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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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作品と向き合った一読者の私がなぜそう感じたのかを言葉にしたく、土足感想ご容赦ねがいます。
作者さまが「なるほど的外れだ」と思えるよう具体的に書いたつもりです。
作中からの引用を「>」とします。ネタバレ配慮しておりません。

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01糸子教授の人生リセット研究所
何を見ても横領シミュレーションしかしない主人公の思考回路があけっぴろげで憎めなくて好き。

マッドサイエンティストにマッドサイエンティストという評判が立っている点にひとひねり欲しいところ。頭がおかしいと言われてる研究者を信じて人はやってくるだろうか。その科学技術は作中世界においてどの程度うさんくさくて目くらまし的で、少しは信じるに足るものなのか、城島の棒読みとも糸子教授のサイエンス語とも違う、小説的にふざけたオハナシが聞きたいような。

五百万払うだけのもっともらしさがあるのではなく、いくらでも払うという精神状態の人が来る研究所。だったら別に光速を越えなくても、そういう人はドライアイスを仕込んだ壺にだってお金を出すのだと思う。糸子教授がドライアイス使いの占い師でも殺人鬼でもなく、ほんとうの科学技術で人を過去に送っていたというのはちょっと無理矢理かも。その科学技術は人間消失の責任を取れるのか。失踪者から支払われたお金について帳簿には何と書くのか。


02アフロディーテーの手
どれが誰のことかしっかり把握しないで読み進むけどいいのかな?と思ってる間についていけなくなったのは、生気あふれるのに儚くて、高揚してるのに諦観で、シニカルだったけどもう違う、言葉がバラバラなまま流れていく描写のせいか。夢の情景らしいと明かされても、誰が誰か分かるまで目が行きつ戻りつした。この「夢でした」という宣言がリズムを作り、「>秀才」「>学生」「>左手」(誰の?)「>AI倫理家」など、誰のことだかはぐらかしたような語りを前に進ませる。読みにくいが物語は進む。ここ楽しい。千裕の姿になかなかピントが合わないような歯がゆさは夢が遠景だからかな?と思っていると双方「彼女」だった。ナルホド。AIは便利な手足で、自分の手なら怖くないという理屈にナルホド。人は何とか理由をつけて、頭の中を好きに探らせることをAIに許したいのかもしれない。


03導かれた先は
自分を取り巻く環境について、興味の方向が違う兄と妹。推理ごっこが楽しく始まるが、もひとつお兄ちゃんすごーい!となりきらないのは、裏取りが弱いからかな。白い球がバレーボールかどうかも大会があったらしいことも、お兄ちゃんがそう言っただけのような。少年たちの部活の種類から今日の戦績まで、別方向からの証拠固めがあったら素敵。盛り上がってるらしい少年たちのおしゃべりは類推の手がかりにしないのだろうか。


04地面に手が生えていた
不思議な手を引っ張るときも汗ばんだ何かをつかんだような実感が薄いので、不思議解釈があるのかと思ったが現実に着地。「>振り返ると」とあるがどこを見たらいいのか光景が浮かばなかった。トイレ?の壁の中でひとがしんじゃってたニュースがあったなあ。


05現代人外住宅事情
ひとり暮らしで怖いことがあっても警察が当てにならないという部分が丁寧に描かれ、少女霊の登場を盛り上げる。ひとりで怖くて意味わかんない!と叫んだ後で座敷わらしと座敷わらし設定のすり合わせが始まって楽しいが、「出て行く」の意味するものが混線し、やり取りがちょっとぼやけた。

律子「>出て行って!」座敷わらし「>お金持ちになれるのに!?」の後「>いる間はいいけど出て行ったら貧乏になる」と律子が言うのでおかしな気分。「出て行ったら貧乏になる」と思ってる人が「出て行って」という言い方をするだろうか。「私に関わらないで」と言いたいんだってことは頭を整理すれば分かるけども。

私の知ってる座敷わらしに追い出す選択肢ってあったかなとさらに頭をひねる。今出て行くんでも貧乏にされるルールかもしれないのに、律子は心配じゃないのだろうか。すると律子の知識に沿うような命運バランスというルールが示され、何か利益を得てから貧乏になるのだな、座敷わらし本人が言うんだからそうなんだな、と納得すると同時に、簡単に安心していいのか、律子のこれまでの平穏だってそれなりの幸福とカウントされ、いきなり貧乏に突き落とされるかもしれないのに。とまたまた心配。これ切りがないやつだ。

ひとりで怖くて寄る辺なくて、誰か説明して!と叫んでいた律子に、たくさんたくさん説明をくれる座敷わらしはある意味救いなのかもしれないが、設定に次ぐ設定の整合性を取ったりはぐらかしたりするにも限界が来て、ラストはうまく力を外へ逃がす幕切れ。逃がすっていうか外部からなんかやって来そうな。


06魔女と秘密の88手
小学生だった自分への暖かい視線でお化け屋敷と肝試しの経緯が語られ、スルスル読ませる。隠れんぼのチート方法を発見し、同級生の幼い理屈の揚げ足を取り、でも言い負かすほどの人間力はない過去の自分へのエールのような一人称。一転、魔女が登場すると、彼の語りから切実さのようなものが切り離され、ついさっき焼きそばという選択はあんなにも彼の立ち位置に直結していたのに、なぜここでこの言い回しが必要なのか読んでいてピンと来ず、語りが現在に移っても言葉がどこか上滑って響いた。魔女のイリュージョンに魅了されたこととそれが恋かもしれないことを、トランプの切り札みたいに伏せながら物語を進めたせいかも。訳も分からず魅了されたことも、それを恋の魔法と思ってみようという考えも、どっちも主人公(と読み手)にとってはずっとオープンだったカードのはずで、今カードを開きました!という演出は何も知らない師匠向けであり、読み手向けには機能しない気がする。師匠に手札を披露する主人公の後ろで彼のおしりを見せられている読み手へのサービスとして、ラストの探偵宛てメッセージがあるのかもしれない。


07最果ての巫女
「>私のおちびさん」「>俺はもはや小さくはない」と挨拶が一往復するあいだにも二人の背景に豊かな奥行きが確保され、しびれまくり。折り目正しい会話を追うだけでそこに廃墟が、森と魔物が、王国と歴史が現れる。地の文は異形の風貌から柔肌にドギマギするかぎ爪の小さな遠慮までくまなく拾い、舞台装置と視野のスケールは固定されることがなく、読みながら自由にそこらを飛び回れるような読書体験。台詞の一行で高貴な巫女は瞬く間に奴隷の子の悲哀を帯び、みじめな牢獄と見えた廃墟は「>倒れた石柱は苔むして、逍遥に疲れた貴女のひとときの御座所の誉れを享ける」なんて祝福を受け再び輝く。梟氏、詩人や……親鳥の君が詩人だからだな。「>虹を背負うとは思いも寄らぬ孔雀の雛」。後宮の文芸サロン仕込みだきっと。かっけー

旧知の二人が身の上を確かめ合う必要はほんとうはないのだけど、古典演劇の導入部のように自然に互いをからかいつつ、恋のさやあてがたっぷり盛り込まれる。「>刺客のナイフ」「>糸を通さぬ真珠」など、いつだって力押しの展開にいけまっせというほのめかしと、寸前で踏みとどまるような均衡にうっとり。「>数ならぬ娘」「>森の化け物の一匹に過ぎない」なんて卑下し合う二人に「お似合いってことでしょ!」と地団駄踏んでポップコーンが止まらない客席の私。片方が片方の名付け親であるという優位が天秤を一方へかしいだままにさせる。いいねえ……コーラずぞぞ

「>魔物に秘密を漏らしたがために破滅する人間の御伽噺」がお約束の壁として二人の間に立ちはだかる。それは外部世界の私にとってもお馴染みの定型で、ファンタジーの内と外が地続きになるような愉悦。と思うと巫女姫の拒絶の理由はもっと深いところに根差しており、定型の壁のくずれたところから漆黒のダンジョンに連れ込まれた感。毒を逃れて生きのびたはずの無垢なる巫女は、毒の考えを抱きしめることでやっと立っていたのかもしれない。

「>森の悪意によって小鹿ではなく魔物を孕まされた」これをひと息に聞かされるから読んでてガッチリ捕まえられてしまうんだ。うっとり

禁を冒して救った養い子は巫女の輝ける存在証明であり、ふりほどけない呪いであり、たったひとりの話し相手で、まがまがしいお土産を差し出しては今日こそ真名を教えてとねだるのをきっとやめない厄介な崇拝者。手の中の薔薇の圧倒的な余韻。蜜に溺れた蝶の憐れにわが身を重ね、いつか孤独に耐えきれなくなる末路を巫女自身期待しているようでもあり、「>(真名は)奪われれば無防備そのもの」なんて言い方が誘惑みたいに響くことも互いに気づかぬふりをして、全く歯ぎしりが止まらねえな!(私が妖魔化)

だまされてにせものの薔薇を守ってる青銅の獅子かわいーよ!


08巡り巡って
いい子と過ごす一日。ナツキの肉声があまり聞こえず、台詞はあっても主人公モノローグによる「いい子」フィルターをはさんだような歯がゆい距離感。お昼を食べるのにナツキが素直に「従った」ことを「心を許した」と表現していてハテナ。「>いつでも遊びにおいでと言ってあげた」の「あげた」がモヤモヤする。預かった子をちゃんとお世話できたお手柄感が先に立ち、それは何だかとてもコドモっぽい。主人公も成長の途中なのだろうか。自分に「うん」と合いの手を入れ「>判らない」のを自分でちゃんと判ってます、と迷いなく断ずるような口調の彼女に、どこまで物が見えているのか、彼女の語りについていっていいのか、最後まで確信が持てなかった気がする。新生児取り違えによる巡り合わせには続きがあるとほのめかしたいのか、「笑い飛ばす」などのカラ元気にまぎらせ触れずにおきたいのか、自分にとって既知の情報をわざわざ説明する必要がない独り言と、小説としての独白形態がうまく結びついていない感じ。


09手を貸した話
いかにもそれっぽい体験談から「金かき指」なんて民話風?世界へ。そんな怪しい業者、契約しない方がいいですよ!と止めることまではしなかった語り手は、幸運に恵まれはじめたAさんを突き放すように見ており、平たい体験談口調をキープする。しっぺ返しを受けたらいいのにと心の底では思っているようでもあり、それは読んでる私の願望の投影かもしれず、ばつんと閉じる幕切れにふさわしい後味。


10ハンスと五本指の魔法
少しもったいつけて始まる童話調。老婆にかける第一声「>ついているな」が大好き。旅の始まりで元気いっぱいのハンス、冗談口で励ましたいほど弱々しげな老婆、といったものは地の文で表現されたけど、読んでる私と同じものを作中人物も見ていると分かるのはとても安心する。「>片手間」「>片手程度の手助け」と釣り合いの取れたやり取りで信頼さらに増し、へんてこな黒マニキュアの魔法にも不安は抱かず、ハンスと一緒に旅をする。山の三兄弟・ライバル靴職人などテンポがありつつ仕掛けは薄め。

はじめ「爪をきゅいっ」は全部の指をいっぺんにこすってるように思えたので、魔法の持ち弾が指五本分だということをもっと早くから強調したらどうだろう?と考えたけど、中指、薬指、小指とサイズ感をたどる展開は先読みできるともったいない気もする。手指を使った数え歌のような流れに結局は心地よく身を任せた。小指のお姫さまを拒絶して真実の愛がダメ押しされ、「どこまでも歩ける靴」に一番の魔法が宿る。お金もあるし(ここ大事)めでたし。


11黄昏時にその店は開く
採算度外視の飲食店、お代はこころざしとなると、無人の野菜直売所みたいなものだろうか。悪い人がズルすることもできるけど、友だちだけが集まるようにすることもできる。友だちなら不安定な仕入れでも大丈夫。友だち同士の会話に味わいが薄く、台詞の後に「>弾む会話」と書いてあるなどして興をそがれた。

買い物難民のいる地域にできるショッピングモールなら宅送サービスなんかもありそうだ。受け入れてもよかったのかもしれない。でも明良はモールで高い家賃の店を持つより友だちに飯を振る舞いたいんだな。明良にとっての魔法って何だろう。見知らぬ人においしいと言わせることとは違うみたい。そういう夢を持つ誰かは、地元を捨てて都会へ出るしかないのかなと思った。
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