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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。


おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。


全20話。第一話はこちら


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極楽座の怪人(7)

 たたた……ズバッ!
 ライトに白刃がひらめき、布きれが宙を舞います。
「あれは、真剣だ」
「モン・デュー!」
 観客は大喜びです。
 桔梗介は着ぐるみのびろびろ部分を斬り、尻尾を断ち、腹をさばいて、きれいに工藤を取り出しました。
「どうだ蛇め、かば焼きにしてくれるわ」
 桔梗介の勝利宣言でひとまず息をついた工藤は、ギョッとして字幕スクリーンを見つめました。
「大蛇は脱皮してレベルが上がった……みたいに読めますが。フランス語は一夜漬けで」
「RPG要素です。吉澤さんウケを狙って」
 袖では劉と冬成が、プロジェクターに字幕をでっちあげています。
「中二さに食いついてもらえるといいんですけど」
「あいつ、ケータリングのパン平らげてどっか行っちゃったのよ!」
「だそうです、若」
「まだ近くにいるはずだ。どうにかして盛り上げろ」
 桔梗介が斬りかかりますが、着ぐるみのクッションを失った工藤はつい余裕をもってかわしてしまい、殺陣としての華がありません。
「もっとギリギリでかわすんや、ヘタクソ」
「すみません、地味で……」
「地味さはガヤでカバーよ、ホラ手の空いてる人!」
 劉はヒマそうな二人を舞台へ蹴り飛ばしました。




「ねえねえ、レオ丸」
「どしたネ、ヨコ丸」
 のんきに会話を始めたのは、通りすがりのくのいちです。
「パリで面白いことあったー?」
「あんまりホテルから出てないネ。ホテルメイドちょう可愛くて、スケッチしまくりヨ」
「私もそろそろフレンチ飽きてきたー」
 ガールズトークはどこへ行きつくこともなさそうです。
「少しはサムライに触れなさい、不自然でしょ!」
「ミニスカくのいちにリアリティ求めたら終わりネ」
 二人はかったるそうに舞台の前端に座り、足をぶらぶらさせました。
「見て見て、あそこの二人もリアリティ薄い感じー」
「ひとりは和装にネクタイ、ひとりは洋装に刀傷。どっちもカタナ使いとしちゃチグハグアイテムネ」
「こら、そこな女子、うるさいわ」
 袖で弁天がしゃべり出すので、工藤は慌てて身振りを合わせます。
「男の勝負に口を出すとはちょこざいな。古来より、ヤマトダマシイはふんどしに宿ると言う。ふんどし付けてる方が真のサムライであるぞ。ちょっと証拠を見せてやろう」
「えっ」
 工藤はベルトを押さえて首を振りましたが。
「お前ちゃうわ!」
「口語はノーカウントですよ、弁天さん」
「ちょっとやめなさい、二人とも。大蛇が大蛇にツッコんだらわけ分かんないわ」
「劉さん、こうなったら本筋に戻りましょう!」
 冬成が必死で台本をめくります。
「本来ならここからが見せ場なんです。浜でいじめられてる人妻を助けたり、お礼に人妻竜宮城に招待されたり、とにかく人妻たっぷり展開で、きっと吉澤さんも」
「いいえ。だってアイツは楽屋口で捕まったのよ」
「そうか。メイク室の男子部室っぷりを見られては」
 くのいち以外、女優はすべてチーム弁天による女形だとバレた以上、人妻展開には何の魅力もないのでした。
「ごめんなさい、僕たちがオトコノコなばっかりに……」
「あんたたちのせいじゃないわ。そもそもラストまでやる予定じゃなかったし。女装の男が舞台に上がるのは西洋じゃ不道徳なんですって」
「ううむ、八方塞がりや。いや……?」
 不屈の弁天は諦めません。
「女装でなければええんやろ」
 座長のキューで、少年たちは一斉に衣装を脱ぎ捨てました。
「よっしゃ、行てこい!」
「な、何だ」
 ふんどしいっちょの集団が、サムライ二人を取り巻きます。
「ダンサーの皆さん、衣装がないと不自然です。衣装とはリアリティの保証であり、舞台のウソを成立させる大切な」
 工藤が小声で言い聞かせますが、少年たちはヒラヒラと絡んできます。
「おい、触るな」
「ちょ、ボタンをはずさないでください」
 危なくて剣を下げられない二人はバンザイ姿勢でされるがままです。
「何なの。この不道徳展開」
「ふんどしの精霊や。演者に気持ちよー脱いでもらうための優しさやんか。さて、ワシも出陣♪べふ」
 エアー平泳ぎでひとかきした弁天は、劉に足を引っかけられてこけました。
「アンタが出たら設定台無しなんだってば」
「お前、世が世なら打ち首やで……」
 弁天は袖幕にすがって鼻血をぬぐいました。
「あとは頼むで精霊たち。まずはサムライの袴(はかま)のヒモを……ふっふっふ。追っ払おうったって無駄やでキョーちゃん」
 工藤が字幕をチラ見ます。
「若、人間の目に精霊たちは映らないのであった。だそうです」
「黒衣のようなものだ。くそ、演劇のお約束は絶対だぞ……」


第八話へつづく!)

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