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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。


はなまるファンとふざけたおとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全16話。第1話はこちら

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冷酷王のスピーチ(9)
「ふうっ……」
 ひと仕事終えたリューは、どかりと座って息を整えました。
 魔女はぐちゃぐちゃのまま横たわっています。
「…………ハアッ、ハアッ、ハッ……………………」
「ふふ、美味しくいただいたわ……」
「…………ハア、ハア、くそ……」
「えーでも、まだちゅーしかしてないよ?」
 アマネリアは不満げです。
 クドージンズはハッとして顔を見合わせました。
「まさかリューさんは、将軍から直接魔力を」
「そうよ。たっぷりいただいたわ。これで私の魔力は暫定で世界最強よ」
 世界最強のキス魔は、悪魔の魔力の源泉に直接舌を突っ込んだのでした。
「口へのキスは別料金とか言っとくべきでしたね」
「くそ……腰が抜けた……」
「すごいわ。もうMPがパンパンよ」
 リューは破れたシャツをもどかしげに脱ぎ捨てます。
「魔導法則がバグってる今、まともに魔法を使えるのは研究熱心な私だけだったわ。魔導師ギルドに目をつけられると厄介だから、見世物ていどの魔法しか使わずにいたけど……これだけのチャージがあれば……」
「何だ。世界征服でもするつもりか」
「そうさせてもらおうかしら」
 リューはぐっと拳を握り、○ィズニーアニメのように解き放ちました。
「れりごー!」
 ありのままの魔法が炸裂します。
 カタコンベに山と積まれた人骨がざばーんと崩れ、なだれを打ってまとまると、リボン状に渦を巻き、リューが右へ左へポーズを決めるたび、花弁状の結晶模様が広がっていきました。
「きれーい! 人骨だけど」
「フン。まだまだ見世物レベルだな」
「言ったわね。これでどう。りかしつ~~!」
 リューがぐぬぬぬ……と空気をつかみ上げるのに合わせ、骨格標本が足から順に何十体も組み上がります。
「からの、ほけんしつ!」
 ふぬっとボディビルポーズになると骨格たちにブチブチと筋肉が育ち、腱も筋も丸出しの彼らは、決して保健室の経穴筋肉模型のようではなく、それぞれ顔立ちの違う個々人なのが分かってきました。
「おい、やりすぎだぞ」
「そうですリューさん、これではほとんど……」
「ええ。禁じられた屍術、背徳のネクロマンシーよ」
 少しも怖くないわの顔でキメるリューに、男たちは縮み上がりました。
「し、死者をよみがえらせるということは、過去から未来へという時間の大原則をくつがえすことですよ。つまりトキ神の領域ですよ。つまり……」
「すごく怒られるぞ」
 魔女は一点を見つめており、すでにカレーなる記憶にさいなまれています。
「毎日まいにちカレーだぞ。朝でもカレー夜でもカレー、インド人だってたまにパスタとか食うぞ。ああ匂いまでよみがえってきた。炒めたスパイスの、埃っぽくてウザくて夏のキャンプ場みたいな」
「やだ、そんな匂う?」
 とっくに来ていたトキちゃんは、ゾンビの人垣の向こうで三角巾をぱたぱたさせるのでした。



 その頃。
「ああ、カレーっス……」
 王宮広場で、ハルは鼻をひくつかせました。
 看板はたたまれてガスの火も落ちており、屋台の店主はちょっと席をはずしているようです。
「ハル君や、大事な用を済ましてからじゃ」
「はいっス。帰りにぜったい食うっスよ~」
 衛兵も侍従もいない王宮はガランとしており、ハルと老人と貴族連合は誰にも会わずに玉座の間へと通りました。
「バチカンから聞いたとおりのノーチェックぶり。ここまで手薄だったとは……」
「とっとと乗り込んでいればよかったですね」
「ともあれ、さっそく声明を」
「ここはひとつ、ハル君にお願いしようかのう?」
 老人の提案に貴族連合も同意し、ハルはオホンと咳払いしました。
「どもっス! 貴族連合よりヨシザワス王に、楽しい革命のお知らせっスー!」
「何ー、だれー」
 のろのろと出てきたのはヨーコリーナです。
「う、酒くさ。飲んでるっスねー」
「悪いー? 昼間だけど職場だけど何か?」
「ヨーコリーナちゃん、王さまはどこかいのう」
「私が手酌でやり始めたら諦めて自分で調査行ったー。大勢でどうしたの? かくめいって何?」
「天命を失った為政者を廃して権力体制を革(あらた)める、抜本的な社会変革っス」
「語義はいいわよ。王さまと誰をすげ替えるって?」
「うふふ、わしじゃー」
「おじいちゃん?」



 王座が危機に瀕しているとも知らず、ヨシザワス王はのどかな自然の中にいました。
「こんにちは。女神さま~」
 泉に向かって呼ばわると、雨上がりの露天風呂はしっとりとした風情です。
「ヨシザワスですー。ちょっとお訊ねしたいことがありましてー。調査の結果、魔女どもは引っ越しのたびに隠れ家新設のDIY資材が必要になるはずなんですよねー。でも王都内の量販店にはそれらしい販売履歴がなくて、工房パトラならと思って伺ったんですがー。うちの間者がいよいよ当てにならなくて、こうして自分で来たんですけど、ひとりでしゃべってたらどんどん悲しくなってきたんで、早く出てきていただけますかー」
 説明ゼリフの甲斐もなく、応答はありません。
「出て来ないと温泉埋め立ててラブホ街にしますよー」
「がぼぼ」
 お湯の中から現れた女神は、濡れ髪をぶるんと振りました。
「ふん……素直に帰るタマじゃなかったネ」
「僕、居留守使われるようなことしましたっけ」
 女神はプンと横を向きます。
「例の布告のおかげで大迷惑ヨ」
「あれは、世界に魔法と秩序を取り戻す大計画なんですけど……。神の御前に本物の悪魔を突き出して、あらゆる善悪をもとのスペックに振り直す」
「一応目的があったネ。てっきりお前の好きな嫌がらせとばかり思てたヨ」
「ま、動機は嫌がらせです♪」
「そーかネ」
「動機が純粋だからトキちゃんも無下にはできなくて、魔女狩りが結果を出すまで待っててくれてるんですよー」
「待つって何をネ」
「僕の処刑です」
「お前、許してもらったんじゃなかったカ」
「だったんですけどよく考えると、あのくりくり坊主の理屈のせいで、僕が悪魔として自ら魔導バグを直さなきゃ反省したことにならないんですよね。いつまでたっても宿題やらないなら神への反逆とみなしてやっぱり地球の肥料にするわよ♪なんて言われちゃ、本物の悪魔を捕まえて突き出すしかないですよ」
「つまり、このアホの子が宿題終えるか身の証を立てるかするまで、トキちゃんずっとあそこでカレー屋やってるネ……」
 女神はアタタと頭を抱えました。
「超ウィザード級神さまが王宮前で目を光らせてくれるのはセキュリティ的に大助かりだったんですけど、いけなかったですか?」
「こちとらずっぽし監視対象ネ」
 自己解釈のファンタジーでテキトーに存在している女神パトラにとって、すべてをありがちパワーで民話の枠に押し込みかねないトキちゃんの重圧は、耐え難いストレスなのでした。
「配達であのへん行くたびおシッコちびりそうなるヨ。どーしてくれる」
「そりゃすいません。女神がちびったら世界観だいなしですよね」
「温泉開発したりDIYの小売りやったり、キャラの幅広げてるおかげで何とか存在保ってるヨ。金の斧・銀の斧路線一本だったら、今頃どんな夢オチにされてたカ」
「おとぎのキャラも大変だなあ。じゃなくて、そのDIYのことですよ。聞きたいのは」
「確かにウチで販売したヨ。ありがたい大量受注だった」
「配達はどこへ? 最新の住所が分かれば……」
「大量つったろ。運べなくて業者たのんだネ。“ドナドナ荷馬車の宅急便”」
「伝票とかありますか?」
「デスノート見れば分かるガ」
「…………キ、キャラの幅で死神もやってるんですか?」
「違うネ。DIY用品の販売控え。DIY Supplies Sold Note、略してディスノートヨ」
「紛らわしいなあ」



 紛らわしいノートがどうなったかと言うと、髪を濡らすのを嫌ったナイトが、雨除けに使っていました。びしょびしょになってポイされ、水路を流れ、商売に出ていた大フック船長の平底船に引っ掛かります。
「おや、商人にとって帳簿は命の次に大切ニャ。あとで届けてあげるニャ~」
 工房パトラのロゴがおされた黒いノート。
 最新のページに記された配達先は「王都 旧市街 納骨堂通り ゴミステーション下ル」です。
 下ルっていうか文字通り垂直地下に降りたカタコンベに、今、カレーの神さまトキちゃんが加わろうとしていました。



「…………お久しぶりね。皆さん」
「かみ「神さま、よよようこそ」そ」
 震えとユニゾンからエコーがハンパないクドージンズが出迎えます。
「さ「さすが、神さま除けの視覚トラップが消滅した途端に降臨されましたね」ね」
「えっ、視覚トラップって神さま除けだったの?」
 アマネリアはれりごー人骨に覆われたレンガ壁を飛び回りました。
「そっか、人骨が錯視模様を隠しちゃったんだね。あんなんでちゃんと効いてたんだ~」
「結界ってそういうものよ。分厚い防御をはりめぐらすより、ルート偽装でスルーしていただいた方が効率がいいの。特にこういうピュアでプリミティブな神さまは、お札ひとつにだまされてぽや~んと通り過ぎてくださるのよ。相変わらずタイプだわ……」
「魔法帯域のバランスに妙なダークサイド偏向があって、ずっと発信源を探してたの。あなたたちだったのね」
 トキちゃんはおごそかに近づこうとしますが、棒立ちゾンビが邪魔をします。
「ん、ちょっと。誰がこんな、宇宙の大原則に背くようなことをしたんですか?」
「はいはい、私よ♪」
「もー。死者をよみがえらせたいなら地道にドラゴンボール集めてくださいね」
「ごめんなさい♪」
「リューさん、声がはずんでる~」
「お前……、この場を逃れるためだけに魔法を使い、神を召喚したというのか」
 声だけドスを効かせた魔女は、クドージンズの後ろで縮こまっています。
「悪い? ガツガツしたティーンに身も心も蹂躙されるなんてゴメンなの。さあトキちゃん、重罪人の私をどこへでも連れてって♪」
 リューはゾンビどもをしっしと端に寄せ、トキちゃんの肩を抱きました。
「ゆっくり流れる時間の中でじっくりたっぷり反省させて。あと私、カレーは好きよ」
「リューさんずるーい。タイプの女子と何万年も一緒にいられるって、ほぼ天国じゃん~」
「……多分、そうはいかないでしょう」
「何よクドージン。水差さないでくれる」
 クドージンがヒソヒソと耳打ちすると、魔女とエルフがくっくと笑います。
「リューさんは本当に善良ね。こんなにすぐさま反省できる人に、お仕置きの必要なんてないわ」
 トキちゃんはそう言ってリューの手をポンポンし、優しく肩からはずすのでした。
「フラれたな。くく」
「メリットを期待してかかると裏切られる。ピュアでプリミティブな民話の基本です」
「そんな……トキちゃん、私ってばすっかり不心得者になったのよ。こんなことだってしちゃうのよ」
 えいっと指さすと、アマネリアが巨大化します。
「わ! 人間サイズだ、嬉しいリューさんありがと~!」
「えっ!」
「あっ!」
 遅れて声を上げたのはリューも含めた男たちです。
「エ、エルフって、あれ全部が眼だったのね。眼鏡っ子じゃなくて」
「はっきり言って……」
「怖い……」
 サイズ感だけ拡大されたエルフは、グレーの宇宙人みたいな複眼にひょろ長い四肢のバランスもおかしく、まんま人外の異形なのでした。
「これと等身大で付き合えてたってのは相当だな……」
「サミーさんてすごい人だったんですね……」
「何何? 私ヘンなの?」
「愛されてるって話よ」
 アマネリアはきょとんとしたまま、ポムッと元に戻ります。
「やん、もう終わり~?」
「リューさんの魔法チャージが尽きたのよ」
 目に見えることなら、トキちゃんはすべてお見通しでした。
「どこかの悪い魔法溜まりからMPを盗んできたんでしょうけど、エルフを人間に位相転換させることもできないなんて、かつて悪魔がたくらんだ世界征服の大野望に比べたら月とすっぽんぽん、大陸間弾道弾とちびっこエンピツぐらいのもの。お仕置きするまでもないのよ」
「エンピツ……」
 けちょんけちょんのリューは、悔しげに魔女っ娘をにらみました。
「負けたわ。今回ばかりはね」
「当然だろう」
「言っとくけど私、そこそこロケット砲ぐらいあるから」
「知るか」

第10話へつづく!)
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