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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全20話。第一話はこちら
「……相手になろう」
何語であっても、殺気あふれる宣戦布告は万国共通です。
サムライたちは三角形のフォーメーションから互いの利き手を牽制し、ゆっくり反時計回りに動き始めました。
「フン、刀を調達しに行っていたか」
吉澤のグリップにタグがぷらぷらしていて、「ムラマッサー」と読めます。
「日本パビリオン工芸館がすぐそこですからね。村正だ長船だ、名品がわんさかありましたよー♪」
「刃こぼれしても責任取らんぞ」
「下手な受け太刀なんかしませんよ。僕は攻め専門!」
吉澤が突きかかるのを桔梗介がかわし、工藤が飛びすさって場所を空けます。
「と、狭い」
「バカ正直に一人ずつ来るからさ。僕は二人いっぺんでもいいんだよ」
「おや吉澤さま。ケンカはサシでしかなさらない主義だったのでは?」
「おや工藤くん。あいにくカップルは二人で一人とカウントする主義でね」
「光栄です。もとより主とは一心同体」
「くっちゃべってると舌噛むぞ」
ビュッ。ズバッ。ダムッ。
剣風と踏み込みが入り乱れ、もうどれが誰の間合いか分かりません。
「こ、れは……」
「すごい」
「ワシも、ワシもヤりたい、んんん~」
袖幕にかじりついた弁天は、内股で腰をくねらせました。
「ぬあんてセクシーな命のやり取り……ワシも“いっぺんに来い”とか“舌噛むぞ”とか言いたい言われたい、でも日本刀コワい、ああ~」
アンビバレントな欲望に引き裂かれる弁天に、冬成がエクスカリバーを差し出します。
「上さま、こういうのはどうでしょう。蛇の尻尾から出てきた弁天そっくりのエクスカリバーの化身は卵の頃に別れた1つ違いのお兄さん蛇で」
「長い長い。それにワシ、その鈍重木刀であのハイスピード殺陣に斬り込む根性ないで」
吉澤が下から跳ね上げ、工藤が呼応して桔梗介がフェイク、まっ芯での打ち合いを受け流す角度で刃が触れると時折チカッと火花がともり、3Pチャンバラは呼吸ひとつはずしても命取りの超接近戦です。
「とと、うわっ!」
初めて太刀すじを読み違えた吉澤は、身をひねって転がりました。よれよれで起き上がり、エナメルのおシャレ靴を蹴り脱ぎます。
「ああ、もちろん靴のせいですね。おもり入りの特訓シューズでしたか?」
「うるさいな。サイズが合ってないんだよ。ちょっと慌てた時に、友達の旦那のを履いてきちゃって」
「間男め」
「その人妻属性のおかげで我々が苦労を……っ」
肉声のやり取りは「バーカ」「お前だってバーカ」の応酬ですが、字幕上はフランスのお家芸、市民革命をめぐる激論になっています。
「旧体制にしがみつくふんどしザムライを、パリ留学中の金髪ザムライが啓蒙するって感じでどうかしら。万博ホスト国に媚びててヤらしいけど」
「さすが劉さん、媚びすなわち王道の安定感ですよ!」
「びーえる臭よりずっとマシネ」
「一気にフィナーレ行くわよ」
「そろそろ終幕のようです、若」
「フン、俺が降参すればいいのか」
皆がスクリーンを見上げ……、字幕が出ました。
「金髪ザムライの熱い革命精神にふれたふんどしザムライは、この好青年にならふんどしを渡してもいいと考えるのであった。注・ふんどしはヤマトダマシイの象徴で、降伏の白旗に使う、と。すごい劉さん、何とか大団円です!」
「こらえてね、樋口さん」
劉が合掌し、あとは役者に託されます。
「う、ええと」
「どうした工藤。早く訳せ」
乱闘で着くずれた桔梗介は裾も割れまくり、客席からの視線誘導も完璧で、あとは前フリのまま終わるだけ、なのですが。
「客が俺を見ている。腹まわりへの期待度がすごいぞ。ハラキリか、ハラキリなのか」
「いえその、革命の夢を称えてめでたし? みたいな?」
「何だその語尾上げは」
「ぬるいよ。僕がわざわざ戻ってきたのは、そんなぬるぬるドリームのためだと思う?」
吉澤は握りを変え、フルスイングで村正を突き立てました。床に。
「吉澤、一体何を……」
「僕はね、みんなを夢から覚ましに来たんですよー♪」
(第十話へつづく!)