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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全20話。第一話はこちら
暗い室内。
カラカラと乾いた音がします。
「と、いうわけで」
「……何が、というわけでだ」
空回りする映写機を止め、工藤は手元の明かりで資料を照らしました。
「徳川豊茂家、現在は松平弁天を名乗るラストショーグンは、趣味活動と称して小姓を引き連れ諸国を漫遊中ですが、旧幕派を集めての反乱準備罪という線で立件が可能かどうか、ひそかに足取りを追わせていたところ、滞在先に残されていた失敗フィルムを現像してみれば、こうしたマニアックなコマ撮りアニメが目白押しだったわけです」
「……」
「フランス製のむーびーきゃめらを個人輸入したようで、新しもの好きなんですね。冒頭の、手紙をびりりと破いて登場するくだりなど、演出も創意に富み」
「……」
「いえ、未編集の生フィルムでしたが確認のためこちらでつなぎました。手作り動画らしからぬドラマ性は、アップに耐える質の高いフィギュアのおかげもありましょう。設定がどう変わっても、必ず工藤が攻めて桔梗介が受」
「もういい」
「オープンロケは滞在先の景勝地です。漁師小屋での投網プレイだの、鎮守の森で緊縛修行だの、山寺で破戒僧が大暴れするシリーズは特に」
「もういいと言っている」
工藤は構わず続けます。
「後半で登場するのが弁天自身です。さきほどのようなチグハグスケールにならぬよう、フィギュアと人間を同じフレームにおさめるには、多重露光の技術を使い」
「いい加減にしないか。早く明かりをつけろ」
「そう、重要なのは明かりです。黒背景にピンスポをあて、フェードアウトとディゾルブで人物を入れ替えれば、その効果はまるで魔法」
「おい……」
桔梗介が息を飲む目の前で、ゆっくりと手元ランプを絞った工藤は、魔法のように闇に溶け……。
「登場人物が、目の前で姿を変えてしまうんや。素敵やろ」
「お前、弁天……!」
金ラメの将軍衣装で現れた弁天は、下からのライトにあおられてニヤリと笑いました。
「呼び捨ても嬉しいけど、できたら上さまって呼んでんか。ワシ、まだ退位したつもりないからなあ」
「やはり、政権奪取をもくろんでいたか」
「ちゃうねん、クーデターも二番煎じやろ。新政府がワシをトップに迎えるいうことでどやろか。ポストはミカドでもええし、総理大臣でもええ。大統領もかっこええなあ」
「与太を」
「これ見たら、何でもワシの言うこと聞きたなるはずやで」
パチッと指を鳴らすとビロードの幕が左右に割れ、スワロフスキーでデコられたギロチン台には、仰向けの工藤が縛り付けられています。
「面目ございません。さっきまで若に資料を読んでいた私は、ガラスに投影されたコマ撮りフィギュアです」
「気づかなかった……」
「すごいクオリティですね」
「さすがのフランス製や。このギロチンも高かってんで」
「若。私に構わず奴を拘束してください」
「おおっと、上さまて呼べ言うてるやろ」
弁天がラメ入りロープをスルッと緩めると、ギロチンの刃が一気に50cmほども下がります。
「ひっ」
「日本のトップをこの松平弁天とし、年号はマツベン元年に、国歌はマツベンサンバに改めや。この条件を飲めへん首は、ソッコー胴体と生き別れやで」
「私の首などどうなっても構いません」
「そうよ。交換用ヘッドがあるし、いつでもギロチンどーぞ?」
そう言って照明の中に現れたのは伊賀のヨコ丸。等身大サイズのヘッドパーツを抱えています。
「表情は苦悶にする? それとも号泣?」
「シークレットのチュー顔がオススメネー」
お揃いのくのいち衣装でピタリと並んだクレオと陽子は、互いにドールヘッドをジャグリングし始めました。
「ああ、これは夢だ」
「……若?」
「夢だから誰も死なん」
「現実逃避ですね」
遠い目をした桔梗介はネクタイをねじねじと編んでいます。
「ねじりん棒パンの二重らせんは永遠の命をもたらすだろう。そしてバタ子さんが新しい顔をくれる」
「何パンマンでも構いません。お早くご決断を」
工藤は覚悟を決めて目を閉じ、桔梗介は弁天に向き直りました。
「夢が続いているうちは、愛と勇気だけがともだちだ。救急車のサイレンでハッとして目が覚めるまで、夢の力を信じよう」
そこでじゃかじゃかとイントロが鳴り、照明がフル点灯すると、小姓姿の踊り子たちの登場となりました。
「♪お~れ~、マツベンサンバ~」
(第三話)へつづく!