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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージは記事付属コメントかページ最下段のフォームどちらでもどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。


大江戸870夜町(5)


「じゃ、僕はここでー♪」
 情報屋の吉澤は、報酬を受け取って殺気をおさめ、夜の町へと消えました。
 樋口家下屋敷に入った桔梗介を、妹の斗貴が出迎えます。
「兄上、その娘さんは……」
「お前に預ける。事情があってコブつきだが」
「ごめんなさい! 天音と申します!」
「コブってまさか兄上の」
 斗貴が口をぱくぱくさせていると、裏木戸から工藤が現れました。
「お連れしました。雅さんの名前を出してもなかなか信じていただけなかったが」
 ちんまり背負われているのは、大福親方です。
「ニャア、天音~」
「お父っつぁん!」
 美談の感じからして死んでるっぽかった天音の父親は、聞けばどっこい生きていたのでした。
「まあ、ひどい猫背を患っておいでだわ。すぐに床の用意を」
 斗貴の指図で、親子のために離れの一間が整えられます。
「足抜けが発覚し次第、親父どののほうにも手が回るだろう。しばらくはここにいてもらう」
「ニャんとお礼を言やいいか。娘売るよニャ人でニャしニャーもったいニャくてウニャーグルル」
 地方出身の大福親方は訛りがひどく、感極まった後半はほぼ聞き取れません。
 天音が取りなすように寄り添いました。
「もう大丈夫よ。雅ちゃんが皆さんのご用事を済ますまで一緒に待とうね、お父っつぁん」
「ま、まだおいらを父と呼んでくれるかニャ」
「当たり前じゃない、お父っつぁん」
「ニャアア、ニャアア」
「それは言わない約束よ、お父さま」
「斗貴、何と言ったか分かるのか」
「いえ兄上。何だか雰囲気に呑まれて」
 斗貴は目頭を押さえ、親子の枕元に端座しました。
「ご苦労なさったのでしょうね。ご病気は長いの?」
「潜伏性の猫又神経症ニャ」
 大福親方はあふれる涙をくるくるとこすりました。
「足場に登りゃあ丸くニャって寝ちまうし、棟上げ式じゃ神主のファサファサに飛びつくし、何度も現場をトチった挙げ句このザマニャ。雅にもさんざ世話かけて」
 ニャオンニャオンとむせび泣く背中を、娘の手がさすります。
「いいのよお父っつぁん。雅ちゃんには天音をもらってもらおうね」
「そうニャそうニャ。夫婦んニャってうんと尽くすニャよ」
「きゃ、ニャンニャンだって。お父っつぁんたら、ばかあ」
「まあうるさい猫を飼ったと思って、世話してやってくれ」
「はい」
 斗貴は余計なことは聞かず、辞去する二人を送りに出ましたが、番屋で灯りをもらう工藤を待つあいだ、ふと思案顔をして言いました。
「あの、兄上」
「何だ」
「私の着物のこと、何かお聞きじゃないかしら」
「……? 知らん」
「出入りの呉服商の持ってくる品が、急に高級品になったの。まるでお城へでも上がれそうなくらい。私が贅沢ごのみだとか、そんな噂があるのかしら」
「聞いたとしても俺は信じん。呉服屋が単に儲け心を出したんだろう。よく好みを伝えておけ」
「そうします。お休みなさい。工藤さんも」
「……若?」
 工藤の差し寄せた提灯が、剣呑な表情を照らし出ます。
 桔梗介は闇を睨んで言いました。
「上屋敷へ行く」

 

 夜は更けて。所は江戸城本丸。
 闇にそびえる壮麗な御殿を、そろりと抜け出す影がありました。
 びくびくとあたりを見回す女は、身なりからして大奥女中です。
「劉さん!」
 女中は庭の暗がりへ駆け込み、待っていた男にひしとすがりました。
「これ、老中会議の出席者と、謁見予定者のリストです」
「ありがと」
 赤い髪の男は、手渡された紙片をそそくさとあらためます。
「劉さん、私……」
「あら、よく調べてあるわ。大変だったでしょ」
 おネエ言葉でもツンからデレへ変わる呼吸はあやまたずツボを突き、女中はぽっと頬を赤らめました。
「劉さんのためなら、何だって」
「ふふ、可愛いこと言ってくれるじゃない」
「だって、私もうメロメロなんです。劉さんにキスされたらどんな情報でも盗んで来ます。いい子ね、ご褒美あげようかしら。そこで二人はぶちゅーっと」
「こら、冬成」
 劉は背後にはりつく坊主頭をはたきました。
「おかしなナレーション入れないで。あーこれ、助手の冬成。黄表紙作家で、ハーレムもののネタ探し中なの」
「まあ」
 引っ張り出された冬成は、ペコリと頭を下げました。
「お邪魔してすみません。おねえさんは、もう将軍さまのお手つきですか?」
「子犬のよーな目でゲッスいこと訊かないの」
 女中はもじもじと爪先で土を掘っています。
「最近どっと新しい方が増えて、私みたいな下っ端はお目にとまるチャンスもありませんわ。寂しくてお庭をさまよっていたある晩のこと、たまたま通りがかった劉さんと運命的な出会いを果たしましたの。そして突然のキッス……」
「はい僕もそれ、見てました見てました」
「ええっ?」
「近頃は大奥で人員がダブついてて、ヒマを持て余した大奥女中が夜警に逆ナンかけるのが流行ってるらしいから、タラしやすそうなのを待ち伏せて、情報源にしようって劉さんが」
「んー、んー」
 とっさに女の耳をふさいだ劉は、ついでの勢いでキスもしたので、女中は夢見心地のまま御殿に戻っていきました。
「はー、やっぱりすごいなあ、劉さんは」
「横でガン見してないでくれる」
「取材ですから」
 冬成は熱心に舌の動きをメモっています。
「よーし構想が降りて来た。キス一本でのし上がる、キス魔の一代記」
「何その軽犯罪ジャンル」
「奥の方は分からないなあ。図解してもらえますか?」
「私のテクは理屈じゃないの」
「でも僕、直接教わるのはちょっと」
「私だってお断りよ。しょーもないこと言ってないで、ズラかるわよ」
 劉は鉤つき縄をひゅんと回し、御殿の屋根に投げました。
 するするとロープを登り、二人は屋根づたいに回廊を進みます。
 奥向きとは警備の質が違う表正面にかかると、眼下をひっきりなしに夜警が巡回し始めました。
「さん、にー、いち」
 カウントとともに飛び降り、隠れやすそうな植え込みには目もくれず、ハンパなでっぱりの陰に立った二人は、現れた夜警が植え込みに向かい、念入りに調べて歩き去るのを、じわじわ角度を変えてやりすごしました。
「すげー、やっぱ兄ちゃんのお座敷情報は確かだなあ」
「冬成、次は?」
「五十数えるあいだに火避け地をダッシュです」
 冬成の言葉どおり、オープンスペースを横切った二人が防火土塁に駆け上るのと同時に、角から次の見回りが現れたのでした。
「完璧ね。太鼓持ちに乗せられて警備シフトをべらべらしゃべるなんて、リーク源の侍は切腹ものだわ」
「兄ちゃんは心ある太鼓持ちですから。しゃべった記憶自体、酒で飛ばしてあげてるはずですよ」
「悪かったわね、心ないキス魔で。しっかしあんたたちも妙な兄弟ねえ。兄貴は遊里で太鼓持ち。弟は雑誌社でバイト。割と育ちはいいくせに」
「できるだけいろんな経験してこいってのが父の方針なんです。“お江戸の歩き方”の雑誌社で、こんな仕事をするとは思いませんでしたけど」
 冬成は顔の蜘蛛の巣を払い、ぐいぐいと縁の下を進みます。
「ガイドブック刊行は食うための余技よ。私の本分はジャーナリスト」
 ひょこりと顔を出した劉は、ススだらけであたりを見回しました。
「ビジュアルはとっても泥棒ですが」
「あら、足で稼ぐブン屋は大抵こうよ」
「そうかなあ」
 曲がりくねった松の木に曲がりくねって隠れたり、抜き足差し足で角に小指をぶつけたり、泥棒あるあるをひととおりこなせば、あとはお濠を越えるだけです。
 劉は肩越しに振り返り、はるかな江戸城本丸を睨みました。
「必ずスクープをものにするわよ。将軍が替え玉だって噂が本当なら、この国はひっくり返るわ。大奥がどっと増員されたのも、顔馴染みを避けたいからに決まってる」
「もしはずれてたら?」
「見出しに“~か?!”って付けりゃいいの。トンデモ系の都市伝説ムックなら、バッチリ売れ線よ」
「劉さん、余技が多すぎます」
「黙って漕ぐのよ」
 ツーシーターの自転車にまたがった二人は、鳥人間コンテストの体験取材で作った「羽ばたき1号」を駆って、白々明けの空へと消えていきました。

第6話へつづく!)

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