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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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これはK96さんのwebマンガ+イラストサイト「870R」(サイトは18歳以上推奨)「HANA-MARU」からの二次創作です。(HNじゃいこ)

全26話。最下部に豪華イラストあり。第1話はこちら

他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

おこさまは よまないでくださいね。
 


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大江戸870夜町(26)


 大人の会話から弾かれた冬成は、ひとりホワイトボードを眺めていました。
「すごいスクープになりそうだなあ。劉さん、裏取り手伝わせてくださいね」
「裏取り? んなもの必要ないわよ」
「でも」
 冬成は疑わしそうに吉澤をチラ見ます。
「あんまり信用できる情報ソースじゃない気がするんですけど……」
「あら、何のために樋口さんに来てもらったと思ってるの」
 壁にもたれている桔梗介は大刀のつかから手を離さず、射程距離内の吉澤には抜刀のプレッシャーが十分伝わるのでした。
「政府職員が、廃刀令を何だと思ってるのかなー」
「礼装としての帯剣は許されている」
「ぶった斬る気マンマンのくせにー」
 表情は動じない吉澤ですが、常に逃げ場を探っており、結果どうでもいいことまでペラペラしゃべります。
「このお口が言うことなら、全面的に信用できるわ」
「僕はいつだって善意の固まりですよー。ホモ将軍にシンデレラの身元をチクることだってできたのに、黙っててあげたじゃないですかー」
「おちょくって遊びたいからでしょ」
「切り札を残しておくのは、フリーランス情報屋のたしなみですよー」
「あれ、ゴメンしたネ」
 クレオがきょとんとしてお茶を置きました。
「ホモ将軍に、連絡取ってしまったヨ。三白眼の彼氏発見したヨーて」
「ええっ」
「クレオさんとやら、連絡とはどのように?」
 クレオが懐をもぞもぞすると、マジシャンのように伝書鳩ロボが飛び出します。使い切りタイプの量産型です。
「新作フィギュアのご案内ついでに、お江戸の近況書いたネ。お得意さまだカラ、常宿の私書箱教えてもらってるヨ」
「どこの宿場だ」
「急いで回収すれば間に合います、若」
「奴ももう一介のホモでしょ。襲われてから応戦すればいいんじゃないの」
「そんなわけにいくか」
「ラストショーグンの動きに旧幕臣が便乗したら、そのまま挙兵につながりかねません」
 焦る樋口主従の注意がそれたそのとき。
「じゃ、僕はこれでー♪」
 スルリと間合いを抜けた吉澤は、あっという間に事務所を出て行きました。
「くそっ」
 工藤が窓に飛び付きますが。
「……尾行班がやられました」
 点々と倒れた政府職員をまたいで、吉澤の後ろ姿が路地に消えます。
「ナニこの緊迫感ー」
「吉澤さんって、倒幕の英雄だったんじゃないんスか?」
「激烈重要参考人として手配中です。何しろ行動の目的が分からない」
「アイツに目的なんてないわよ」
「邪魔したな」
 慌ただしく出て行きながら、桔梗介はココンとボードを叩きました。
「劉、このネタだが」
「分かってるわよ」
「記事にするのはこちらの許可を待ってもらうぞ」
「はいはい」
「助かります。いずれ何かの形でお礼を」
 工藤が差し出した公安の名刺を、劉はうさんくさげにつまみました。
「期待しないで待ってるわ」
「そういうわけで、皆さんにも監視が付きますので悪しからず」
「おい、サラッと何だって?」
 スネにいっぱい傷持つキースは敏感です。
「ほんの形式上のものですから。江戸を二日以上離れる際は当局にご一報を」
「なあに、くどりんって束縛するタイプー?」
「激烈重要参考人の発言内容は厳戒最高極大機密です。皆さんが轟天絶大超高度機密に触れた事実は記録されてしまいました。もちろんオニA級激ヤバ悶絶機密の内容は他言無用に」
「おい、これ以上ヤバいこと聞かねえうちに帰ろうぜ」
 面白話を聞きに集まったつもりの野次馬たちは、蜘蛛の子を散らすように帰っていきました。



「何なんですあれ。そりゃ取材を手伝ってもらいはしたけど、あの人たちにスクープを止める権利なんてあるのかなあ」
 にわかジャーナリストの冬成は憤慨しきりです。
「ある程度の妥協はやむなしよ。ネタが危険すぎる場合はね」
「危険?」
 劉はピラピラとホワイトボードを指さします。
「政権委譲の各段階で、手続き上の不備がありすぎるのよ。これじゃ徳川はいつだって幕政復帰を宣言できちゃうわ」
「でも、それが事実なんでしょう? ジャーナリズム精神に照らせば、公表するのがスジでは」
「政府転覆を狙う輩が飛びついて来そうでヤなの。公安連中の警戒っぷりを見たでしょ」
 冬成も素直にうなずきます。
「ほんの少しのスキが命取りになるって感じでしたね」
「新政府の屋台骨は相当ヤワよ。それを確かめられただけでも今日は収穫だわ」
「化かし合いだなあ」
 劉はホワイトボードをぐるんと裏返しました。
「本当の独占スクープはここからよ。コイツを叩き台にして、新政府のイカサマっぷりを暴いていくわ」
「劉さん、カッコイイ~」
「でコレは何」
 ボードの裏面に残っているのは、以前冬成が立てたプロットです。
「将軍暗殺の黒幕は、反抗期の娘?」
「あ、それは事実をもとにしたフィクションですから」
「変名にしたって丸分かりよ。華が花ってまんまじゃない。とーやまのキースさんとの濡れ場なんて、訴えられるわよ」
「大丈夫です。非売品ですから」
「非売品でもダメなもんはダ、……売らない本を作るって何よそれ? 版元はどこ?」
「うちの販促ノベルティなんです。ワンカップ仁科の6本パックを買うと官能黄表紙がついてくる」
「どういう商売なの」
「割とウケてるんですよ。キッチンドリンカーの奥さまから家飲みの腐女子まで、嗜好に合わせて韓流だーBLだー、大奥ものは永遠の定番ですし」
「盛り込みすぎてえらいことになるんじゃ」
「終わらない大長編になってます。そこがコレクション心をくすぐるんだって父さんは応援してくれて」
「いい親父さんじゃないの。それでアンタ、次から次へネタが尽きるのね」
「劉さんの取材にお供できて、助かってます」
「ご一新ネタは封印しとくのよ。ふーむ」
 劉は相関図に見入っています。
「全くのフィクションのつもりで事件を眺めてみるのも面白そうね。新たな切り口が見えてくるかも」
 相関図をたどる指がふと止まったのは、お金と殺し屋を結ぶ矢印です。
「ここで支払われた額が百両。将軍暗殺の報酬が百両って、小説のリアリティとしちゃ少なくない?」
「そうですか? 僕には大金ですよ。天音さんの身売り額が確か二十両でしたし」
「でも、江戸城中での殺しなのよ。入念な準備が必要になるわ。手数料込みで、少なくとも千両はくだらないはず」
「おー、千両」
「そして伊賀の里にそんな大金があったら、お金大好きっ子が嗅ぎつけるに決まってるわよね」
「確かに」
 あたふたと書類ボックスを開けた冬成は、未整理の取材メモをぶちまけました。
「仲介料ってことで、途中でごっそりピンハネされたのでは? 実行犯ってそういうものでしょう」
「下準備を伊賀者がやったんなら手数料は伊賀の取り分だけど、伊賀者はお城のことを知らないのよ」
「あ、陽光太夫も言ってましたね」
「侵入ルートを調べ上げた別の誰かがいるのかしら。聞き上手の太鼓持ちじゃあるまいし。んん……?」
 劉は床を見つめて立ち尽くします。
「ナチュラルボーン聞き上手にはひとり知り合いがいるわね……」
「に、兄ちゃんが何か?」
「江戸城侵入ルートを知り得る立場……、賭博合法化で困るのは何もヤクザだけじゃない……」
「あの、兄ちゃんはただの女好きですけど」
「ちょっと整理するわよ。伊賀者が監視バイトを請け負ってた賭場には、たいてい盛り場がセットになってる」
「そうですよ。祝杯にヤケ酒、賭場の近くは自然に飲み屋が繁盛しますが……」
「ここで問題。賭博合法化でヤクザ賭場がすたれ、街道沿いの盛り場が衰退すると、困るのは?」
 冬成はぽかんと見上げる姿勢です。
「それはだって……」
「街道沿いに寄港して、酒を卸してるー?」
「あのあの……」
「樽廻船の荷主のー?」
「う……」
 巨体にのしかかられ、冬成は半泣きで言いました。
「うちの父さん……」



「はっはっは。バレてしまっちゃしょうがありませんな」
 座敷に座った男が陽気に笑います。
 開け放った障子から差し込む光は畳ばかりをまぶしく照らし、顔がよく見えません。
「あっさり認められると拍子抜けじゃのう」
 差し向かいにいるのは、イベントの打ち合わせに来ていた越智屋のご隠居でした。
「うちの息子たちにも内緒にしておるのですがねえ。参考までに、どこで気づかれたかお聞かせ願えますか」
 仁科酒造当主は気楽な様子で席を立ち、ぴたりと障子を閉めたので、薄暗くなった室内にゴオオと効果音が鳴ることもなく、越智屋ご隠居はラスボスと対峙していました。
「謁見で仲良うなった大名連中とは、官能黄表紙の話題で盛り上がったんじゃ。皆、仁科のノベルティ黄表紙を通読しとった。非売品でコンプリートは難しいのに」
「次男が書いておりましてね。ご好評をいただいていますよ」
「で、その同じメンツが賭博取り締まりの復活を進言しとったと聞けば、思わず想像するじゃろう。諸大名にせっせと陳情したあんたが、将軍を消した張本人かなーと」
「まだ決定打に欠けますな」
 仁科父は愛想よい笑みを崩しません。
「えーとそうそう。江戸城チキンレースをやると言うたら、親切な太鼓持ちが心配してくれてのう。安全な侵入ルートから警備シフトまで、こと細かに教えてくれたわい。ありゃあんたとこの長男じゃったの」
「お客さまのニーズにはとことん答えるのが社のモットーですから」
「本来なら千両は下らん仕事になるじゃろうが、あれだけ準備が整っておれば、実行犯には実費だけ渡せば済んだはずじゃ。リーズナブルなお値打ち暗殺に、商人の影を感じたのは的外れかの」
「ご慧眼恐れ入ります」
 ふたたび障子を開け放つと、庭に潜んでいた鶴亀コンビが身構えており、仁科父は一歩どいてご隠居の無事な姿を見せてやりました。
「優秀な護衛ですな」
「心配症でかなわんわい」
 ご隠居はのんびりとあぐらを崩しました。
「ゾクゾクするのう~。世界中を回ってきたが、暗殺の黒幕というのに直接会うたのは初めてじゃ」
「ヤクザ賭場を守る義理はないですが、街道沿いの港々には苦労して開発した市場がありましてね。得意先のバランスが崩れては死活問題ですから。商いも戦争ですよ」
「戦争にしてもやり口が陰湿、いや奥ゆかしいのう。殺しはただひとたび、狙うは敵将のみとは」
「戦争は、規模が拡大するにつれて交戦の意味が軽くなりますからね。殺しが最小なら、効果は最大なんですよ」
「かっこええのう。小四郎や稲之衛門に聞かせてやりたいもんじゃて」
「おや、討伐された天狗党とお知り合いで?」
「同じ私塾のクラスメイトじゃ。子供の頃から威勢ばかりよくて、わしが世界一周しとるあいだに粛正されてしもうたわい。わしじゃったらもっと陰湿、いやもっとうまくやるんじゃがのう……」
「陰湿なツテならご紹介できますよ。黄表紙の印刷を頼んでいる七色活版の会というのが、裏社会に詳しゅうございましてね。発禁本や反政府ビラなんかも請け負うせいで、各種の非合法組織にネットワークが」
「ええぞええぞ。政府転覆して、年号をはなまる元年にしようかのう♪」
 お江戸はまだまだ波乱の日々が続くようです。
 めでたしめでたし。


~どうでもいい裏設定~
作中で使えませんでしたが、樋口家の所領は「関黒羽(かんくろう)藩」。関ヶ原のよこちょらへんにあると思います。


お付き合いありがとうございました! 他のHANA-MARU二次小説はこちらから。


原作者さまよりイラストをいただきました。文庫だ。文庫の表紙だ。
画像をクリックででっかく表示します。気絶注意!

桔梗介と大福棟梁

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