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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージは記事付属コメントかページ最下段のフォームどちらでもどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。

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大江戸870夜町(21)


 花札屋の店主が絶句している頃。
 お山では、キースが華宮院に帰還していました。
「早かったわね」
「馬もらえたから」
「公使館職員の役得ね」
「……何か人増えてないか」
「キースどの」
 工藤が素早く進み出ます。
「お留守の間に到着しました。ご助力いただけることになったそうで」
「したくもないご助力だがな」
 泣きながら「攘夷ってどう書くんですか」と聞きに来た雅も合わせて、華の私室は客であふれています。
 キースはうんざりと見回しました。
「樋口、借りは返したぞ」
「早く消えろってことだな。キース君」
「行間を読めばそうなるな」
「そっか。俺たちで赤ちゃん見てるっスよ。三十分ぐらいでいいっスか?」
 たっぷり寝たハルは、気働きも冴えています。でも行間は音読しちゃいけません。
「あ、ごめんなさいっス。七夕カップルだから三十分じゃ足りないっスよね」
「……」
「えーそれで、樋口家はエゲレスに売れましたか」
「ああ。すんなり倒幕派に転んだぜ」
「よし」
「ねえ、一体何をやってるの?」
 劉には点と点をつなぐ線が見えません。
「穏健派の叔父さんに倒幕運動を押しつけて、それって何かの嫌がらせ?」
「叔父貴には、お尋ね者の頭目になってもらう。忙しくて俺の命を狙うヒマもなくなるようにな」
 藩内きっての穏健派、樋口和之進は、ちっとも穏健ではなかったのでした。



「どういうこと? あなたが嫡男でいられるのは叔父さんの口添えもあったんでしょ?」
 桔梗介は苦々しく首を振ります。
「対立分子への懐柔策に過ぎん。家臣には元・先代派も多い。人材不足の小家ゆえ、アンチだからってなかなかクビにはできんのだ」
「ちょっと待って。対立があったの? 樋口家に? 先代のヤンチャが過ぎたってことは聞いてるけど?」
「家臣が口裏を合わせたんだ。家内騒動が表沙汰になっては、お取り潰しもあり得るのでな」
「はあー、お武家も大変ね」
「あの兄弟は、普通に権力争いをしてたのさ」
 そう言って桔梗介は面倒な説明を投げたので、工藤が後を引き取りました。
「権謀術数では和之進さまがわずかに上手、このままではうまいこと暗殺されてしまうと恐れた先代は、わざと分かりやすい奇行に走って、お上の注意を惹いたのです」
「そしてお裁きの場へ逃げたのね。公権による逮捕は最強の護衛ってわけか。ふおお、つながるわ」
 劉がジャーナリズム精神を活性化させる傍ら、キースは首をひねっています。
「だったら樋口、お前はどっち派なんだ。蟄居中の親父さんを引きずり出しに来たってことは、お前は叔父さん派なのか?」
「あら、叔父さん派なのに叔父さんに命を狙われちゃうの?」
「それはだな」
 桔梗介は語るべきいきさつを思って目を閉じました。
「……面倒くさい」



 樋口之将の奇行パフォーマンスの中に、藩金の使い込みがありました。
 この金が、どんなに記録をたどっても、何に使ったのか、誰に払ったのかはっきりしないのです。
 蟄居先を訪ねた桔梗介は、父親に与する態度を装ってこう言いました。
「華宮院を買収して獄舎を解放させました。もういつでも出入りは自由です。お好きな時に近隣をご遊歩ください」
 顔を見せれば警備が「うっかり」してくれることを証明し、山を下りかけた所でキースに鉢合わせする、そのちょっと前のことです。
 すっかり気を許した之将が言いました。
「お前にだけは教えておこう。あの金はある投資に回していてな。掘り出せれば、莫大な配当を受け取れる」
「掘り出す?」
 投資とは、徳川埋蔵金の発掘プロジェクトでした。
「神君家康公の隠し財産だ。必ず出るとパンフレットにも書いてあった」
「……」
「わしとお前で慶長小判を拝もうぞ」
「しかし、年度の〆はどうします。現金がなければ、家臣らは暮らしの払いができません。うちのような小家に、これ以上の信用貸しはしないと商人も」
「そうだ、斗貴を売れ」
「……」
「あれの母親は身分が低いから、売っても武家の名折れではないわ。決して家財など売るでないぞ」
 暗闇にメラメラと殺気が立ち、通りかかったキースは、つい戦闘を仕掛けてしまったのでした。



「だったらおい。俺がやったのはどっちかって言うと助太刀じゃないか」
 キースがドンと畳を叩きます。
「まあそうだな」
「礼を言われてもいいくらいだぞ」
「言った。親父を殺してもらってどうもって」
「嫌味にしか聞こえん。思わず迷惑料とか払っちまったじゃねえか。金かえせ」
「そっちが勝手に払ったんだろう」
「迷惑かかってねえじゃねえか」
「大迷惑だ。やろうとしてたけどやらなかった殺しの疑いをかけられて」
「やろうとしてたのかよ」
「ちょっと。その話今でなきゃだめなの」
 劉は続きが気になります。
「藩金の補填はどうなったの。妹さんは身売りしないで済んだのよね?」
「ああ。埋蔵金プロジェクトの事業者から、直接取り返した」
「事業者って……、聞いた感じ詐欺っぽいけど。よく返金に応じたわね」
「新規契約を餌に呼び出して、まあ吉澤も話せば分かる男だから」
「ヨッシーってば、詐欺もやってたのー」
「どこまで手広いの、アイツ」
 抜け目ない吉澤は返金クレームなどガン無視でしたが、人海戦術で資料請求の問い合わせをかけたところ、家臣の妻女まで動員した全員野球が図に当たり、人妻スキーが釣りあげられたのでした。
「以来、吉澤さまには情報屋としてご助力いただいているんです。叩けばホコリ、いや裏の世界に精通しておられるので」
 キースはげんなりとあぐらを崩します。
「どうせまた迷惑だの何だのネチネチ脅したんだろう。体のいいゆすりだな、貴様らの言うご助力って」
 工藤は笑って頭を下げました。
「皆さま恩義にあつくていらっしゃる」



「それでと……、どうして命に危険が及ぶわけ」
「藩金を取り戻したせいで、藩内で若の人気が上がってしまったのです。和之進さまとしては、若と先代をぶつければ必ず大ゲンカになると読んでいたようで、目論見どおり殺害は起きたのに、華宮院が事故として処理してしまうし、調子の狂った和之進さまは」
「もー、ながーい」
 陽光太夫がわしゃわしゃとポニーテールをはずしました。
「この話いつ終わるのー」
「あとちょっとです。太夫、なぜ帯をほどいておられるのですか」
「あと一分でまとまらなかったら、脱ぐー」
「どういう脅迫よ」
「あのあの、忠義顔で近づいて来る者のうちいずれが間者であるやら分かりませんので、私ひとりが若に従い、家中とは距離を取って」
「あら、ただの放蕩だと思ってたわ。嫡男の義務放棄ってことで廃嫡されたりしないの?」
「廃嫡だけでは、あちらにとっては不都合なのです。正統の男子が残っていては、何かあるたび対立派の旗印にされる」
「しっかり息の根を止める必要があるわけね。怖いわあ」
「よお、俺が監視を頼まれたカッパ会はどうなんだ?」
「それがですね、単独で華宮院を取り込まんとする和之進派の策謀かとも思われたのですが、上屋敷でカマをかけても一向に」
「もうダメ、脱ぐー」
 くのいち衣装はアウターが一枚きり、あとは鎖とさらしだけです。
「太夫、安売りはダメっス!」
「売りじゃないもん。ヤリたい時にヤルんだもん。お布団敷いてー」
「太夫、まだ一分経っていませんから」
 工藤は襟首をつかまれながら必死に考えます。
「ご門跡、カッパファンの集いにお心当たりは?」
「え何、カッパファン? カッパン?」
 華も焦って早口になります。
「活版……、これかしら」
 文机から取り上げたのは漢字の一覧表です。雅に「攘夷」の攘の字を説明しようとしたところ、華にも書けなかったのでした。
 多画漢字の刷り見本には、余白に「七色活版の会」とロゴがあります。
「……七色カッパの会」
「そうそう。うちの用人頭はよく噛むの」
「では花札屋は、聞いたままを予約帳簿へ」
「時間いっぱい、そこまでよ」
 劉が太夫の襟元をぎゅっと合わせ、ひそかな舌打ちが聞こえたり聞こえなかったりしたのでした。

第22話へつづく!)
 

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