管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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サミー・エバーパインの逆襲(4)
「か、神さまーー?!」
リューの悲鳴に周囲もどよめきます。女はブルブルと首を振りました。
「神さまなんて、やめてやめて! トキちゃんでいいです」
「このコ、神さまだってことは否定しないわよ! 本当なのクドージン? 私神さまをナンパしかけたの? なんでトキなの?」
「リューさん落ち着いて下さい。まさかとは思いますが、時を司るから?」
「ダ、ダジャレ?」
トキはプンスカして腰に手を当てます。
「もー。ダジャレは呼び名と本質を結びつける、立派な認識哲学ですよー」
「ダジャレなのは認めるんだ」
「なるほど、時か……」
クドージンが頭を抱え、リューも胸を押さえてうなずきました。
「将軍が敵わないはずだわ。四大元素を意のままにできても、時間は操れないものね」
「ええ。何をやっても完敗でした。魔導原理に細工してから忍び込むんですが、あと一歩というときに決まって将軍は手が出せなくなって」
「あの、間違えないでほしいんですけど」
トキはゆっくりと歩き始めました。
「時を司ると言っても、私は時間を都合よく書き直したり歪めたりしません。私は確率」
「確率?」
周囲には官能小説キャラの人垣ができており、平服のトキは妙に浮いています。
「宇宙に起こる出来事を、起こる確率の高いほうへ、ありがちにありがちに整えるのが私の仕事。みなさんは、春の次には夏が来るって普通に思ってるかもしれないけど、宇宙って割とひっちゃかめっちゃかでね。春の次に真冬が来たり、上野駅の次がボラボラ島だったり、1ページ目をめくったら32ページだったりってことが簡単に起こるの。それは、きちんと時空を限定してやらないからよ」
「はあ」
人々は何となく引き込まれて聞いています。
「時空を限定すると、どうなります」
「その場に時が流れ始めるわ。時が流れるところには、因果がある。ものごとの理屈よ。急に冬になったのは新氷河期が始まったからだろうし、上野からチョー長い海上路が開通しないとは限らないし、マジすかってくらいの落丁がまかりとおる出版社も確率としては存在しうるって、言い張れるようになるわけよ」
「い、言い張っておわり?」
誰の頭にも「屁理屈」という言葉が浮かんでいます。しかし、誰が神さまに突っ込めるでしょう。
「あの、メチャクチャが起こったことは正さなくていいんですか」
「起きてしまったことを取り消したりは私にもできません。ものすごく確率の低い出来事であることをはっきりさせて、時空下の因果を保つの」
「はあ」
「因果というものも、本当は認識の錯覚なんだけどね。一方向にしか流れない時間の矢に支配されたあなたたちには、出来事が必ず過去に起因してるってことにしたほうが都合がいいわけ」
「分かりません」
「認識ってそういうものよ。私も証明してあげられないわ」
「へえ……、あれ」
人々が我に返ると、魔法で変化していた体が、ただのキャラコス衣装に変わっています。人間以外の生物になっていた人も、ウレタンマスクをもぞもぞと脱ぎました。
「これだけの人数が、魔法でポンと変身しちゃうなんて錯覚よ。ありがちに考えて、コスプレフェスくらいにしといて下さい」
「なかなか面白い解呪だわ」
リューはホウとため息をつきました。
「使う言い回しが違うだけで、これも一種の魔法なのかもね」
「あのう、俺戻らないっスー」
ニッシーナが泣き声を上げました。
「ウロコ模様はボディペイントになってて、こすれば落ちるんスけど、シッポが」
ニッシーナの尻で短いシッポがのたうっているのに、トキは平然としています。
「大丈夫、ありがちありがち」
「どこがスか!」
「胎児には一時期シッポがあるし、そのまま産まれちゃう確率もとっても低いながらあるものよ」
「そんな強引なー!」
「何か彼女タイプだわ~」
クスクス笑いながら、リューはニッシーナの肩を叩きました。
「いいじゃない。前の存在感が薄い分、後ろでカバーなさい」
「前後モッコリなんて新幹線みたいで嫌っスよー」
トキはニコニコと人垣を巡って行きます。と、バニーガールの前で立ち止まりました。
「猫かぶりさん、見ーつけた」
「え、僕は」
ヨシザワス王はとっさに食い込みを直します。
「もう大人だし、かぶってませんよ」
「トボけてもだめです。ここにいる誰もが本来の自分に戻ったのに、あなただけ分厚い猫をかぶったままでしょ。ウサギ耳とキツネ目の下に、相当な悪魔の貌を隠してるわね」
「まあ、よく言われるけど」
「じゃ、行きましょうね」
トキがツンとして歩き出すと、王はフラフラと後に従いました。
「どうしたの、王さま」
「何だか逆らえないんだ……、有無を言わせない感じ、こうなることが当然みたいに」
「ありがちパワーだ」
「王の正体は人間になりすました悪魔だった。ウーン、いかにも民話のパターンネ」
「ちょっとそこの女神さま。あんまり茶化すと、あなたの存在だけ夢オチにしちゃうわよ」
「ヒイー! だから来たくなかったヨ!」
「ふざけたファンタジーキャラの宿命です。だから、皆さんは大丈夫なの」
トキは群衆の方に笑顔を向けました。
「真面目に人間やってる皆さんの記憶や歴史を改竄したりしないわ。悪魔さんにはちょっとお仕置きするだけ」
「お仕置きなら、されるよりするほうが得意です」
「さあさあ観念して。また一万年ぐらい地底にいなさいね」
「ちょ、一万年って!」
「今度は封呪キーワードを変えるから、いくらブヨピヨって言ってもダメよ」
「ちょっと待ってよ、誰か~」
視線をそらし合う群衆が、冷酷王がいなくなるのはちょっと有難いな、と思っていたそのとき。
「神さま、どうか私もお連れください!」
声を上げたのはクドージンでした。
「あら、クドージンさんは悪魔に使役されただけでしょ。許してあげますよ」
「いえ神さま、私は立派な共犯です。流星のノイズに紛らせて主を地上に逃がしたのは、私なんです」
トキはむっとして考え込みます。
「それで転送波動を聞き逃したのね……。じゃ、ついてらっしゃい」
「喜んで!」
クドージンは駆け足でヨシザワス王に追いつきます。
「どこまでもお供いたしますよ、将軍。私はあなたのしもべですから、将軍」
「てめー、顔が笑ってるぞ。僕を身代わりにして天使将軍を逃がす気だな。これがお前の復讐か」
「何をおっしゃるやら、しょーぐん」
リューはたまらず飛び出しました。
「待ってちょうだい! 彼は違うのよ」
「リューさん、黙っていてください」
「見過ごせないわクドージン。トキちゃん、分からないの? 確かにヨシザワス王は悪魔級のドSだけど、世界征服なんて大それたことできゃしないわ」
「いいえ」
トキは頑固に首を振ります。
「これって危険人物にありがちな偽装です。一見大人しそうなルックスにだまされちゃいけないの」
「もー!」
リューは地団太を踏みました。
「神さまっても全知全能じゃないのね。だから将軍もつい勝てそうとか思っちゃうんだわ。古風で常識から判断しがちで結構抜けてて、くーっ、ますますタイプ」
「あのー神さま。お仕置きって、反省させるのが目的ですか?」
人垣からぴょこんと坊主頭がのぞきました。
「フューナリー、こんなときに何だよ」
「僕はずっと不思議だったんだ。神に背いた反逆天使が、どうしてただ封じられるだけで消滅させられずにいたのか。天使将軍は、四大元素の主であるがゆえに、この惑星の存続に欠かせない、要のような存在なんじゃないかな。抹殺刑になんかできないんでしょう。違いますか」
トキはこくりとうなずきます。
「そうよ。ミミズと混ぜて地球の肥料にできたら一番なんだけど」
「僕以上のSっ気ー!」
「あの! どんなに長く閉じこめたって、この人は反省なんかしませんよ。僕に任せてもらえませんか」
フューナリーはそう言って、ヨシザワス王の前に進み出ました。
(第五話につづく!)
「か、神さまーー?!」
リューの悲鳴に周囲もどよめきます。女はブルブルと首を振りました。
「神さまなんて、やめてやめて! トキちゃんでいいです」
「このコ、神さまだってことは否定しないわよ! 本当なのクドージン? 私神さまをナンパしかけたの? なんでトキなの?」
「リューさん落ち着いて下さい。まさかとは思いますが、時を司るから?」
「ダ、ダジャレ?」
トキはプンスカして腰に手を当てます。
「もー。ダジャレは呼び名と本質を結びつける、立派な認識哲学ですよー」
「ダジャレなのは認めるんだ」
「なるほど、時か……」
クドージンが頭を抱え、リューも胸を押さえてうなずきました。
「将軍が敵わないはずだわ。四大元素を意のままにできても、時間は操れないものね」
「ええ。何をやっても完敗でした。魔導原理に細工してから忍び込むんですが、あと一歩というときに決まって将軍は手が出せなくなって」
「あの、間違えないでほしいんですけど」
トキはゆっくりと歩き始めました。
「時を司ると言っても、私は時間を都合よく書き直したり歪めたりしません。私は確率」
「確率?」
周囲には官能小説キャラの人垣ができており、平服のトキは妙に浮いています。
「宇宙に起こる出来事を、起こる確率の高いほうへ、ありがちにありがちに整えるのが私の仕事。みなさんは、春の次には夏が来るって普通に思ってるかもしれないけど、宇宙って割とひっちゃかめっちゃかでね。春の次に真冬が来たり、上野駅の次がボラボラ島だったり、1ページ目をめくったら32ページだったりってことが簡単に起こるの。それは、きちんと時空を限定してやらないからよ」
「はあ」
人々は何となく引き込まれて聞いています。
「時空を限定すると、どうなります」
「その場に時が流れ始めるわ。時が流れるところには、因果がある。ものごとの理屈よ。急に冬になったのは新氷河期が始まったからだろうし、上野からチョー長い海上路が開通しないとは限らないし、マジすかってくらいの落丁がまかりとおる出版社も確率としては存在しうるって、言い張れるようになるわけよ」
「い、言い張っておわり?」
誰の頭にも「屁理屈」という言葉が浮かんでいます。しかし、誰が神さまに突っ込めるでしょう。
「あの、メチャクチャが起こったことは正さなくていいんですか」
「起きてしまったことを取り消したりは私にもできません。ものすごく確率の低い出来事であることをはっきりさせて、時空下の因果を保つの」
「はあ」
「因果というものも、本当は認識の錯覚なんだけどね。一方向にしか流れない時間の矢に支配されたあなたたちには、出来事が必ず過去に起因してるってことにしたほうが都合がいいわけ」
「分かりません」
「認識ってそういうものよ。私も証明してあげられないわ」
「へえ……、あれ」
人々が我に返ると、魔法で変化していた体が、ただのキャラコス衣装に変わっています。人間以外の生物になっていた人も、ウレタンマスクをもぞもぞと脱ぎました。
「これだけの人数が、魔法でポンと変身しちゃうなんて錯覚よ。ありがちに考えて、コスプレフェスくらいにしといて下さい」
「なかなか面白い解呪だわ」
リューはホウとため息をつきました。
「使う言い回しが違うだけで、これも一種の魔法なのかもね」
「あのう、俺戻らないっスー」
ニッシーナが泣き声を上げました。
「ウロコ模様はボディペイントになってて、こすれば落ちるんスけど、シッポが」
ニッシーナの尻で短いシッポがのたうっているのに、トキは平然としています。
「大丈夫、ありがちありがち」
「どこがスか!」
「胎児には一時期シッポがあるし、そのまま産まれちゃう確率もとっても低いながらあるものよ」
「そんな強引なー!」
「何か彼女タイプだわ~」
クスクス笑いながら、リューはニッシーナの肩を叩きました。
「いいじゃない。前の存在感が薄い分、後ろでカバーなさい」
「前後モッコリなんて新幹線みたいで嫌っスよー」
トキはニコニコと人垣を巡って行きます。と、バニーガールの前で立ち止まりました。
「猫かぶりさん、見ーつけた」
「え、僕は」
ヨシザワス王はとっさに食い込みを直します。
「もう大人だし、かぶってませんよ」
「トボけてもだめです。ここにいる誰もが本来の自分に戻ったのに、あなただけ分厚い猫をかぶったままでしょ。ウサギ耳とキツネ目の下に、相当な悪魔の貌を隠してるわね」
「まあ、よく言われるけど」
「じゃ、行きましょうね」
トキがツンとして歩き出すと、王はフラフラと後に従いました。
「どうしたの、王さま」
「何だか逆らえないんだ……、有無を言わせない感じ、こうなることが当然みたいに」
「ありがちパワーだ」
「王の正体は人間になりすました悪魔だった。ウーン、いかにも民話のパターンネ」
「ちょっとそこの女神さま。あんまり茶化すと、あなたの存在だけ夢オチにしちゃうわよ」
「ヒイー! だから来たくなかったヨ!」
「ふざけたファンタジーキャラの宿命です。だから、皆さんは大丈夫なの」
トキは群衆の方に笑顔を向けました。
「真面目に人間やってる皆さんの記憶や歴史を改竄したりしないわ。悪魔さんにはちょっとお仕置きするだけ」
「お仕置きなら、されるよりするほうが得意です」
「さあさあ観念して。また一万年ぐらい地底にいなさいね」
「ちょ、一万年って!」
「今度は封呪キーワードを変えるから、いくらブヨピヨって言ってもダメよ」
「ちょっと待ってよ、誰か~」
視線をそらし合う群衆が、冷酷王がいなくなるのはちょっと有難いな、と思っていたそのとき。
「神さま、どうか私もお連れください!」
声を上げたのはクドージンでした。
「あら、クドージンさんは悪魔に使役されただけでしょ。許してあげますよ」
「いえ神さま、私は立派な共犯です。流星のノイズに紛らせて主を地上に逃がしたのは、私なんです」
トキはむっとして考え込みます。
「それで転送波動を聞き逃したのね……。じゃ、ついてらっしゃい」
「喜んで!」
クドージンは駆け足でヨシザワス王に追いつきます。
「どこまでもお供いたしますよ、将軍。私はあなたのしもべですから、将軍」
「てめー、顔が笑ってるぞ。僕を身代わりにして天使将軍を逃がす気だな。これがお前の復讐か」
「何をおっしゃるやら、しょーぐん」
リューはたまらず飛び出しました。
「待ってちょうだい! 彼は違うのよ」
「リューさん、黙っていてください」
「見過ごせないわクドージン。トキちゃん、分からないの? 確かにヨシザワス王は悪魔級のドSだけど、世界征服なんて大それたことできゃしないわ」
「いいえ」
トキは頑固に首を振ります。
「これって危険人物にありがちな偽装です。一見大人しそうなルックスにだまされちゃいけないの」
「もー!」
リューは地団太を踏みました。
「神さまっても全知全能じゃないのね。だから将軍もつい勝てそうとか思っちゃうんだわ。古風で常識から判断しがちで結構抜けてて、くーっ、ますますタイプ」
「あのー神さま。お仕置きって、反省させるのが目的ですか?」
人垣からぴょこんと坊主頭がのぞきました。
「フューナリー、こんなときに何だよ」
「僕はずっと不思議だったんだ。神に背いた反逆天使が、どうしてただ封じられるだけで消滅させられずにいたのか。天使将軍は、四大元素の主であるがゆえに、この惑星の存続に欠かせない、要のような存在なんじゃないかな。抹殺刑になんかできないんでしょう。違いますか」
トキはこくりとうなずきます。
「そうよ。ミミズと混ぜて地球の肥料にできたら一番なんだけど」
「僕以上のSっ気ー!」
「あの! どんなに長く閉じこめたって、この人は反省なんかしませんよ。僕に任せてもらえませんか」
フューナリーはそう言って、ヨシザワス王の前に進み出ました。
(第五話につづく!)
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