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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作であり、「大江戸870夜町(はなまるやちょう)」の続編です。他のHANA-MARU二次小説はこちらから。
おとなむけ。おこさまは よまないでくださいね。
全20話。第一話はこちら
ここは上海大飯店、貸し切りのバンケットルーム。
ぐるぐる回るターンテーブルには、フカヒレに酩酊海老に小籠包、ズラリと御馳走が並んでいます。
真ん中にデンと置かれた大皿には、人の顔ぐらいある巨大なゆでガニが山盛りです。
「陰のフィクサーなんぞやっとると、命の危険も多うなってのう。わしゃ殺られる前に殺ることにしたんじゃ。自分をー♪」
「……」
「……ぱきぱき」
じゃこ屋ジャックがようやくからくりを話し始めたのに、一同はカニの解体に夢中でした。
「ぱき……」
「……あ、上手に取れた……」
「……ちゅーちゅー」
「ナイトクルーズの屋形船をセッティングしての、上座のわしがバーンと撃たれての♪」
「撃たれるとは、弾着かスタンドインか」
「せっかくのむーびーきゃめらを使わん手があるかい。わしが頭を吹っ飛ばされる映像をフィギュアで撮っといたんじゃよー♪」
「……」
巨大ガニは身のほじりがいがありすぎて、ちゃんと話を聞いているのは工藤に殻をむいてもらってる桔梗介だけです。
自慢話を聞いてほしいご隠居は、せっせと老酒をお酌して回りました。
「ほれ、クレオちゃんに発注したじゃろ。じゃこ屋創業記念JAJAパーフェクトフィギュア、撃てばはじける脳漿入り」
「うえ」
「おじいちゃんやめてー、ちょうどカニ味噌行くとこだったのにー」
「残すならおいらがもらうニャ」
「いや食べるけどー」
「暗殺の決定的瞬間は特撮を使うとして、いつ本物と映像を入れ替える。どのタイミングでスクリーンを出せば」
「うっふっふ。スクリーンは最初から出しっぱじゃ♪会談まるまる、帆布に投影した映像のわしがおしゃべりするんじゃよー」
雅は小籠包のあつあつスープを噴きました。
「ふ、不可能だろ。事前に撮影したフィルムと、現場の流れが食い違ったらおしまいだぜ」
「しかもハルくんには何も言うとらん♪打ち合わせなしのリアクション一本勝負じゃ~」
「まあ、あれに芝居させるよりは素の反応を利用したほうが、劇的効果は上がるかもしれないわね」
「それそれ。会話はすべてこっちから振るのがミソでの」
「彼がどう答えるかなんて、三手先まで読めますもんねー♪」
吉澤は、ボウルの中でぴちぴち苦しむ酩酊海老を眺めてご機嫌です。
「ちょっと、そこのエスっ子」
劉はもう手酌で飲んでいます。
「アンタさあ。私たちがパリ万博の横断幕とか掲げて盛り上がってたのを、何だと思って聞いてたの」
「いや、大陸の向こうでやってる万博にオマージュを表明してんのかなーと」
「普通の会話でもパリパリ言ってたわよ。それは?」
「東洋のパリにテンション上がってんのかなーと」
「全く……大体アンタはこんなとこで何してたわけ。キスするわよ」
「せめて脈絡をください、くっ」
劉が酒瓶を蹴たてて襲いかかり、キス魔の惨劇を見慣れた一同は、ささっとお皿を避難させました。
「船旅のあいだ、されまくったニャア……」
「冷静な判断がつかなくなったのは、アレのせいもあるよな、樋口さん……」
「武士は言い訳せん……」
「ぷはっ」
巨体の下の吉澤は、息継ぎするのもやっとです。
「僕はただ自分探しの旅をっ……」
「嘘つきなさい」
吉澤がじたばたすると、ターンテーブルが回ります。
「上海で日系の売人が暗躍してるらしいことは、裏社会でも話題になってたわ。アンタ、イケナイ界隈でイケナイ薬をさばいてたわね?」
「マダムたちにささやかな夢を提供してただけですよー。僕のアンパンをお食べ?」
「アンパン屋バロン・ヨシザワの名は奥さまネットワークの口コミで広まり始めとってのう。大陸で薬物関係は重罪じゃ。いっぺん注意してやらねばと思っとったんじゃよ」
「悪いコね。ごめんなさいって言ってごらん」
「言うもんか。エスっ子の名にかけて、うぷ……!」
「わー、すご……」
「子供が見るもんじゃねえぞ」
見たい人も見たくない人もいて、キス魔とその餌食を乗せたターンテーブルは右へ左へ回されるのでした。
ほぐしてもらったカニの身をもぐもぐやりながら、桔梗介はマイペースです。
「殺し屋は。いつ寝返った」
「キースくんか。初めからこっちサイドじゃー♪」
ご隠居はカニの爪をダブルピースにして笑いました。
「贈答用ぶぶ漬けの詰め合わせと一緒にわしの暗殺依頼が来たそうで、親切に教えてくれたんじゃ。ほら、もう仕事はやっとらんから気軽にリークしてくれて」
「ぶぶ漬け……」
「忙しゅうなったのはそれからじゃ。樋口さんに密命を吹き込んで、樋口ホイホイで弁天くんを捕らえ、弁天くんが御用職人のクレオちゃんをスカウト、工藤さんにはもれなくヨーコちゃんが付いて来て、劉さんのツテから大福親方を技術チーフに、冬成くんを使節団長にすえてのう」
「……普通にみんなを旅行に誘う、とかでよかった違うカ」
「そうよー、おじいちゃん。私たちトモダチでしょー。おごってもらったことしかないけど」
「すまんのう。フィクサー生活が長いとすっかり陰謀体質になってな」
「パリ偽装は何のためよ? ドッキリが趣味だからじゃないでしょうね」
「テンション上がってもらうためじゃよー。一大国家イベントって感じがするじゃろ♪」
「気合い入りました。万博使節団長なんて大役」
「地球をぐるっと半周するんだもん。天音も連れてってって泣いて頼んじゃった」
「斗貴とも覚悟の別れをしてきた。どこの馬の骨とも知れんしょーもない清十郎と、しょーがなく結婚させてきたんだぞ。どうしてくれる」
「結果めでたくてよかったじゃないの。それより私はまだ納得してないの」
回り舞台で片膝を立てた劉は、ご隠居の胸ぐらをつかんで引き寄せました。
「ジャーナリストをひっかけた罪は重いわよ。三途の川を越えるほど濃厚なやつをお見舞いされたくなかったら、ディテールまで細かくしゃべりなさい」
「はわわ、えー使節団とともにわしが出国したあとは、はなまる屋のウェイトレスたちに噂を流してもらうんじゃ。万博使節団には妙な裏があるらしいのよハルくぅん……とな」
「兄ちゃんに?」
「身内を追放されたと聞かされて、ハルくんは当然怒るじゃろう。わしとハルくんとの軋轢を嗅ぎつけて、ある人物が接触してくる」
「ぶぶ漬けの人ね」
「使節団の秘密を明かすっちゅう口実で屋形船に誘い出したら、いよいよわしの登場じゃ。すでに撮影済みのフィルムじゃがの。暗いデッキに座ったわしがこう、ダークな魅力たっぷりに……」
じゃこ屋ジャックの手柄話が佳境に入ったそのとき。
「わあ、停電?」
バンケットルームの豪華なシャンデリアが激しく明滅しています。
「ぺー♪」
「何、何の音」
とぼけたような高音は、リコーダーの音です。
「ぺー♪」
「ぺぽぽぴぷー」
「ぷぴぽぽぺー」
メロディーラインは半音ずつ下降してはまた上がる、いかにもナニカ座の怪人っぽい不穏なテーマ曲です。
「これ、お小姓さんたちのリコーダー隊よ。縦笛系は得意なんだって」
「わ、若い娘がド下ネタ言ってんじゃねえ」
「えー、雅ちゃん何が?」
「知るか」
雅がアタフタしているうちに、パアンと照明が落とされました。
「ふっふっふ……、話はよう分かったで……」
(第十七話へつづく!)