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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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ネタバレ・辛口ご注意ください。
勝手な一読者の私と、小説との対話です。
要約するという能がなく、心の針が振れたところとその理由をぜんぶ書くというアホな方法をとっています。
作者さまが「それ違うし」と思えるよう、具体的に書いてみたつもりです。
作中からの引用を「>」としています。

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D01 セイシした闇の中で
ひいいーー! とへたりこむ幕切れ。読みながら「ココ重要」と思った所をメモする習慣なのだけど、そんなヒマあるかい。33階からノンストップだった。と書くだけでまた33階に連れ戻される。のひ、勘弁してください。読むと永久機関に連れてかれる短編。すげーなあ。

「見えない」がひとり歩きして意味合いを変えていく。「お互いに見えない・心細いですね」という共感から始まり「あなたには見えない・心細いでしょう?」つって怖がらせ、電気がついてホラー要素は最高潮、はい、怖いところですよ~という脅かしが実はフェイントで、最後いちばん怖いのが残ってた! もキャーーー! ごめんなさい!

> 32、31、30……ああ、ゆっくりだなあ。こんなにゆっくりだったろうか。もっと、あっという間だったと思うのだけど。
> それにしても……はあ、なるほどねえ。

「そう」とか「はあ」とか「なるほど」とか、伝えるべき情報を含んでるわけではない合いの手が、時間感覚を支配しあやつる。エレベーターが動いているのかいないのか、ゆっくりなのか速いのか、速度感覚も意のままにされ、読書体験としては非常にマゾい。そして心地よい。暗闇で自分の体の境界線が曖昧になって、どのへんまでが自分なのか、どのへんからが「誰か」なのか、入り口のフックでさらりと触れたこの話題が、そのまま読み手に落とし込まれる。おしゃれさーん。

>この闇に呑まれてしまって、そして何も残さず消えてしまうのではないか。

小説ってそういうことかもと時折思う。本当にあったような顔をして、本当に心に傷をつけ、夢中にさせるだけさせといて、「フィクションですから」と去っていく。無から生まれて闇へ去り、去り際キレイであればあるほど残された者はヨヨと思い出に浸れる仕組み。

> ところで、あなたは今から昇るのでしたっけ、降りるのでしたっけ。どちらでしたかね。
> どちらでしたか、ね。

世界で一番怖い改行。

>それからね、私、あなたのことは前から良く知っているんだ。

たまに来るこの「だ。」が怖い。ずいと距離を詰められる。顔が近い。

> だって、私にはあなたが見えないのだから。

> ね、意外と長いでしょう。4.5秒って。

世界で一番怖い行あけ。4秒かからず自分の顔が降って来る。

>眩しいのですか。そんなに目を瞬いて、どうしました。

振り出しに戻っては何度も読みたい永久機関ストーリーなので、気になってくる言い回し。ここで語り手に「あなた」の顔が見えているという言い方は、「>だって、私にはあなたが見えないのだから」という大ラスのパンチラインを失速させないだろうか。「瞬き」だけを察知している、つまり語り手は浮遊霊状態になった「あなた」の頭の中にいて、視野をずっぽし借用して物を見ていたのかな、と苦労して理解することもできるけど、もっと読んでてラクチンだったらいいなあと。


D02 ずっと一緒でいてね(※注)
早い段階で主人公の善良口調に疑いをもたせてある二人称。あまりこちらの気を散らしてくれないので、読んでいて意識が先回りする。「>……やだ、ちょっと、笑ってよ」や「>――ねえ、どうしてまたそうやって凍りついちゃうの」などは聞き手が目の前にいるときの言い方で、死体に語りかけているような先読みが誤作動してしまった。「>あと二時間もすれば、」まで読んで、準備万端ととのえて真紀を待っている独白と分かり、あれーとなった。作品の仕掛けと細部がかみ合わない印象。

>大人っぽくなった真紀、見てみたかったなあ。

「>見てみたかった」という過去形には、破滅を覚悟したようなトーンがありハテナ。「二人は一緒、この先バラ色」と思い込んでいるはずの主人公の気持ちに、矛盾が出るのでは。


D03 ね、あなたの笑顔も食べたいな
ほのぼのお仕事日誌。日誌、ではないのかも。各タイムスタンプは書き始めのシーンに一致させてあるようで「一日を終えて書いた日誌」ではなく、ボイスレコーダーに語りかけているような印象。

単調な毎日に魔法というフィルターをかけて別世界のように見てみるという表現があるけど、本作は魔法フィルターがすっかり現実に呑まれている感じ。白金懐炉、バリバリいうラジオ、役所で申請、などなど、魔法じゃないディテールの手触りが圧倒的に厚い。現実要素のありあまる存在感が、おまけの仕事として芋虫を光らせているような。きれいだなーと思うけど不思議さに驚嘆する感じにならないのは、「なの」という語尾の影響が大きい気がする。主人公の口癖なのは分かるけど、あまり続くと「だってそうなんだもん」と頑固に言い張る響きが強くなり、誰もそんなに疑ってないのになと、読みながら後ずさりしてしまった。

>心の中に虫を飼うのって、そんなに変かなあ?
>嬉しいと思えるとき、いいことがあったと感じたときに、光り虫の卵たちが私の中で弾けてくれる。

ボイスレコーダー感がこのあたり。主人公は色んな場所で笑顔に出会うけど、卵が孵る魔法の実感を直接描写してくれることがない。自分にとって既知の情報をわざわざ説明しないのは、自分用メモなら自然だけど。ガス灯とおじいさんのシーンで、光り虫がストレートに描写される。魔法がまぶしくあたりを照らし始めるのに、「>何もないはずだった灯明守の両手の中に、」とおじいさんを急によそよそしく呼び、カメラが引いてしまった。誰に説明責任があるわけでもない自分用メモから、今さら距離を取る感じにハテナ。ガス灯にはガスが通っているからガス灯なのだろうか。光り虫で光るのに?


D04 人間スープはキスの味がした
そういう夢だったのだと分かってからも、人間スープに包まれた日々を、現実世界と同じくらいリアルに感じる。リアルって何だ。戦場で人がただの物体になるのを見てきた主人公のリアル。死体は土に還って世界の一部になる。それを食べる自分の一部になる。自分もいつか、死体に。命が失われ、また巻き戻っていくこのリアルを、私も知ってる気がする。胎児が成長するにつれ羊水には赤ちゃん自身の代謝老廃物が混じっていくそうだ。口移しでもらう秘密の氷砂糖。甘さという最初にして最重要な味覚情報は、経口摂取のエチュード、個としての旅立ち、別れの餞別。読むほどに「そういうことか」と、詩と象徴で私たちをその気にさせる夢幻世界は、つくりものの氷砂糖のように、全部まぼろし。でも精巧な再現に意識がだまされているあいだは、水中呼吸も幼馴染とのスキンシップも、すべて本物だ。

>「――ああ、兵隊さんの手だ」

いまモノクロの吉永小百合がこのセリフ言った。若いのにキンキンしてない腹式ボイス。療養という健全な目的と何かを忘れてるぽっかり感。水底の時間は頼りなく止まっていて、そこへ不吉な圧力がかかり始める。

>心臓を抉り抜かれたかのように虚しい。

と、臓物をいっぺん失い、

>燃えていた炎が、突然爆ぜた。
>――早くしないと、手遅れになる!

命が再び点火され、

>綿でできた檻に閉じこめられているように息苦しい。

肺呼吸の準備も万端、

>心臓に蝿でもたかっているかのように、胸がざわついた。

有機物でできたナマモノになる。もう陸へ上がれる。作中時間が焦燥と足並みを揃え、加速していく。ああ、お別れだ。

>長らく水底の夢を見続けていた付けが回ったのか、うまく手足が動かない。

夢だったんですよとなるわけだけど、シーン変わってこれを言うまで、叙述が全く焦らないのがすげえー。大急ぎで種明かししたがる癖を反省。あらゆる刺激が突き刺さる、陸棲の身体のもどかしさ。思えば読み手は説明を待たずとも胸の奥をひくひくさせながら同室患者の話を聞いてる。「夢を見ていた」を言葉にしてくれて、やっと夢は夢に変わった。ああ、間に合いますように。
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