管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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作品と向き合った一読者の私がなぜそう感じたのかを言葉にしたく、土足感想ご容赦ねがいます。
作者さまが「なるほど的外れだ」と思えるよう具体的に書いたつもりです。
作中からの引用を「>」とします。ネタバレ配慮しておりません。01その手が隠したものは
お手本のような中二病に見とれながら読む。乱入突っ込みするのは誰かな?クラスメイトかな?とのんきにしてたら色々うまく運び、終わってみれば完全犯罪。ピリつかない田舎でよかった。うちも田舎だけどATM前でアッとか言っただけで女性行員も男性警備員も飛んで来てくれるなあ。つじつまが収束することにだんだん驚きがなくなっていくものの、「いい“手”だった」というお題消化でクスリとする幕切れ。
02月下鴨川、モノノケ踊りて、絵師が狩る。
道具だてもお家柄も生粋の京都人ぽいのによそゆきのような標準語。実は京都「人」ではないのかもと無駄に身構えた。ロマンいっぱいの入り口と、夏の光を感じる涼しい屋内。雑誌パラリの詩子さんは和服で絵師で水ようかん。いいねーとやり取りを味わいながら読むも二人の言葉つきが似ているので、スピードあふれるねこまたバトルなどでは読む目がつまづいた。「デデン」や「テンテケ」「鴨川にポン」などカタカナの響きと眺めが両方楽しい。色が舞い風が渦巻くバトルに圧力鍋が置かれる間合いが大好き。蝉の「ジィジィ」が時間を額縁のように切り取り、七森さんの焦燥と挫折を自分の回想のように肌近く感じた。詩子さんとの関係が深まるというより元からとんでもなく根深かったんだよ!という宣言に、私が小躍りして終幕。テンテケ、テンテケ……
03死の手招き
死についてあふれ出す思いの丈。良いことも悪いことも並列に語られ、天秤の目盛りがじわっと「良し」に傾いては次へと進む感じ。マドンナへの思慕と後悔、親しい友を次々看取り、ついにはマドンナと別れることになっても、「私」の天秤はかろうじて「良し」へと振れる。恐怖から始まって、疑義、怒り、この作品を書くような観想、そして受容へ。人生の燃料をしっかり燃やし切ろうとするような実直な語り。長生きしたら絶望なんて燃費の悪いことはしなくていいのだなと、自分の未来を重ねたりするのだった。
04なにも宿らない
「>私のピアノで人の心は動かない。」本当にそうだろうか。作中で聞こえるもの・見えるものを語り手が一方的に管理するような一人称。私が白と言えば白なのだ式の独断が続き、そのつど首を傾げていたら振り落とされてしまった感。
「>人の心を動かすことができる人間と、私の決定的な違いを。」それを聞き分ける耳がどこまで確かなのか、読んでる私には主人公の主張しか手がかりがない。聴衆が感動するかどうかが重要な基準なのかな。調律されたピアノはドミソと押さえただけで美しい。優れた詩なら棒読みでもひとりぐらい感動すると思う。主人公は「楽譜どおり弾いたけど何か?」とばかり、作曲家の仕事を無価値と決めつけているような。リストは怒っていいかも。
「>焦燥感と絶望感に由来する、自虐と内省を伴う高揚感に勢いよく衝き上げられ、溟海へと溺れていくような破滅的快楽」この演奏哲学にたどり着き、ピアノの前で何かを追い求めることができる主人公は、自分の演奏を嫌う理由についてはここまで豊かに語ってくれず、「聴衆が感動するかどうか」しか根拠がない感じ。
私は音楽がテーマの小説も好きだけどたまに実際の音楽評を読むのも好きで、音源を知らなくても聴いた気になるのが楽しい。字で読む演奏描写は読み手の中の理想の音を引っ張って来る。この演奏ではだめなんだというならその根拠が欲しいところ。音はガンガン鳴っている。主人公はお嬢さんとの関係を深めるのに忙しい。「>万人の喝采は永遠に降りかからない。」は自分にその価値があると思っている人の台詞のように響く。主人公の自虐に具体的な手がかりがないまま、結末へと突き進んだ。
たくさんある演奏家の物語は「演奏に人生を織り込め。分かりやすい恍惚をステージにぶちまけろ」だったり、また「弾き手はからっぽの器、楽譜の奴隷」だったりと色々で、それぞれ報われたり報われなかったりしながら苦闘する。本作の弾き手をどこに位置付けるか、私にとっては決め手がなかった。
05鏡の中にいて私の中にいなくてあなたの中にいるもの
ほんわかな語り口で差し出されるのはぶよぶよした水死体の手触り。眼球から亡霊をぺろりしたり魔法瓶にテプラしたりと、次に何が起こるか予測がつかない憑き物譚。プライド高い委員長が巫女の出自を嘲笑にかかり、それを察知する主人公は別に気にしないという短い流れが好き。テストの点数どころか人間そのものの優位に立ってる主人公。そんな彼女に最後はお説教されてしゅんとする。悪い心を持ってるとホラあなたにも悪いことが……というのはこういうものの定番オチだけど、「鏡」と言われると怖いのが、端末を閉じたときの黒い画面に映る自分で、手みたいな影(通信はここで途切れている
06憎たらしい愛にさながら
第三者に呼びかけたり位牌に語りかけるようだったり距離感が一定しないところに自分史ぽさを感じるモノローグ。俺さま夫にモヤモヤしながら読み、愛情はかなり前から漏れ出してるけど、すっかりさらけ出されてひっくり返る。どんでん返し効果の作用でなぜか、奥さんにかけた言葉も最初の憎まれ口と同じくらい信じられなくなってしまった。味噌汁への許可は実際は「んー作るなら食うわ……」ぐらいだったかも。えらそうなトーンは反省前の語り手による脚色かも。お嫁さん像を全うすることを妻が望んだ、と夫の口から聞かされる小説を、私が素直に受け取れないのかも。
愛してると言ったかどうかより大事なことを推し測る手がかりが、主人公(と読み手)にはある。奥さんはきれいにした髪を見て鏡にニッコリしてたはず。それでいいじゃん。奥さんからの要求は「お仕事がんばって」だよね。いいじゃんできてたじゃん。お粥を作ったぞと胸を張るところも、奥さんはきっとおもしれーと思ってたよ。本当に手助けしたいなら普段から水加減を聞いておくか、レトルトならよほど消化もいいし、目的はいかに頑張ったかじゃなく体力落ちてる人の栄養摂取だから、そういうとこ気が回らない主人公は、当てにされてなかったんだなあ。
糸を紡ぐ(繭から?)妻の隣に黙って座り、ちょっかいを出し始めるゆっくりした時間経過がいい。「愛してるを言葉にできるのが良い夫」「できなかった自分は不合格」という主人公の思い込みを、優しくほぐす家事メモ。わざわざ褒め言葉なんていただかなくとも私は立派にやりましたよという昭和主婦の誇りを感じたが、夫氏はやっぱり直接言いたいみたい。気持ちをまっすぐ言葉にできない彼が家をぐるぐる歩き回り「会いたい寂しい」がやっと表出したけれど、「伝える必要があるから会いたい」という方便に着地した感じ。
07迷い子の手
接写距離からはじまるお話。周辺情報が付け足されていき「ばねのような指関節」「>演奏を終えたばかりの指先には、まだ音の欠片が熱をもってこびりついている」あたりですっかり信頼。「>夏のにおいを連れてきた」と身体感覚が刺激され、楽師の一団がどっかから来て、王国がそれを迎えるんだな、それは違うにおいの集団が出会ってるんだなと理屈でなく分かる。読書体験が実体験にすり替わるような快感。
「>まるで涙をこらえているように歪曲する世界」このきれいな比喩が再読でずんと来る。そうだね、そうだね……
ハノンとの思い出から覚めるときも身体感覚が丁寧に揺さぶられ、「ハイ夢でした」と書いてあるよりずっと夢の名残りが鮮明で、目覚めたあとの現実に手触りがあり、そんな彼の運命の変転についての叙述と、老獪な誰かとの問答がセットで並走する。このあたり読んでてすごく焦燥感があり、すごく大事なことを言われてる、これ覚えとくべきやつだっけ何だっけ、アッアッ何だっけと気がかりで、別に謎があるわけじゃないのにやけに緊張高まり、物語の進行とは別の場所、情景描写や会話が続く地面の下で、ごごごとフィリピン海プレートが動いてる感じ。
師に背中をどやかされて着地。身体感覚よ(イテテ)。恋人たちの抱擁は「ああ、愛しい人ようやく!」みたいのよりは一歩ひかえた手短さで語られ、逃げ場のない圧力だけが高まるようで、やはり遠く聞こえるプレートテクトニクス。ごごご……
また夢が終わり、今度は異世界感拭い去られた着地。ピアノと義手とファミレスの日常に、ふつふつと悲しみが降りてくる。この体、次はこの体と憑依をくり返すような読書体験のせいで、映美の体の自由さと不自由さが手に取るように分かった。「ピアノが弾ける」は「ピアノまで弾ける」とごっちゃにされ、有難いことだよねと言われたらその通りで、反論しないのはコンクール規定に従うからじゃなく許せないから。吐き出せずよどんだ苺色の涙に、胸がつまる。ドラマチックでない映美は荒れ狂う鬱屈を自分であやしなだめすかしながら行くしかないんだ、誰も助けられないんだと絶望したとき、前触れもなく魔法が。ちょっとだめ泣きそう。
ハノン教則本と言えば反復練習にうんざりするやつ。プロアマの別なく真面目にピアノに取り組む人がちゃんとやるやつ。毎日何時間も練習し、ハノンハノンと念じていた映美の思いが彼女の本来の手を楽師ハノンに届け、ふたつの世界を繋いでいた。ひとりじゃないよ。明日も弾こう、ハノン。
08ナインティーン・イレブン
海外ドラマぽい小道具が置かれる中、なぜか気になる折り畳み傘。一度しか出て来ないけど。誰が何をしたのかそれぞれの言い分があり結末に至るが、ひどい男を懲らしめるなら薄暗い通りでやった方がよかったような。コルトが象徴する有無を言わさぬ生殺与奪と、人々のにぎやかな反応が釣り合わない感じ。店から逃げた客が通報してそう。いくら正義の行動でももう外にはSWATがいて、銃を振り回す主人公はわずかな身振りの誤解から射殺されるかもしれない。
09プディヤの祈りは銀の蝶になって
キラキラのタイトルから、きらきらきらーと枝をつたうように本文へ。世界観の紹介がプディヤ個人の夢と憧れにぴたりと沿って、ファンタジーの世界に入るのに「どっこいしょ」と頑張る必要がない。想念の泉のほとりに座る彼女も、目覚めて生活感ある窓辺に座る姿も、彩色ペン画で思い浮かぶ。恐鳥と通過儀礼と糸の姉妹と大屋根でみんなが幸せ、一部の隙も無く語られていた民族伝承を、ほかならぬプディヤの想念が乱し始めてどっきどき。幼いわがままと大人びた理性が塩梅よくせめぎ合い、プディヤはこのまま知らんぷりするかも、それでもいいかも~と刺激の大きい方へ行きたがる私。ひと針の乱れが蝶のはばたきのように風を乱し、人の運命を左右するなんて、そんなお話、読みたいよ!と煽る悪い野次が届いたかのように悪い方へ悪い方へ想像してしまうプディヤいい子。走って!まだ間に合う!いやだめか!
「>この場所にみなぎる銀色の力の輝きを、プディヤは感じていた。」思えば銀蝶の描写は冒頭から何度も挿しはさまれていて、知らないうちに銀色の花に取り囲まれていたような驚き。異界の底から原始の力を連れて来るようなプディヤの才が、誰かを大切に思うという素朴な祈りに裏打ちされ、彼女の母も祖母もそのまた母もと、ファミリーツリーが遠くまで見える。目がくらみそう。地に住む人の確かな手仕事が幾層にもなった吉祥文様みたいな物語の仕上げは、片膝の礼をとるキラキラの王子さまだった。キャンディキャンディのアンソニーよりユウアム兄さまが好き!と叫んだ私の昭和の魂を、銀のキラキラが包み込んで終幕。
10奇病と難病
ネットの向こうの誰かに心を寄せ、相手も答えてくれて、あかん、あかんでーと思いながら読み進む。さくっと身元を特定され、人間観察に精通した彼なら簡単なことだろうと主人公は納得してしまい、あかんのよーと終始ヤキモキ。案の定相手には最初から思惑があったのに、自己嫌悪をこじらせた孤独な主人公は、こんなに自分について調べてくれたと有り難がってしまう。逃げたいのか許したいのか、動物でいることへの畏れと憧れがぼんやりしたまま終わる感じ。見た目や立場に左右される醜い人間でいることに、主人公はどんな答えを見出したのだろう。
11トゥルーエンド
決意を固めたヒロイン。かぐや姫の妻問いみたいな三者三様仕立てがかっこいい。男たちとの問答は定型詩のように決まり文句で飾られ、キャラ別に色分けされた字幕フレームまで目に浮かぶ。予言者は人の子にすべてを知らせず、真のシナリオが存在し、実際に進むことで明かされるという仕掛けも楽し。ひとりは命を散らし、ふたり目も長くは続かず、三人目が穏やかな暮らしを手に入れる。三匹の子豚みたいなよくできたゲームバランスをすっかり見通している彼女の神通力はなんと並行世界まで及び、三幕の答え合わせが小さく閉じて終わらずに、小説の地平をはるばると拡大させた。
あまたの可能性からヒロインが選び取った未来は……?トゥルーエンドというタイトルが読み手の頭で鳴っているのを言わずもがなとばかり復唱はせず、先読みはできなかったが確かにこれを待ち望んでいたと思えるような決め台詞が答える。「>蒼様が護り黎様が治めアカネが暮らす国。私が一番愛した国(おとこ)。」よっナントカ!みたいに大向こうから声をかけたい。「>今、此処に始まる。」でお話が終わるの大好き。
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