよそに、ドールの自我は崩壊寸前です。
「ポケットに将軍のお煙草を入れておくのだって、私にとっては完全に自分の習慣だ。自分がオリジナルであることを、またはそうでないことを、何を根拠に判断すればいい」
「そんな必要はありませんよ。私だって本当はあやふやだ」
「……!」
「すみませんね」
オリジナル然としていたはずのクドージンは、ヒラヒラブラウスでお手上げのジェスチャーをしました。
「考えすぎる性格をこう生々しくコピーされては、すっかり自信がなくなりましたよ。自分は果たして人間か人形か。元が人形のような人間だったら、逆にしたって大した違いはないでしょう。私は自分を人間と思い込んだ人形で、とうに充電は切れているのに、将軍の魔力を受信して動きつづけている、なんてね」
「……私だって、あなたを信用できないのと同じくらい、自分が信用できない。いや逆だ。自分を信用しているから、あなたを信用してしまう。私の思考を高度に模倣したドールになら、論理で丸めこまれてもおかしくないと」
「もう双子の弟だとでも思えばどうだ」
離れた場所で将軍が言い、「それはいい」とクドージンの一方は笑いますが。
「……双子だって自我は別々です」
「そうでしょうかね。双子になったことはないが、入れ替わりごっこでふざけているうちに、彼らだって自信がなくなってくるのじゃないかな。でも、必ず見分けてくれる誰かがいれば」
揃って見回すと、面倒くさそうに待っている背中があります。
ジャケット着用のクドージンは、不安げに声をひそめました。
「……将軍は、本当に私たちを区別なさっているのでしょうか。適当に話を合わせているだけだったらどうします」
「さてね」
「だって、もしお分かりなら、どうしてすぐお前が人形だと教えてくださらなかったのか」
「我々に嘘をおっしゃることもあるでしょう」
「なぜ」
「森で私のポケットから持ち出された分が、もうないからだ」
ブラウスクドージンはつかつかと歩き、主の肩をつかみました。
「未成年者の喫煙はいけません」
「ゴホゴホ」
隠れて吸っていたつもりの将軍は、涙目で煙を払いました。
「チッ、規律バカが」
「特徴を見分けていただき光栄です」
おとなしく吸い殻を渡した魔女っ子ティーンは、プンとふくれて歩き出しましたとさ。
今度こそ、めでたしめでたし。
「ひとつ言っておこう」
ひらりと将軍が振り返ります。
「人形はお前だからな」
「そうですか」
「細かい決まりにとらわれるのは、非人間性のあかしだぞ」
「はいはい」
どっちのクドージンも、全然聞いていませんでしたとさ。
本当に、めでたしめでたし。
お付き合いありがとうございました!
続編もあります。冷酷王のスピーチ
他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
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