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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。


はなまるファンとふざけたおとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全16話。第1話はこちら

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冷酷王のスピーチ(15)
「うわあ、小さいけどまぶしいわねえ」
「目が慣れるまで、正視しちゃダメだよー」
 輝きながら、アマネリアはずらりと並んだ独房の列を8の字にすり抜けます。
「きれいっス~」
「よかったなあ。ずっと光が弱ってて心配してたが」
「やっぱりエルフはキラキラしてなきゃね!」
「おい木こり」
「おう。サミーって呼んでくれ」
「サミー頼みがある。猫を借りたい」
「いいぜ。アマネリア、光で誘導してやって」
「分かったー」
 白猫をじゃらしながらエプロン男の房まで飛んだアマネリアは、鉄格子にちょこんと腰かけました。
「で、どうするの? 抱っこ?」
「箱に入れる」
「空き箱遊び?」
「いや、毒ガス噴出装置を仕込んだ密閉容器だ。観測するまで、猫が生きてるか死んでるかは分からない」
「んっ、と、それは……?」
「シュレーディンガーの猫だ。猫が生きてるか死んでるか、確率の波が収縮するとき、重なり合った多世界の枝分かれがパラドックスでつながる、その一瞬に賭ければあるいは……」
「ササ、サミー、このひと!?」
「……大丈夫だ。信じよう。先にあいつがお前を信じてくれたんだ。お互いだろ」
「義理がたいな」
「あれれ、義理がたいのはいいことだぞ。変則ルールの人に親切にすれば、伏線が高利回りで戻ってくるって、誰かが言ってた!」
 ヨシザワス王もすっかりヤル気です。
「うまいこといきそうだね。で、その毒ガス装置とやらは一体どこに?」
「今は、持っていない」
「―――? 何を宿題忘れた言い訳みたいに。ドリルやったけど家に置いてきたってか?」
「そこにいる奴に聞いてみよう。変則ルール愛好家、伏線の亡者。出て来て宿題見せてみろ」
「…………急な消灯で、退出のタイミング作りそこねたネ……」
 すみっこからのっそり立ち上がったのは、中東顔の給仕係、女神パトラでした。



「舞台をハケそこねたからって、看守を呼んで開錠してもらえば済むことだろう。お前、よほど存在が希薄らしいな」
「……消しても消しても存在の痕が残るような、キャラ濃いお前らには分からないネ」
「フン。夢オチの世界の住人か。保身のために俺たちを売ったな」
「に、睨んだって怖くないネ! トキちゃんの重圧に比べたら!」
「トキちゃんトキちゃん、えーと誰だっけ」
「すごい重要人物ぽいっス!」
 キーワードはめちゃくちゃ琴線にふれるものの、誰もちゃんと思い出せないのが、夢オチってやつです。
「確か私の初恋の人だわ。超タイプの……」
「いや、異端審問官を脅迫してたあのおねーちゃんではなかったかの?」
「違うよ、トキちゃんは時の神さま。恋の予感と魔法のために時空をありがちに整えてて、悪魔さんにお仕置きして封印して、ふー!」
「アマネリア!」
 身にあまるデータ量に、小っちゃいエルフは目を回してしまいました。
「……そのトキちゃんとか言う奴と、取引したんだな」
「黙秘するネ」
「仮にだが、俺がそれを上回るオファーをしたら?」
「黙秘ネ」
「例えば、永遠の命?」
「……」
「いまいちリアリティがなかったかな。では、無尽蔵のエネルギー?」
「……」
「こいつも夢のような話だった。ディテールを詰めよう。霊魂を仕込んだ人形が合成人体に飲み込まれているんだが、互いに導電体となった両者間では、電位の交換が行われる。半永久的に」
「……」
「こいつを隕石クレーターなどの陥没孔に沈めれば、湖底は天然のガラスコーティング、水も漏らさぬ生体電池だ。送電システムを構築して電力を売るなり自分で使うなり、お前の好きにしていいぞ」
「はう、トキちゃんごめんなさいネ……」
 悪魔の誘惑にずっぽしハマってしまった女神パトラでした。
「では、シュレーディンガーの猫装置を出してもらおうか。トラえもん」



「……四次元ポケットないえもんネ。ありあわせで作ってみたヨ」
 パトラがしょんぼりと差し出したのは、きれいに洗ったカレー鍋に、追加スパイス用唐辛子の小袋を貼りつけた、シュレーディンガーの猫鍋です。
「ニャア~♪」
「気に入ったみたいだぜ。フタ閉めろフタ」
「フタの穴から唐辛子の粒子が混入すれば、中の猫はクシャミする。粒子が入らなければクシャミしない。これで何とか可能性世界は枝分かれするネ」
「……バカバカしい僅差で、フラクタルの枝を特定するのに難儀しそうだが、そこをアンカーにして時空を掌握できるだろう。一秒の90億分の一のあいだくらいなら」
「セシウム時計の電磁振動一回分? そんな時間感覚を、人間が持てるの?」
「―――俺が普通の人間に見えるか」
「とても見えないわ」
 かっこつけても、決めポーズは裸エプロンでした。



「えーびーしーでぃーEFG~♪ FはフラクタルのF。Gはそれよりでっかいの~」
 胸を揺らしてスキップしていたヨーコリーナは、はたと足を止めました。
「誰か、クシャミした?」
「どうだろうな」
「あー、変態アッケージョ」
 一気に冷めたヨーコリーナは、エプロン男に買い物カゴを投げつけました。
「よくもパトラをユーワクしたわね~」
「お前とも取引したい」
「その手には乗らないわよ~」
「お前の買い物が終わらない理由を教えてやろうというんだ」
「女の買い物に、果てはないの~」
「目当てのものが見つからないんだ。そうだろう」
「ぷーん」
 ヨーコリーナは口をとがらせて横を向きます。
「クドージンは俺が隠した」
「…………きー!!」
 豹変したヨーコリーナは、ダッシュで悪魔にタックルしました。
 が、一秒をはるかに下回る速さでかわされます。
「どこよどこよ、出しなさいよ!」
「条件がある」
「言うだけ言ってみれば!」
「お前の超人的な処理能力が必要だ。生データをふるいにかけて、俺たちが俺たちだった世界を再統合しろ」
「そんなんすぐできるわよ! はい、はい、はい」
「こら、雑に扱うな」
 カゴいっぱいになったフラクタルの小枝は、挿し木の要領でつぎ合わされ、首尾一貫したひとつの宇宙として存在を始めるはずです。
「…………いや、全然違うぞ。がっしゃがしゃだ。分からないと思って適当にくっつけたな」
「ふふーんだ。悪魔だからって人より優位に立ってるつもり~? ばーかばーか」
 ヨーコリーナはお尻をぺんぺん叩いて行ってしまいます。
「くそ、報酬を先払いするしかないか……。お前の手練手管で、条件どおり仕事を終わらせろよ」
「―――善処します」
 薄暗い監視ブースでカッとかかとを鳴らしたのは、怒鳴ってばかりいた看守です。
 極悪非道っぽい軍帽を脱いだクドージンは、ふうっと息を整えました。
「ヨーコリーナさん、一緒に温泉行きませんか―――!!」

第16話へつづく!)
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