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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。

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大江戸870夜町(4)


「いや全く、のんびり懸垂するには持ってこいの闇夜で、ほわ!」
 工藤が剣先を突きつけます。
「そちらさんに意趣あってどうこうとかじゃねえんで!」
「雅ちゃん!」
 男の背中には少女がしがみついていました。工藤が刀をおさめると、雅と呼ばれた男は、ビクつきながら窓枠に上がりました。
「縛りが甘いねお二人さん。亀甲が正しく掛かってないよ。野外ってだけで興奮する手合いは、どうもディテールをおろそかにして」
「吉澤さま、これはどう見ても命綱です」
「や、おっしゃるとおり、野暮なこって。間に合わせのぐるぐる巻きでさあ」
 雅はペコペコしてみせながら、くるりと襷をほどきました。
「天音、飛べ!」
「ええっ」
「下は水路だ、俺のこたいいから!」
「……!」
「おっと」
 天音がハラをくくるより一瞬早く、吉澤が帯をつかんでいます。
「やめとけば。へえ、見習い中のかむろちゃんだね。足抜けさせようっての?」
 雅は床にドンと両手をつきました。
「頼む、お武家さんがた。見逃してくれ」
 工藤は落書きだらけにされたメモをめくりました。
「雅さんというと、花札屋の従業員の方ですね。太鼓持ちとして入ったが地味すぎて降格。現在は下男」
「く、詳しいなあんた」
「こちらの天音さんは、親の借金のカタに吉原入り。父親は大工の福助、通称・大福親方」
「マジで詳しいな。あれか、風俗ライターか何かか」
「ほんの予備調査です」
「へえー。ねえねえ、出張人妻緊縛でオススメある?」
「そんな出張存じません」
 吉澤からメモをかばいつつ、工藤は吟味を続けました。
「お二人の入店時期が同じですね。何か理由が?」
 天音はすんすん鼻をすすりました。
「雅ちゃんは、お父っつぁんが使っていた下請け工なんです。慣れない色街で働いて、私を盗み出す機会をうかがってくれていたの」
 雅は首の後ろを掻きました。
「大福親方は、体壊して借金こさえるまではひとかどの棟梁だった。カンナかけりゃ削り節みてえに薄くてよお。俺を一人前にしてくれたなあ親方だ。恩人の娘をみすみす苦界に落とせるか、てやんでえ」
「雅ちゃん、ありがと」
「ひでぶ!」
「吉澤さま、なにゆえ奇声を」
 吉澤は、のあーと脱力しています。
「だって目から血が出るよないいハナシ……。で? 手に手を取って逃げた二人は、ささやかな所帯を持って幸せに暮らしましたとさ?」
「そんなんじゃねえ」
「ん、私はいいよ……」
「ばか、もじもじすんな」
「だって雅ちゃん」
「ぬえば! 目から、目から血がああ」
 のたうちまわる吉澤は放っておいて、工藤は主とうなずきを交わしました。
「雅さん。足抜けに手を貸しましょう。見返りに、情報収集を手伝っていただけますか。壁に細工ができれば座敷を直に探れます」
「任せとけ。覗き小窓に隠し扉、大福親方直伝のからくり木工ならお手のもんだ」
「ほう、大工にも色々あるのだな」
「専門は猫ドアでさあ」

 

 さて、天音は派手なお仕着せを脱ぎ、雅の古着を着込みます。頭から羽織をひっかぶれば、泥酔した若侍のように見えないこともありません。
「こんなんで大丈夫か。郭(くるわ)の人間は、客の顔と頭数を合わせるのが商売だぜ」
 雅は不安げでしたが、意を決して帳場へ向かいました。
「手四の間、お帰りでございやーす」
 声をかけると下足番が三人分の履き物を並べます。
「はいはいご散財、手四の間さま」
 貴重品預かりの大刀をいそいそと下ろした手代は、頭の中で三人分の顔認識リストを展開させていて、(1)不愛想三白眼(2)低姿勢地味男(3)は細目スマイルのはずでしたが……
「よう、たっぷり飲ましてくれたなクソが」
「おっ、お客さま」
「また来てやるぜ。ショボくせえ面ならべて待ってろ」
 細目スマイルどころでない殺気に手代は腰を抜かしました。
「どうかご勘弁を、ひいい」
「料理も口に合ったぜカス」
 言ってることは普通なのですが、縮みあがった手代には「殺すぞ」としか聞こえません。
 知らん顔の三白眼侍に続いて、四人目の客が便所スリッパで出て行きます。
 それどころではない下足番はヘたり込み、遣り手婆は泣き叫び、工藤は皆を助け起こして回りました。
「あの、障子を壊してしまったので弁償を」
「結構です、結構です!」
「うちの障子がボロくてごめんなさい!」
「生まれてごめんなさい!」
「いやまあ、ではこれで」
「必ず、またのお越しを」
 深々と頭を下げる雅に送られ、一行は阿鼻叫喚の帳場を後にしました。

第5話へつづく!)

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