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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)
全26話。第1話はこちら。
他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おこさまは よまないでくださいね。
大江戸870夜町(11)
劉とハルは通りを回り、路地から隠れ家にやって来ました。
工藤がハルを見つめます。
「君は、太鼓持ちのチャラ男くん」
「あ、布団部屋のお武家さま」
「そこも知り合い? 世間は狭いねえ♪」
吉澤は道具箱を漁り、次から次へ傷薬を放って寄越しました。
「刃物プレイの事故対応で、一応常備しててよかったなー♪」
「そうですね……」
劉たちの猫傷に、工藤が応急手当を施します。
「いたた……。で、次はどうするの?」
「劉さん。お尋ね者の我々に、本当に力を貸してくださるのですか?」
「当然でしょ。恩義があるもの」
「律儀なお方だ」
「俺も俺も! 力貸すっス!」
「かたじけない」
「いーんスよ」
ハルはキメ顔で首を振りました。
「お尋ね者には慣れてるっス。うちの陽光太夫もお尋ね者なんスよねー。官憲に追われてるとかって」
「あら、初耳だわ。売り出し中のキャンギャルにどんな前科が?」
ゴシップ誌もやってる劉が食いつきます。
ハルはふっふと笑いました。
「白塗りメイクは潜伏用の変装っス。何でも将軍の正体について、重大な秘密を知ってしまったとか」
「それ! 詳しく聞かせなさいよ! うまくすれば状況をひっくり返せるかも……!」
「遊びは吉原、太鼓は仁科、そおれそれっスー!」
ハルが駕籠を先導し、一行はお大尽の吉原入りを装って、花札屋に乗り込みました。
雅が飛び出して迎えます。
「何でえ何でえ、えらくド派手な団体客が着いたと思ったら、親方まで」
「ニャア、若旦那の膝でウトウトしてしまったニャ」
「逃亡者ご一行さま、陽光太夫にご指名っスー!」
「で、将軍の正体とは」
身を乗り出す一同に、太夫はニヤリと笑いました。
「いいの? 聞いたら私と同じ目に遭うわよ。抹殺命令下っちゃうわよー」
「ど、どうしようか」
「仲間ほしいから言っちゃお。将軍の正体は、大衆演劇・極楽座の座長。にせくじょうべそてそー」
「わっ、聞いちゃったっス! いっつもそこだけ耳ふさいでるのにー」
「贋九条」
「ベソテソ?」
「松平 九条丸弁天(くじょうまるべんてん)のもじりかしら。将軍就任前の前名よね」
「劉ぽん物知りー」
太夫は仲間が増えてご機嫌です。
「ベソテソ座長はベンテンさまのそっくり物真似で人気だったんだけど、私はその一座で、エキストラくのいちをやってたの。伊賀の里を飛び出して行く当てもなかったし、衣装は自前があったし」
「伊賀の里って」
「あんた本気のくのいちだったのか」
「なるほど、体術でかなわないわけですね」
工藤はひとりうなずいています。
陽光太夫、またの名を伊賀のヨコ丸、本名・伊賀岡陽子は続けました。
「ナニワ藩主であるベンテンさまが将軍に抜擢されて、ふざけた物真似芸は禁止になったの。興業は打ち切り、一座は解散。なのに座長だけ影武者の仕事にありついてんのーズルいーって言いに行ったら、べそっちょのくせに『ワシャ本物や』とか言うし、影武者のくせにめちゃくちゃ豪華なお弁当で」
「結局そこかよ」
「次期将軍として江戸に上る祝賀行列だったから、警護もすっごいピリピリしててさー。私がいつものようにちょんまげ持ってジョイスティックしたら、上さまに何をするーって大勢斬りかかって来て」
「あのう、太夫。それって」
「普通に無礼討ちなんじゃないの」
「えー?」
「だから、あんたの知ってるベソテソは本物のナニワ藩主だったのよ。変名でお忍びの芸人遊びをおやりだったんじゃ」
「あ……、ああー!」
「今ごろ腑に落ちたのね」
「ということは陽光太夫は単に、将軍のちょんまげをジョイスティックした不敬犯」
一同はガックリとヘたり込みました。
「使えない秘密でしたねー、あはは」
「じゃあ私、潜伏しなくてよくなった?」
陽光太夫はまだ首をひねっています。
「バカね、不敬の罪は大罪よ。死ぬ気で逃げなさい」
「まあ、足抜け忍者だからもともと逃げてるしー」
「めげない子ねえ。ダブルの追っ手をどうやって振り切ったのよ」
「大阪港で船にもぐりこんだー。でもその船、樽廻船だったの」
灘の樽酒は必ず江戸に送られます。
「結局お膝元に来ちゃったわけか。樽廻船ってあちこち寄港するんでしょ。途中で下船するとかしなさいよ」
「ちょっと酔っちゃってて。……船に」
「飲んでたのね。積み荷を」
「江戸入港の時に空樽がゴロゴロ見つかってー。無銭飲食で通報されかけてー。しょうがないからビーチでやってた新酒陸揚げイベントに飛び入り参加してー」
「すごい飲みっぷりだったんで、その場でキャンギャル契約したんス」
ハルは酒造メーカーの長男です。
「おや、てっきり専門の太鼓持ち君だとばかり」
「異業種での現場修行はうちの家訓っス。今は吉原で営業トークの勉強中っスよ」
「そうそう。感心なのよ、ここんちの兄弟って」
「劉さん、身の上話でほっこりしてる場合ですか」
襖のスキマから坊主頭を突っ込んだのは。
「あー、冬成!」
「あんた、一体何やってるの!」
「取材ですよー。兄ちゃんが見学に来ていいって言ったからー」
「子供がこんなとこへ、こんなとこへ!」
「いたいよ劉さーん」
両耳をつかまれた冬成は、言葉攻めやら体位やら、官能ネタがびっしり書かれた取材メモをわさわさと落とします。
その中の一枚が、ひらりと畳を滑りました。
「あら、これって樋口さま?」
「道で配ってた手配書です。ほっこりしてる場合じゃないんですってば」
クレオによる激似スケッチは見事な三白眼を再現しています。工藤も感心して手に取りました。
「なかなかの腕前だ。ご表情からしてこれは、春に梅林でボーッとなさってた時のものですね」
「あんたも大概だな工藤さん」
「罪状は、“上さまをドキューンのキュピーンでヘロヘロにせし罪……”何のことでしょう」
「あれー」
陽光太夫が考え込んでいます。
「昔、べそっちょが男口説く時そう言ってたような。華奢で控えめで奔放かつ品のあるタイプが好みだったはずだけど、趣味変わったのかなー」
「どういうことです」
「べそっちょはホモなの。樋口さまのこと気に入ったんじゃないかな」
「つまりこの手配書は」
「シンデレラ探し……」
(第12話につづく!)