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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全20話。第一話はこちら
「出たな、夢の怪人。お前だろう、連鎖する悪夢の元凶は」
格調高い倒置法はセリフと解釈され、即座に字幕化されますが、
「アカンアカン、ワシ武芸はサッパリや」
格調低いナニワの口語は無視されます。
「自分の尻尾を飲み込んだ、無限ループの蛇よ。その環状線の呪い、俺が断ち切ってやる。ジェイアール!」
テキトー呪文でつなぐ間に工藤が刀を持って上手袖へと走り、桔梗介はしゃべりながら後ろ手を探るのですが、慌てた工藤は長い袖幕につっかかり、そのまま舞台によろけ出てしまいました。
「すっ、すみません」
「ったく、しばらくそこにいなさい。お供が出たり引っ込んだりしたらシーンの集中が途切れるわ」
「はい……」
「あーご苦労。そいつをよこせ」
桔梗介は落ち着き払ってセリフを続け、工藤のネクタイをぐいとつかみました。
「ぐえ、若、若」
画としてはサムライが洋装男を絞殺している感じですが、桔梗介はネクタイをたすきにして袖を上げたいのです。
「りょ、両端引かれますと絞まります。輪をゆるめて、輪を」
必死でタップした工藤が自らほどいて手渡すと、しぱんとしごいた桔梗介がくるくる・キュッでたすき掛けを決め、オオーと理解の笑いが起こりました。
「字幕が必要なかったじゃないの。やるわね」
桔梗介はすらりと抜刀し、軽くグリップを確かめました。
「参る」
ブァッ。
剣風が空を斬り。
フォロースルーを数秒キープしてから、桔梗介はブンと8の字に振りました。
「こっわ、真剣こっわ」
弁天はドタドタと逃げますが、知らん顔の工藤が蛇の尻尾を踏んでおり。
「んがっ、やっぱ無理や。チャンチャンチャンでワシやられるからそれでしまいにしょ、な」
ひそひそ声の打ち合わせがバレぬよう、遊女見習い中に3コードだけ習った天音が三味線をかき鳴らしています。
「そもそも刀が本モンかどうかなんて客には分からんやろ、な」
「真剣勝負が必要なんです。もう吉澤さまの手錠がもちません」
「手錠?」
そっと袖をうかがうと、ボイラー室に閉じこめておいたはずの吉澤は、ケータリングのテーブルでくのいちたちとお茶していました。
「両手ともすっかりフリーやないか。またトンズラされてまうで」
「今はまだ下世話な野次馬根性が勝っている。終演までヤツの興味を引き続けるには、本気でやり合う以外にないんだ」
「弁天さん、へっぴり腰はかえって危険です。どうか殺す気で」
「ふたりっきりの寝室やったら殺す気でイケるけども……刃物持ったキョーちゃんはちょっと」
「頼む。腕の一本程度で済ませるから」
桔梗介にしては最大級のおねだりフェイスです。
「くっ、そそるわ……いやいや、腕は二本要るねん。ごめんやで」
「弁天さん、何たって真剣ですよ。若の衣装を一枚一枚裂いていくには絶好の」
「くっ、そそる……でもワシ剣術は通信教育やし……、あ」
ピコーンとひらめいた弁天は、刀を逆手にして着ぐるみの口角をちょ・ちょんとカットしました。切り込みから力まかせに引き裂くと、怪物が大きな口を開けたようにも見えます。
「さっきからコソコソうるさい三下め、お前から食ってやるわ、がぼげー!」
蛇の口をバカッと開けて飛びかかった弁天は、呆然とする工藤の頭を丸飲みし、すぐにばふっと吐き出しました。
「ぺぺっ、ポマードクサくてしょうがねえ。なら足から食おう。がぼごー!」
叩き上げの大衆演劇ゼリフは、きっちり字幕になっています。
「あの、あの」
蛇の口に工藤をわさわさと引きずりこんだ弁天は、ズルズルと胴体を後ずさり、尻尾の先からまんまと袖へ逃げました。
「ほな、あとはあんじょう盛り上げてや☆」
あとに残った工藤は、足から入って普通に着ぐるみを着た形です。
「若、すみま」
「わーはーはー、お前の部下の姿を借りてやったわ。可愛い部下を斬れるかな?」
工藤が何を言おうとしても、袖から弁天がアテレコします。
「刀を拾え。お前とやるしかない」
「そのようです」
ぴったり同じ構えから、主従はじりりと間合いを決めました。
(第七話へつづく!)