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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全20話。第一話はこちら
ぽっかり開いた舞台中央に、長太刀がびよーんと立って揺れています。
「何、このパターン……」
「急に妙なことが起こって夢から覚めるっていうアレー?」
舞台裏でもクエスチョンマークが揺れまくりです。
「じゃあ、これってぜんぶ夢だったの?」
天音は半泣きで三味線を抱きしめました。
「雅ちゃんとパリ旅行なんて、幸せすぎると思ってた……」
「バカ、夢なわけねえだろ」
「だよね、月夜のデートも夢じゃなかったよね」
「し、知らねえぞ、やっぱ夢かも」
「人生ひとときの夢に過ぎニャいって哲学的たとえニャよ。深いニャア」
「違う違う。説明しよう♪」
吉澤は観客への配慮もおこたらず、二カ国語で始めるのでした。
「夢を見ながら、これは夢だと気づいてることってあるよね」
「ええ、まあ……」
サムライ二人は中段に構えたまま、吉澤が右へ行けば右に、左へ行けば左にと距離を取るばかりです。
「流れに大人しく付いて行きはするけどさ、丸っきり何かがおかしいと、頭のどこかで分かってる」
「やめてちょうだい。そうやって自由に動かれると、演劇のお約束で時間が止まってるみたいだわ」
「演劇のお約束ならいいですけど」
冬成はビクビクと暗がりを見回します。
「吉澤さんがマントをがばーってやると村正にビカビカーッと雷が落ちて、舞台がぱっくり割れたら僕たちはどこか知らないコンクリートジャングルで目覚める、とかそういうお約束だったらどうします」
「こ、怖い中二プロット広げないで」
舞台最奥まで歩いた吉澤は、そろりとマントをかき寄せました。
「全員に心当たりがあるはずだよ? これが現実のはずない、今にも舞台の底が抜け落ちるんじゃないか、そう頭のどっかで疑う気持ちが……」
「ダメ、ヨッシーどんどん怖い方向に行くみたいー」
「ニャアニャア、おいらチェシャ猫、ふしぎの国の夢オチニャよ~」
「お父っつぁん、がんばって」
「展開をこっちに取り戻すのよ」
舞台袖はてんやわんや、色んなものの境界線がブレブレです。
「皆さんお疲れですね。どうしましょう、若」
「無茶ブリには乗るまでだ」
桔梗介はブレない理性のかたまりであり、スマイルキープの吉澤に、抜き身をオラオラと指しつけました。
「目覚めているという感覚も、またひとつの幻想にすぎんと言うのだな。現実を疑いだせば切りがないぞ。どうオチをつける」
「リアリティですよー♪プレイのカナメはリアリティ♪」
「リアルかどうか判断するのは、当てにならない自分の主観だろう。基準の物差しが中二だったらどうにも」
「じゃ、こうしよう♪」
吉澤がマントを広げると、裏地はなぜかフランスパン柄です。
「今の僕らのリアリティがどれだけのもんか、お客さんに聞いてみようよ。アロー、マダームエムッシュー、僕フランスパンマン♪」
「おい、客に直接しゃべるやつがあるか。演劇のお約束ではステージと客席のあいだを見えない壁が隔てて……!」
止める間もなく、吉澤は壁を突き抜けてべらべらしゃべり始めます。
「工藤、何と言ってる」
「ここ最近のダイジェスト日本史でしょうか。明治維新からはなまる政権の発足から、仁科万博使節団の出発までをザザーッと」
ダイジェストの最後でドッと笑いが起き、爆笑はいつまでも収まろうとしません。
「かなり笑えるみたいー。ヨッシーのバゲットジョーク?」
「今日イチのウケだニャ。ちょっとショックニャ……」
客席は波打つように揺れています。
「冗談キツいわ、ジャポネーゼ~」
「遠路はるばるやってきて、フハハハ~」
「俺たちにはとてもできないぜ、そこにシビれる憧れるゥー」
「何て、劉さん!」
「工藤!」
通訳二人は、足元の底が抜けたようにフラリとよろめきました。
「我々は、大きな思い違いをしていたようです……」
(第十一話へつづく!)