管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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ネタバレ・辛口ご注意ください。
勝手な一読者の私と、小説との対話です。
要約するという能がなく、心の針が振れたところとその理由をぜんぶ書くというアホな方法をとっています。
作者さまが「それ違うし」と思えるよう、具体的に書いてみたつもりです。
作中からの引用を「>」としています。
D09 夏の虫
不穏な夜。「>野良犬にさえ吠える隙をあたえない。」とはあるが、サウンドエフェクトとして「ワオーーーン」が入る導入部。オモシロふざけたとうがねぶんぶん。夜盗って言葉すき。「>恩返し」というキーワードで、以降の会話を説明なしに方向づけた。すげー。ぶんぶんの長広舌にうっとり。エエトコでさえぎる初彦も笑い分かってる。いいコンビの二人が会話劇を転がす。
>「はあ、あなた、その格好は疲れませんか」
>これはもしや、真面目に頭を働かせるだけ無駄なのではあるまいか。つまり、夢でも見ているのではないだろうか?
理性の灯りがともったり消えたりして、ファンタジー要素とゆっくり向き合う時間をくれる。突飛設定の落語が聴衆を引き込むまでがこんな感じ。言ってるそばからランプに頭突き。楽しいねーだけになりそうな頃合いで「>足元は闇が深い。泥を覗きこむような心地がした。」がシーンを締める。かんきゅう~(緩急)。
>すりきれそうな羽織の輪郭が、ほのかな光にてろりと丸い。まるで一匹の甲虫だ。
夢が現実を凌駕し始める。理性は現実の裏打ちを欲しがってるのに、説明を求めれば求めるほど、夢っぽい仕上がりになる泥沼構造。たのしー。
>おいら知ってるんですよ、坊ちゃん。なにせどこへでもぶんぶん飛んで回れる虫でしたからね
うん。信じる。すでに彼の理屈には一本も二本もすじが通ってる。中でも一番太い梁がどーんと通った。
>私がふしあわせに見えますか。今に不満のあるように見えますか
芝居の口上みたいにツルツル流れる嘘っぽさ。鉄壁の理屈には「ですねー」と言うしかない。そう周りに言わせてきただろう初彦の、しんとした語気までリアル。「>それとも自分は逃げたいのだろうか。逃げたかったのだろうか。」鉄壁の理屈にいつしか自由を奪われていたリアル。
ここでしばし「>書き付け」の謎めかしを追いきれなくなった。引き取った赤子に財産が付いてたら、気にせず使ってかまわないのでは。養育に使おうが別途使いこもうが。「お人好し」は世間向けの仮面で実は財産目当てに初彦の親を殺した下手人だった、ということだけど、ここまで全く頭使わず理解できてた本文を、ツギハギで飲み下した感じ。
>幼くして係累を亡くした赤子がいた。赤子を引き取ったのはお人好しの商人だった。
は、初彦が聞かされてきた建前のはずだけど、歯切れ良い語りが「真実をドウゾ!」みたいに響くから、そのあと出てくる「書き付け」「人殺し」の置き場にマゴマゴしたのかもしれない。ここ乗り切ればまた水流に乗り、濁流さかまくクライマックスへ。虫の腹が割れる。聞け。ぶんぶん真骨頂。
>どうだ旨いか、おいらはそいつを十年ずっと毎日食らって生き延びたんだ、ってね
>「あなたは、木の根を食う虫だったのでは……?」
これ言っとくと言わないとでは全然違う。シメなのかボケなのか合いの手なのか、分からないけど。チョーンと拍子木が鳴る。歌舞伎ちっくな荒唐無稽。しっとり怪談そこのけ、高笑いで巨大化する。いよっ、とうがね屋。
>おいらの気持ちを、身をもって思いしってくれるでしょう
そんな。闇が深えー。
>でも、暗がりに入っちまったらもう駄目だ。
自分はどっぷりダークサイドに堕ちたベーダー卿。もし「息子よ!」つって一緒に逃げたら、夜盗を手引きしたとして初彦にも捜査の手が回る。やってもいない強盗の罪で裏街道を歩かせるより、「作り笑いで手に入れた平穏を捨てたくない」と言った初彦の願いを、ある意味で叶えた深謀遠慮? とかほのぼのしたい私の甘えをトンと突き放すラスト。闇が深えー。
>一部始終を見ていた者がいたとしたら、その表情は
これをあえて言わないカッコつけもありだと思う。落語などの語り物が、夢とまぼろしをまたぐ一部始終を見ていた共犯関係を、ことわりなしに聴衆と了解し合う感じ。
D10 ひかりのかみ
ダジャレを言うのは誰じゃ、人じゃ。神はダジャレを言わない。ダジャレは人が呼び名と本質をつなぐための認識ツールなので、時経れば意味の取り違えも起こり得る。「ひかり」の通用範囲は日本語限定になるけど、このサイズの小噺のオチとして自由ですき。
本当に神がいて、意思の疎通ができちゃう世界。小説の展開を担った女の子が死んでしょんぼりする。ハンナとその周辺がもっと薄っぺらく、切り絵か影絵みたいに描かれると、童話文学みたいな潔さになるかも。いや、なまなましいほど生き生きと描かれた彼女が死ぬから生贄なのかも。やっぱりしょんぼり。
>「私は命の火を狩る……“火狩り”なのだよ」
ぽんとセリフを置き捨ててジタバタしないラストが好み。セリフが残響する。
D11 多眼の種
>強い衝撃から逃れられたマリナが肩を揺らす。
私にとってはなくていい一行。「うんうん、もつれてコケたね」と読めて来た流れがここで止まる。「>ふふ……」「>笑いごとかよ」「>だって」とやり取りを連続させた後のほうが、読んでて体勢とかの状況説明を聞く準備ができる。そして二人が近い感じがする。
>預けたまま、マリナは隣にいる少年に向かって手を伸ばした。そのままためらいなく、彼の耳から
体がどう、手がどう、と描写している字数がかえって二人を遠ざけていく感じ。親密な様子が分かってきたのに「少年」「少女」と距離を取る主語が混じり、二人をそばで見てる誰かの視点みたいに響いた。「>小麦の髪は、光を背負って金に見える。」というマリナの姿は圧倒的にセス視点、この日このシーンでセスの目に焼き付いた映像であるはずなのに、一般的な容貌描写の扱いのまま、ぼやけてしまったような。
>絨毯に座りこんでいた少年が顔を上げる。
> ぼさぼさの黒髪に厚い眼鏡、くたびれた開襟シャツに吊りズボンという出で立ち
と、セスの容姿設定が一緒に並べてあるからかもしれない。髪ぼさぼさとか服だらしないとかは、会話から何となく伝わればいいのでは。
災厄を幸福と呼び変えるおまじない。「>イベニカ(コ?)」「>アグマケフ」など薬師用語が楽しい。
>セスの眼のことをマリナから聞いている彼らは、昔のように接してくれた。
> 不作が続き、貧しい村だ。それでも食物を分けてくれる。セスは毎日それを頂戴した。
書かれてるのは、施しを受けてしのぐような生活じゃないはずだけど。「>この村の薬師」と立派な職業紹介のように言った冒頭は何だったのか。目をのぞきこんだマリナが仲介しなくても、視野の狭さをカバーするのにキョロキョロするようになったとか、周囲が「どうしたの」ぐらい言ってくれればいいのでは。
見えすぎる力の顕現としてインパクトありすぎる百目妖怪。恐ろしい姿をセスは見ちゃうの、見えちゃうの、とじりじり読ませる。閃光一下、高熱で寝込んじゃうほどの衝撃がセスの尻を叩くのだけど、
>まるで長く仕舞われていた壺のふたが取れたように様々な考えが広がっていき、
という行動あるのみシーンの後にお母さんの助言をもらうので、街へ飛び出して最初に買い込んだものは役に立つのか立たないのか、読みながら「がんばれセス」と応援するための足場を見失った。黄金の後光まぶしいハッピーエンド。ここに重なるべきファーストシーンの彼女の姿が一般的な容貌描写めいていたせいで、感動の抑揚が上がり切らない感じ。
D12 ゲーム世界に転生して神になったと思ったが、どうやら勘違いだったようです。
「私以外私じゃないの」のちょうど逆。あっちもこっちもみんなオレ。パラダイス設定のゲーム世界は文字通り死後のパラダイスだったという逆V字ひねりに、まずは必死についていく。大事な情報を取りこぼしながら。
>見覚えのない外国風の部屋だ。
ここはどこだ、という幕開けに慣れた小説読みは、さらっと読み飛ばすけども。
>オレは目覚める前のことを思い出そうとした。
うっすら手掛かりがある、という誘導にまんまと乗るけども。
>最期の記憶を突き止めることはできなかった。
ハイ、あなたのレベルで開けられるドアはここまでーとなり、レベル上げに励む。
「産み落とされた」という感覚は、完全な受け身だ。どんな情報も受け入れるしかない。おとーさんとおかーさんが出会ってあなたが生まれてね、という話を聞かされて育つうちに、自分の誕生前の様子まですっかり知っている気になるような。主人公は捏造記憶を解きほぐし、しがないコピーにすぎなかった自分の正体を知る。鏡に映る顔ではなく赤の他人の客体として、自分の姿を見てしまうホラー。
>死ぬ前の説明では、言動によってAIと人間とを区別するのは不可能だと言われた。だから、この世界にいる人間がオレひとりでも、決して孤独にはならない、と。
くまのぬいぐるみ相手でも「この子生きてるから」と孤独を癒すことはできる。ここで重要なのは主人公が孤独を感じるかどうかであり、「これはゲームだ」と分かってしまってる彼は、何をどう言い換えても「人間はオレひとり」という事実から逃げられないのでは。「>その認識が、オレの没入感を削ぐ」と言ってるそばから夢は醒めている。
本当に必要があって「>AIと人間とを区別」しなきゃいけない人って誰だろう。「孤独を癒す」という目的にかなっているなら、話し相手が精巧なアンドロイドでも私はかまわない。「私はAIです」と言う合成ボイスの向こうに、ヘッドセットつけたオペレーターがいると思いたいならそう思うこともできるんだけど、主人公はどうなんだろう。「>人体実験」をモニタリングしシステムを走らせている研究者たちの存在を感じられたら、それはそれで「生きる」チカラになりそうだ。「箱詰めの記憶データだけになった故人とおはなしできる」というSF設定があるけど、箱にはちゃんと環境認識センサーがついていて、「やあおはよう、寝不足の顔だね」とか生者に声をかけたりできる。そこにはウソでも実時間のようなものが流れる。時間感覚を共有することで、二者は互いに生存証明をし合うんだと思う。他者による生存証明が得られない彼は、骨壺に収められたのと変わらない気がする。
>私はどうしてもこの孤独に耐えられなかったの
NPCである彼女に、孤独という概念がある。知的存在で穴を掘っては埋めるような仕事にうんざりしていて「うんざり」というのは時間感覚で、実時間が誰かによって証明されないのは寂しくて、そそそそれは、ニンゲンじゃないですか? いや「そういうセリフ」を言っただけだって……と目の前がぐるぐるする。たのしいな!
>あの方はアリスとともに消え、彼女に世界を破壊するよう命じた。
やってみて分かったわけだ。ゲーム世界に転生して神になっても、幸せになれると思ったら勘違いだったと。ぶっ壊れたオリジナルの言い分はタイトルにすんなり繋がっている気がするのに「>転生したからといって人はそう都合よく変われない。当然の帰結。」と上っ面みたいなお説教が割り込む。何目線だ。コピー目線か。
>何度でもやり直すよ
>それは永遠に続く絶望であり、希望なのだ。
不死の刑に処されたような主人公。展望ひらけるラストを彼と共有できない感じ。しょせんコピー、ニンゲンじゃなかったのは実は彼かもしれない。だって、
>イリスのすることを看過している以上、あいつはまだ、完全に絶望してるわけじゃない
と、すべてあいつが糸を引いてた感だけが盛り上がり、それはイリスが作ったコピー君のことも縛る。コピーがかすかに持っていたはずの自由意志が、オリジナルの存在に塗りつぶされるような。ここコピー君はもっと自分を主語に演説していいのでは。「俺コピー。だけど……」という自我と、新しい名前を獲得するために。
>思い出したんだよ。オレは卑屈で惨めで疑り深い、孤独な人間だったんだ
ニンゲンりょう太のことを「オレ」と呼ぶのもきっぱりやめ、別人格として「>あの闇の底に光をもたらす」の意味をまるごとぶっ壊し、もう諦めるんだ、絶望の小出しはよせよと、オリジナルの息の根を止めてやることもできそうな勇者設定を妄想して読了。
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