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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)
全26話。第1話はこちら。
他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おこさまは よまないでくださいね。
大江戸870夜町(8)
その頃。とある門前。
「お座敷の修理に参りやしたー」
雅が取り決めどおりに呼びかけると、くぐり戸から工藤が顔を出します。
武家屋敷と比べものにならない気安さは、桔梗介が借りている町家でした。
「よお、工藤さん。昨日の今日だがちょっといいか」
「はあ。どうも」
いぶかしげな工藤は、雅ではなく、後ろの陽光太夫に会釈しました。
「すまねえ。仕事の現場をあっさり見つかっちまってよ」
「口止めされたから大丈夫ーニンニン♪」
「くのいち、ですよね……」
ポニーテールに黒チュニックの陽光太夫は、太もも丸出しのミニ丈スリットをモジモジといじっています。
「おじさんが、遊女衣装じゃお武家の家に連れてけないって言うからー。黒とか目立たない色にしろって」
「その露出では目立つも目立たないも」
工藤は周囲を警戒しながら二人を招き入れました。
「陽光太夫、ずっと気になっていたのですが」
「も、もう告白なの? これが太もも効果?」
「すぐ主に取り次ぎますので、落ち着いてお待ちを」
ペースを取り戻せない工藤は、強引に話を進めます。
「あなたは初対面から私の名をご存じだった。私は、名乗った覚えはないのですが……」
「三白眼のお兄さんに工藤って呼ばれてるとこ、何度か見かけたからー」
「それを、覚えておられたんですか」
「すげえぜこの人ぁ。何でもお見通し、お天道さま陽光太夫さまよ」
「あと別の日に、樋口家の使用人が噂してた。工藤って近習が若さまとラブラブで困るって」
「じ、事実無根です」
「なんだー。男色どっぷり侍を女狂いにしてやったら面白そーって思って、布団部屋にご招待したのに」
「悪戯心でしたか」
工藤の表情が緩みます。
「急にモテた訳ではなかったのですね」
「やだ、モテたんだってばー。からかいたいイコール、好き・ヤりたいの二乗よー」
「どんな円の面積ですか」
「あなた、よくからかわれるでしょ。ソレみーんな、くどりんとヤりたいって思ってる人よ」
「違います。違うと思いたい……」
工藤は苦悩しながら母屋へ戻り、雅がすまなそうに追いかけました。
「当てもなくこいこいの間を張ってるより、あの人に聞いたほうが早くねえかと思って連れてきたんだ。もちろん、何を探ろうとしてるかなんてことはまだ話してねえぜ。追加の口止め料でもはずんでもらえりゃと思ったんだが……」
雅は肩越しに振り返りました。門の板戸でモデル立ちした太夫は、太もものベストな角度を模索中です。
「どうやら太夫、工藤さんにホの字みてえじゃねえか。ちょちょっと可愛がって味方につけりゃどうだ」
「ちょちょっとが通用する相手かどうか。かなり手強い寝技師でして」
「へえ、もうそういう仲なのかい」
「ほう、もうそういう仲なのか」
縁側に桔梗介が立っています。
「若……!」
「お前にしては珍しいな」
桔梗介は伸び上がって網代垣へ呼びかけました。
「おーい女、工藤の情婦なら信用しよう。庭へ通れ」
「キャハ、そうですくどりんとはすっかりねんごろです。お邪魔しまーす」
陽光太夫は飛び石をスキップでやってきます。
「お家の秘密をよそへ漏らすようなことしませんわー。だってくどりんとはもうあんなこともこんなことも、いずれする予定の仲だものー。ねっ」
「善処します……」
主からこうも無条件で信用されていることに、まずはキュンとしてしまう忠義者でありました。
「初めまして。伊賀のヨコ丸25歳、得意な忍法は太もも固めですニンニン」
「……」
「くどりんこの人、ノリ悪ーい」
縁側を挟んで正対する二人を、工藤はあたふたと引き離しました。
「私ども武士ですので、ノリとかを期待されましても」
「くどりんの反応は可愛いのー。この人可愛くない」
「早速ですが本題に」
工藤は陽光太夫を縁側の端に座らせます。
「監視対象は、華宮院の用人衆による宴会です。何かご存知でしょうか」
「あー、いつも隣の座敷と合流する人たちね。妖怪マニアの」
「妖怪マニア?」
んっんとうなずいた太夫は、生足をブラブラさせました。
「隣の座敷って七色カッパの会とかいう集団よね。華宮院の人たち、カッパ素晴らしーとか、カッパお見事ーとかいつも絶賛あびせてるわよ。カッパのファンなんじゃない」
「……お座敷遊びが盛り上がっているということでしょうか。ジャンケンカッパ飲みとか」
「そういえば、ジャンケンカッパ飲みに誘ったけどあんまりハジケなかったわ。あれね。本気のカッパにとっては屈辱的なのね」
桔梗介が眉の端をピリつかせているのが、工藤には手に取るように分かります。
「整理させてください。カッパ会の彼らはその、見た目もカッパなのではないですよね?」
「ん。くたびれたおじさんばっかよ。ちょっと職人風。きっと上手に化けてるのね。あれ? 化けるのはタヌキだったかしら」
「おい、さっきからこのバカは何を言っている」
「バカってどういうことくどりんー」
ソリの合わなさを直感する二人は目も合わせず、工藤は板挟みです。
「若、ご辛抱を。太夫、見たままをおっしゃってくだされば結構ですよ。分析はこちらでいたします」
「んとねー、華宮院の人が何か贈り物をあげてた。しりこ玉とかって」
「しりこ……ですか」
「なるほどカッパだけにな。冗談か。笑うとこか」
桔梗介は剣台に掛けた愛刀をチラチラ見ています。
抜刀までおよそ五歩と読んだ工藤は、ガバと縁側に平伏しました。
「ですが若、カッパは動かしがたいのです。予約簿にもはっきり“七色カッパの会”とございまして」
「くどりん、花札屋の帳簿を見たの? どうやって?」
「従業員のひとり風な態度で紛れ込むと、結構バレません。地味なもので」
「はっはあ、それであんなに詳しかったわけかい。地味も使いようだな」
太夫を連れてきた責任のある雅は、むりやり声をはずませました。
「そうだ。予約の客をどう呼ぶかってなぁ店側の勝手な符丁だったりするぜ。帳簿にカッパとあったって、本人たちがそういう名だとは限らねえ」
「そうですね。山さま川さまで構わないとも聞きました」
「そーいうわけで、やっぱ地道に座敷を張ることにするぜ。じゃあなー」
雅は太夫の手を引っ張って強引に行きかけました。
「あん、帰るならひとりで帰ってよ。私はくどりんと忍者ごっこー」
「ばか、樋口さまが刀取りに行ったぞ」
「離してよヘンタイ、助けてくどりーん」
「何とかしてくれ、色男」
「私からもお願いします。今日のところは一旦お引き取りいただき」
「出張コスプレってことで出てきたろ。店外営業は店のもんと一緒に戻るのが規則だぜ」
「出て姫稼業ツラーい。くどりん、早く身請けしてねー」
太夫はニンニン言いながら引きずられていきました。
「……身請けに藩金は出せんぞ」
「若、これには色々と」
「よい。趣味にまで口は出さん。全く変わった趣味だが」
首を振り振り、桔梗介は愛刀の手入れで心を静めるのでした。
(第9話へつづく!)