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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージは記事付属コメントかページ最下段のフォームどちらでもどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。


はなまるファンとふざけたおとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全16話。第1話はこちら


冷酷王のスピーチ(16)
 何事もなかったような、すべては二度寝の夢だったような、あやふやな気持ちにさせる、そんな黄昏。
「えーん、えーん」
 誰かが子供みたいに泣いています。
 やっと男物を着ることができた悪魔は、西日の中をぶらぶら歩き、しゃがんでいる女の子を見つけました。
「どうした。何が悲しい」
「うっ、うえっ、えぐ……、分からないの。どうしたらいいか」
「そうかそうか。王さまが巨人に食べられたあと、カレー屋台からも王さまが登場して、もーわけ分かんなくなっちゃったんだな」
「んっ、そう……」
「あいつはどうせドヤ顔で、ちょこざいな魔法なんぞ小指いっぽんで無効化してやったわーとか、即興のホラを吹いたんだろう」
「うんっ、魔法帯域のバランスがすっかり計算合わなくなって……あなたはだあれ?」
「覚えているはずだ。昔、とても長い時間を一緒にすごしたよな。夕方の台所、くつくつ煮えるおナベ……」
「……今夜はカレー、何もかも大丈夫……」
「何もかも大丈夫」
 最後がハモって、泣き顔がほろんとほころびます。
「魔法帯域の心配なんかしなくていい。お前は斗機。北斗七星の柄の部分だ。いわば天空をめぐる時計の針」
「北斗七星、トキ……」
 見えるものを見える通りに呼びたいタチのトキちゃんは、こういう言葉遊びが大好きです。
「斗機は一日の長さを測る。俺は明けの明星、季節の基準だ。一年の長さを測るから、お前よりお兄ちゃんだぞ」
「お兄ちゃん……」
「トキ、うちへ帰ろう」



「―――てなわけで、何もかも僕の不用意なアドリブがいけなかったようです。サーセンした!」
 ヨシザワス王は高校球児のように王冠を脱ぎ、ぺこーっとお辞儀をしました。
「いやしかし、ほんのひと言で神さまを自己矛盾フリーズさせるなんて、僕ってやっぱりタダ者じゃないっつーか、退位してもタダじゃ起きないっつーか」
 いっぽん指でくるくる回していた王冠が、華麗にすっぽ抜けます。
 ガコンガラーン。
「あーあ」
「何か部品取れたぞ」
「退位のセレモニーぐらいびしっとキメなさいよ」
 来賓たちがわらわらと王冠を拾い、へこんだところを叩いたり、折れた十字を接着したりと、応急処置があったのち。
「―――なんやかんや、専制君主の権威をもって、新王ツルカメッシュに王位を譲る。はいどうぞ」
「む。権力の座は……重いのう~」
「前任者のせいで問題山積みっスもんねー」
「おじーちゃん頑張って~」
 お風呂あがりのヨーコリーナによって、時間回廊はてきぱき解体されました。
 動き出した時間は、一夜明けた翌日から始まり、それは異端審問当日。
 陪審団の前に引き出された容疑者全員がトランス状態になり、とある修道女について語り始めたのです。
 マジシャンの家系というプロフィールに始まり、あまりによくできたマジックショーが異端とされたいきさつから、取り調べ中に花ひらいたロマンスの詳細まで、声をそろえた証言の異様さに、教皇庁は容疑者たちを奇跡認定し、ハンナちゃんを聖女とし、わーわーわめいてラブシーンの再現ゼリフを妨害したキースを破門としました。
 釈放されたヨシザワス王は涙ながらに教皇庁への忠誠を誓い、免罪符で儲けたお金をどっさり寄付したといいます。
「ま、金で水に流してくださいってことですねー♪」
「各種ハコモノまで事業清算とは思い切ったのう。身の振り方は決まったんかの?」
「キャラの幅には事欠きませんから♪ピーピーピ~」
 女神パトラが設立したパトラ電気は、夢のクリーンエネルギー。
 夢見る明日へ。パトラ・パワー・プール。ピーピーピ~♪
 ……みたいな、いい感じのことしか書いてないお手盛りパンフの表紙を飾るのは、キャラの鮮度が落ちないうちに契約したヨシザワス前王です。
 リューは苦い顔でパンフを丸めました。
「頭文字で3P……、恥ずかしい略称ねえ。実態はオカルトと紙一重のくせして」
「じゃあ、あれってやっぱり魔法なんだな? 電力とか言ってるが」
「あらサミー」
 着古しの礼服を着こんだ木こりはこざっぱりと散髪していますが、誰にも気づいてもらえません。
 サイズが人間に戻ってることにも気づいてもらえないのだから当然でした。
「どうかしらね。十分に発達した科学技術は魔法と区別がつかないと、昔のSF作家も言ってるわ。もうミソもクソも一緒」
「つまり、魔法もこれまでどおり使えるんだな?」
「ミソとクソを選り分ける作業になるわ。まっぴらよ」
 リューはお手上げのジェスチャーをします。
「トキちゃんが“お兄ちゃん”に管理を委譲して以来、魔法帯域はぐっちゃぐちゃなの。ヘタに手出ししたらウ○コまみれよ。だからあのアホ王も退位勧告に応じたのね。魔法支援なしのハードワークにはこりごりしてるんでしょ」
「そうか……」
 人の輪を離れたサミーは、花壇に身をかがめました。
 小さなつぼみが風もないのに揺れています。
「すまん、俺の姿はこっちで安定しちまうようだ。……おっさんエルフも割と気に入ってたんだがなあ」
「いいよ。サミー、よっぽど嬉しかったんだね」
「人間に戻れたことがか? そうでもねえよ」
「人間の姿でエルフを信じてもらえたことが、だよ」
「……そうだな」



 式典は晴れがましく続きます。
 人々はダラダラと行列に並び、新王に祝辞を述べていきました。
「タカフミ公。ずっとお名前を間違っていてすみませんでした」
「かまわんわい。それより復職の件、考えてくれたかの」
「はあ」
「あんたのような人材が必要なんじゃ。なんせ国庫はカラッポで、ヨーコリーナちゃんみたいなガメツいプロ……ごほ、高給取りを雇う余裕がのうて」
「でしょうね。おっ……と」
 クドージンは何だか立ち位置が定まりません。
「久しぶりの王宮は落ち着かんかの?」
「どうも相棒が近くにいないのは慣れませんね」
「あんたはどっちじゃっけ。ドール? 生身?」
「さて、両方でしょうか」
「ああ?」
 ヨーコリーナが可能性宇宙をフルスキャンしてもクドージンズを見つけられなかったのは、ひとり分のペルソナに、ふたり分の自我が詰め込まれていたからでした。
「悪魔に魂を売った生身の私と、ヨシザワス王の所有ドールである私。この排他的な二項は決して『and』でつながりません。今の私はどちらの値を参照されてもこれを肯定し、同じく否定し、結論の出ないやり取りを無限に返すことで、検索を逃れ続けたわけです」
「も~、後ろつっかえてるのよ」
 割り込んだヨーコリーナは、玉座の肘かけにお尻を乗せました。
「おじーちゃん、スカウトできた? 悪魔の下僕どこですか検索に、ひゃくおくまん回の『no』を返した以上、くどりんはフリーだからね~」
「完全フリーではありませんよ。同じだけ『yes』を返したはずです」
「言った分だけはフリ~。人間なんだから融通をきかせるのー」
「それが多重人格ならぬ一重人格といった感じで……いや違うな。無限鏡像人格……?」
 ひとりになっても脳内会議がせわしないクドージンです。
「せっかく水没してもへーきになったのに~。温泉入っても落ち着かないったら」
「すみません。もとが同じ人間のコピーですのでぴったり重なるっちゃー重なるんですが、誰かがのぞいてる / 自分がのぞきをやってるという感じが常にあって」
「のぞきがいないかのぞいて来ますーとか言って、お湯から出たり入ったり。まあいい眺めではあったけどー♪」
 会話の処理速度も常人を上回る化け物カップルは、かみ合っているのかいないのか常人には分からないのでした。
「こりゃ、年寄りを置いてけぼりにするでない。つまりお前さんは人間であり、同時にAIであると?」
「そうなりますか。職場で浮きそうですね」
「二人で給料ひとり分……。ぜひうちへ来てくれい、バリバリ事務処理してくれそうじゃー♪」



 ―――そのころ。
 森でバリバリ発電しているのは、オカルト満載の生体電池です。
 中央のエナジープールを囲んで、余剰熱を利用したカップル温泉が点在します。
「ったくどいつもこいつも、イチャイチャイチャイチャ……」
 水底で膝を抱える巨人、の中にいるヨシザワス・ドール、の中にいるベンテーン卿は言いました。
「ワシが電気属性であり、同時に火属性であることを、みんな忘れとるようやのーう……」
 巨人の尻からごぼぼっと気泡が噴き出し、それは可燃性のメタンガスです。
「おっとガス漏れや。まだまだ溜めるで。原料の有機物にはことかかんからな。そしてこんな封印魔法、一気に吹き飛ばしたる。楽しみに待つがいい。屁ーこく王の復活をな―――!!」

(冷酷王のスピーチ・おしまい)

お付き合いありがとうございました!
次回「ベンテーン卿の復活」あるいは「解放奴隷クドージン」あるいは「カレーのお兄さま」で、お会いしましょう?(疑問形)
他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
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