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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。

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大江戸870夜町(6)


 日は昇り。
 樋口家上屋敷の自室で目覚めた桔梗介は、工藤に急かされて床を出ました。
「叔父貴は」
「ただいまご登城のお支度中でいらっしゃいます」
 現当主、樋口和之進は、ちょうど参勤交代で江戸にいました。在府中の大名は多忙を極めるため、会見するなら朝一番につかまえるしかありません。
 身支度を整えた桔梗介は、書院の縁先に膝を付きました。
「叔父上」
「桔梗介。昨夜はここで休んだのか」
 和之進が首を伸ばします。正装の着付けは数人がかりで、お殿さまはされるがままです。
「夜のうちに顔ぐらい見せい。久しぶりにお前と飲みたかったぞ。大方工藤が止めたのだろうが」
 端近に控える工藤が頭を下げました。
「晴れのご登城のさまたげになってはと、浅慮を申し上げまして」
「まあよい。桔梗介が嫡男の義務に目覚めたのなら、お前の生真面目が伝染ったのだろうよ」
「は……?」
「叔父上?」
 和之進もきょとんとして二人を見比べました。
「ここへ移るという挨拶ではないのか。管理をお前たちに任せられれば俺も」
「藩邸には住みません」
 江戸屋敷の管理は本来嫡男の仕事なのですが、桔梗介は勝手に町家を借りて住んでいるのでした。
「桔梗介、いらぬ気をつかうなというのに。幕府のおとがめは先代のみ。嫡男は変わらずお前だぞ」
 桔梗介の父親は、素行不良をとがめられて蟄居処分とされていました。穏健派の弟、和之進がいったん家督を預かることで、お家断絶は免れたのです。
「よい契機です、叔父上。樋口の家は、このまま血筋を転じるべきかと」
「それを決めるのはお前ではない」
「理屈は通っているはずです。叔父上もまだお若い」
「若いと言えばお前の方だ。早う身を固めよ」
 桔梗介は面倒くさそうに眉間をさすりました。
「お説教はまたいずれ」
「席を設けても聞かぬだろう。今言わせい。衆道にばかりかまけていては本末転倒だぞ。まずはお家の安泰、男同士のアレコレはそのあとでも」
「何のお話ですか」
「工藤がよほどいいのだろう」
「そうです」
「っふ」
 後ろで工藤がむせています。
「若、そこは面倒がらずに訂正を……」
「屋敷の管理は、俺より斗貴が適任です。婿養子を入れるなり何なりすればいい」
 桔梗介は、ズバリと本題を切り出しました。
「斗貴を、大奥にやるおつもりですか」
「耳に入ったか。こたびの規制緩和で、うちのような小家にもお城づとめの門戸が広がってな。面接重視のAO選考で広く人材を募るらしい。呉服屋に言って、面接映えのする勝負晴れ着を仮縫い中だ」
「その話、しばしお止め置き願います」
「何ぞあるか」
 桔梗介の沈黙に、和之進はお付きの者たちを退室させました。
「申せ」
「華宮院が妙な動きを……」



 華宮院は格式の高い山寺で、武装した用人を抱えており、警備の行き届いた蟄居幽閉先として、身分の高い罪人を預かることもありました。
 樋口之将(ゆきまさ)もここにいたのですが、ある夜、警備がうっかりしているうちにうっかり賊が忍び込み、之将はうっかり殺されてしまったのでした。
「うっかりが禍根を残したか」
 和之進は、着付けの踏み台にやれやれと腰掛けました。
「あれは強盗に入られたことにすると、華宮院も同意したはずだったろう。お前だって物証は残していない」
「あー、何度も申しましたが叔父上、俺は殺していません」
「分かった分かった。そういうことにしておくんだったな」
 桔梗介はギリと奥歯を噛みしめます。
 警備にしばらく「うっかり」してもらい、その間に之将を連れ出す、礼金もそれなりに……、という門跡(=寺の主)との取り決めは和之進も承知のことでしたが、ちょうどサプライズ夜這いにやって来た門跡の情人(いろ)に出っくわし、勢いのまま斬り合いになったとか、その情人が金髪の異人だったとか、もー桔梗介には説明が面倒くさすぎるのでした。
 和之進はじっと宙をにらんでいます。
「あれ以来、樋口家と華宮院は腹を探り合いながらの緊張関係にある。すでに十分な手勢を持つ華宮院が、外部の武装集団を雇うのであればその目的は」
 無言の甥を数瞬見つめ。
「大がかりな襲撃……自らの手は汚さずに、か」
 桔梗介はきりりとうなずきました。
「くだんのカッパ会とか申す集団、性質はいまだ不明です。信用できる者に探らせておりますが、大奥入りなど派手なイベントは、人出入りのスキを狙われるおそれがあり」
「うむ。しばし様子を見るか。華宮院とは下衆な取引を飲んだ者同士、互いに口をぬぐって収まる話と思っていたが」
「……怒っているのかもしれません。騒ぎのせいでオトコが寄りつきにくくなったから」
「工藤、お前まで何だ」
「差し出口を」
 工藤は板の間で平伏し、和之進は長袴をたくしあげて広縁へ出ました。
「お前はあの夜、逃走経路の確保にあたっていたのではなかったか。現場で起こったことを見てはおらぬのだろう」
「は。推測にすぎませぬ」
「ではお前、桔梗介の世迷い言を信じておるのか。金髪男だの尼どのの情人だの」
「作り話にしてはシュールすぎましょう」
「忠義よのう。これだからお前たちを別れさせることができぬ」
 和之進は、しみじみとカップルを見比べます。
「殿、そのことについてぜひお話が」
 言いかけた工藤の言葉は、どやどやとやって来た従者たちにかき消されました。
「殿、もうご出立の刻限です」
「食パンくわえて出ていただかねばヤバいです」
「おっと。遅れたらうちのような小家は順番を飛ばされてしまう。また何かあれば知らせよ」
「……は」
 誤解を解ける日は来ないかもしれないと、胸中で覚悟を決める工藤でありました。



 その頃。江戸城大広間。
 重要度の低い者から始まる謁見の議が、すでに分刻みで進められていました。
 御簾の前でお側用人が声を張り上げます。
「エジプト国フィギュア師クレオ。面を上げい」
「えーと、ハハーイ」
 這いつくばっていたクレオは、くいっと首をそらしました。
 まんま牝豹のポーズでしたが、用人はちゃっちゃと進めます。
「このたびそちが献上のフィギュア、BKC(美剣士)48。上さまにおかれては、ええ出来ィや。気に入ったでぇ。との仰せであるぞ」
「あーアリガト」
「特にこの三白眼の彼がたまらんねぇん。脱衣バージョンも欲しなるわぁ。とのお言葉である」
「あのー、将軍サマ」
 クレオは膝立ちになって呼びかけました。
「言葉分かりにくいネ。中継ぎ入ると気持ち悪いイントネーションなるヨ」
「直答ひかえいっ!」
 制止棒を突きつけられ、クレオはヒュッと口笛を鳴らします。
「オシリス、アヌビス、お侍と遊ぶネ」
「うわあ!」
 開け放しの広間に飛び込んできたのは、猛禽型のからくりヘリでした。猛禽のカギ爪につるされた黒犬ロボットが解き放たれると、朝礼に野良犬が乱入したような騒ぎです。
「こしゃくなテロを!」
「規制緩和に乗じてまんまと御前に」
「上さまを守れ!」
 大混乱の謁見の間を、クレオは涼しい顔で縦断しています。ずんずんと御簾に近づき、胸の谷間から取り出したのは武器ではなく、注文伝票のメモボードでした。
「カスタムオーダーは直接承るのがポリシーヨ。伝言ゲームみたいな間違いオーダーしたくないネ」
「見上げた心がけや。苦しゅうないで、近う寄り」
 御簾をめくって現れたのは、ナニワ松平家という小家から出た初の将軍、徳川 豊茂家(ほもいえ)でした。
「なりません、上さま!」
 将軍は主座の段差によいしょと腰かけます。
「そない大層にせんでもええやろ。ワシもまどろっこしなー思とったんや」
「上さま、僕らお側用人のこと、そんな風に?」
「上さまぁ」
 美少年ばっかりの側用人に取り囲まれ、将軍はひとりひとりアゴの下をコチョコチョしてやりました。
「ちゃうがな。趣味全開のオーダーは非オタに聞かれたないもんや。みな暫時控えといてんか」
「はぁい」
 少年たちはクスクス笑って離れましたが。
「半裸寝そべり、ふんどしワッショイ、汁出る仕様、毎度ありネ」
 オーダーの復唱が丸聞こえで、少年たちは揃って口をとがらせました。
「上さまぁ。お人形がそんなにイイの?」
「生身の僕らじゃもうダメなの?」
「夕べだって」
「あー、ちょっと調子悪いだけや」
 やつれ気味の将軍は、しょんぼりため息をつきました。
「高レベルのハーレムも考えもんやで。自分好みの子を揃えられる反面、驚きがあれへん。それに引きかえ」
 震える指が、クレオのラフ画をなぞります。
「この衝撃、すでにガクガクや。ドキューンのキュピーンでヘロヘロや。ワシ、二次元の世界に行ったきりになってしまうんやろか」
「ん? これ確か実在のモデル使ったネ。女ドールは私なりの理想像追求するガ、メールタイプはどうでもいいヨ。通行人を丸ままラフに起こしたはず」
「ど、どこの誰や!」
 クレオはパラパラとスケッチブックをめくりました。人物に背景が添えられているページはわずかです。
「ヤローをスケッチした場所いちいち覚えてないネ。人が一定時間静止してくれるとこなら茶屋の店先バーゲン会場、どこだって」
「端からシラミ潰しや! 探し出すでー、ワシの三次元ラブ!」
 スケッチブックを高く突き上げると、少年たちが駆け寄ります。
「上さま、元気出たぁ」
「新人スカウトなら任せて」
「リア充で男性回復!」
「……最後は利害が一致するカラ驚きヨ」
 クレオはため息をつき、猛禽ヘリと黒犬ロボットを呼びよせました。
「わんわん」
「くっくー」
 お腹のスイッチで攻撃モードをオフります。
「お前たちシンプルでいいネ。ヒトの煩悩スイッチ不可解ヨ。あ、円陣組んだ」
「暴れん坊将軍ーファイッ、おー!」

第7話へつづく!)

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