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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。

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大江戸870夜町(14)


 同じ頃、江戸城指令本部。
「あかん!」
 暴れん坊将軍は、パイプ椅子を倒して立ち上がりました。
 広域地図が広げられた大卓には、美剣士48のフィギュアが置かれています。
「どうなさいました、上さま」
「あかんあかん! ストレートの殿堂、公娼吉原を忘れとった!」
 少年たちも慌てて地図を囲みました。封鎖完了ポイントに置かれるはずのフィギュアが、一区画だけありません。
「ほんとだ」
「ついつい意識からはずしちゃうんだなぁ」
「僕らは用事ないもんねぇ」
「こんだけ探して見つからんとなれば、もうここで決まりや! 頼むで、吉原方面へ増員!」
 地図上の吉原に、小さな三白眼侍が置かれたそのとき。
「吉原に、何の御用どすのん?」
 陣がまえの幕屋を回って現れたのは、大奥を一手に仕切る上臈(じょうろう※役職のひとつ)、十和古局(とわこのつぼね)でした。
「あ、十和古やん」
 将軍はへつらうように立ちはだかります。
「こっちの話や。十和古やんには関係あらへんで」
「上はん。お小姓が足りてへんのどしたら、またいくらでもお世話しますえ?」
「い、いらんいらん。ワシ好みの子は十分揃ったわ」
「ほたら何で吉原やなんて」
 回り込んだ十和古は、すっと声を落としました。
「おなごはんとの交渉は一切禁止、このお約束忘れたとは言わしまへんえ」
「分かってるがな」
 将軍暗殺の混乱の中、行われた後継選びは難航しました。
 少しでも誰かにつながりの深い候補には執拗に反対意見が上がり、ちっとも会議が進まないのです。
 結局、誰もが「誰?」というナニワ松平家に白羽の矢が落ち着き、誰にとってもノーマークだった新将軍に、嵐のようなプレゼント攻勢が始まりました。
 いち早くホモ性を見抜いた十和古局が、美童を献上して勝ち抜けます。用人宿舎に大奥男子部を作ってもらい、首根っこを押さえられた将軍は、十和古が後見する八千菊丸を後継に指名するという密約を飲んで、暴れん坊ライフを楽しんでいたのでした。
 十和古は、大奥女中も増員させました。
 自分は長い寵愛リストの末端にいるのだと大奥の誰もが思っており、将軍が世継ぎ作りをしていないことは、慎重に隠されています。
 今や江戸は彼女のもの。十和古は満足げに地図を眺めました。
「吉原で捕り物どすか? いや楽しそう」
「そない大したことちゃうねん」
「このお人形、かいらしわー」
「触らんとってくれ」
 ピリピリと素っ気ない将軍に、十和古はぷっとふくれます。
「何しょうもな。うち現場行って見てこ。ちょっと、駕籠お願いー」
「ちょ、やめてーや。オカンに本気のおカズ見られるみたいで恥ずかしい、十和古やーん」



 一方、お尋ね者たちは移動方法に知恵をしぼっていました。
 華宮院衆が動いて、周辺を偵察します。
「吉原域外で、検問が整い始めています」
「駕籠の内部もチェックされるだろう。徒歩しかないぞ」
「どうにか変装しましょう」
 何より目立つ三白眼を隠さねばと、工藤が手ぬぐいを巻きつけますが。
「ヨロヨロしてるっスよ。前が見えてないんじゃ」
「若、心眼でお歩きください」
「あー足の小指打った」
「だめよ。こんなの怪しすぎ」
 ほっかむりを取りのけたのは劉です。
「変装のコツは、見る側に疑問を抱かせないことなの」
「なるほど」
「心理的盲目ってやつね。改めて人相を確認するまでもないと思わせるわけ」
「さすが劉さん」
 冬成はうっとり遠くを見ています。
「地下プロレスでの潜入取材を思い出すなあ。完全に謎のマスクマンになり切っちゃって。取材なのに優勝しちゃって」
「幸いここなら道具が揃ってるわ」
 陽光太夫の支度部屋へ走った劉は、両手いっぱいの衣装を抱えて戻りました。
「変装、というかもれなく女装になりますが」
「つべこべ言わない。さ、いらっしゃいシンデレラ」
「誰がシンデレラだ」
 かまわず劉が打ち掛けを広げると。
「んまあ、引きずり丈がぴったり」
「無理あるっスよー、こんなデカ女」
「花魁道中の高下駄を履けば大丈夫。デカい女のお練り姿は、ここらじゃ珍しくないはずよ」
「こ、これに高下駄を?」
「巨大すぎませんか」
「見物人の縮尺を狂わせて、ガタイの男っぽさをごまかすのよ」
「確かにデカーが先に立つっスね。肩幅とかより」
「おい、化粧はせんぞ!」
「衣紋とうなじは遊女コスの命~」
 ハケを構えた陽光太夫がじりじりと間合いを詰めてきます。
「ベースだけは白く塗ってちょうだい。顔はありったけのじゃらじゃらで隠しましょ。ほい、ほい」
 劉はかんざしを次々ウィッグに突き刺しました。
「すげ~、何かあれに似てるっスね。中国皇帝のスダレ冠」
「じゃ、チャイナ趣味のニューモードってことにするわ。江戸っ子は粋を解することに命かけてるから、新流行で押し切るわよ!」



 どーん、どーん。
 太鼓が鳴り、俗世と遊里を唯一つなぐ吉原大門が開きました。
「花魁道中だ!」
 出張営業のお練りに、通りがワッと沸き立ちます。
「今日のは一段と華やかだねえ」
「先導の下男が、二の四の六……」
「お大名並みの警護だぜ。くのいちまでいる」
「そしてそしてー」
「キタ主役! よっ花魁!」
「立派だねえ」
「てか、デカいよな」
「高下駄も高さを競う時代だから」
「顔もよく見えねえぞ。じゃらじゃらが邪魔で」
「ニューモードだね。中国皇帝風たぁ格式高えや」
「目鼻がほとんど隠れてるぜ」
「チラリズムさ。想像の余地ってやつよ」
「粋だねえ」
「粋だ粋だ」
 見物人のいきいき談義が落ち着く間もなく、御用あらためが吉原を急襲しました。
 派遣実態のない花魁道中が一組、大門を出たことが判明すると、すぐさま追撃隊が放たれます。
「花魁道中はどっちに行った!」
「ロボみたいにデカいやつ?」
「それなら、その角を曲がって」
「子供らが追いかけてったよ」
「よし!」
 十手衆は運河沿いの道を駆けました。
 柳の街路樹に見え隠れして、巨大ロボだー、ビーム出してーと子供たちにからまれている人影があります。
「そこの花魁髷、止まれ!」
「御用だ御用だ」
 けたたましい呼び子が響き、子供たちのテンションも上がりました。
「ロボ、敵襲!」
「撃て、ロケットランチャー!」
「んなもの搭載してないわよ」
 まとわりつく子を払いながら、劉はじゃらじゃら飾りをかき分けました。
「で? わっちにどんな御用でありんす?」



「ドラッグクイーンか」
「自称ジャーナリストとかで、表現の自由とか厄介なこと言い出してます」
「うーむ」
 装束もよく見れば色々中華風で、無認可花魁として引っ張ることもできず、白塗りの劉は無罪放免となりました。
 遠く山を仰げば、白い顔が夕日に染まります。
「あとは頼んだわ、冬成」
 冬成からざっと操縦を教わり、白塗りのまま着替えた桔梗介は、「羽ばたき1号」で夕焼け空へと飛びたったのでした。

第15話へつづく!)
 

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