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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージは記事付属コメントかページ最下段のフォームどちらでもどうぞ
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ネタバレ・辛口ご注意ください。
作者さまの心情を切り捨てることがあるかもしれません。
でも小説を切り捨てることはしないと誓います。
納得行くまで向き合います。
あくまで私の納得なので、小説のためになるかどうか、誤読がないかどうかは分かりません。

H01  「Where is the princess?」

雰囲気たっぷりのコードネームミッション。家族の世間話を振ったりして海外ドラマみたい。交渉人と参考人が探り合いながら交わす会話は、必然として説明調になるのだけど、地の文まで釣られて説明側に回るのはおかしいと思う。

「>アイナは不思議そうに問う。」
表情を不思議そうにして、という意味かもしれないけど、地の文がこう言うと、アイナは次の台詞を心から不思議に思ってるみたいに響く。
「>ディーノは死んだ。あなたは自由よ」
事実だけを伝えるこの台詞は、地の文が何も説明しなくても、プロとして冷静に、でも複雑な背景を踏まえて言われたように響くと思う。

「>レイチェルのセリフにアイナは新たに驚きを感じる。」
レイチェルが脅されてるという仮説をもってのぞんでいるのだから、アイナが驚いてみせることはあっても、地の文を巻き込んでまで内心に踏み込む必要はないと思う。真意を隠した二人の台詞が事件のうわっつらを説明するあいだ、地の文はもっと知らん顔でいていいのでは。

「>理解できないという素振りのアイナに、あっさりと演技と切り捨て、フレデリックは話題を変える。」
細かい情報が山盛りで台詞と重複する内容もあり、小説が広がっていかないような。ここは台詞だけで分からせてもらって、それに続く
「>ブレロ一味の一員に殺され、殉職したアイナの相棒だったフレデリックは、いつもアイナと娘のフローラを気にかけてくれていた。」
に読み手の私は集中したい。殉職したのは夫かなと読みとれはするけど、ブレロ一味の罪は悪事一般に加えて警官殺しだし、荷物がいっぱいの長文でついでのように触れる話じゃないと思う。

「>何かがおかしい。/ 二人はそれに気付き始めていた。」
という回想が明かされた以上、交渉は事件の真相をつかんだものとして動いてたんだよね。なのに地の文はオープニングからずっと
「>ディーノの死後、レイチェルはブレロ一味の女ボスになった。そのことがアイナには腑に落ちなかった。」
と、真相は闇の中みたいな口ぶり。これが、娘を人質に取られてるという仮説を立てる前のアイナの疑念を指してるとして、「そのことがアイナには(以前から)腑に落ちなかった」と読むべきだとしても、この段落でそれを言うのは、読み手をどうかして煙に巻こうとしている感じ。「実は分かってた」というフォローが入るたび、地の文を信用できなくなる。

「>部下の車に乗せられて警察署に向かう二人を見送りながら、」
ラストシーンを始めるための情景なのに、細切れの情報が山盛り。「二人」って部下もカウントされてるのだろうか。愛に包まれているフローラは苦痛の演技ヘタっぴであれと祈った。

H02  Eve or Vandor

強い絆で惹かれ合うカップル。運命について交互に歌われるデュエットが、じりじりと乖離していく。
「>貴方と惹かれ合ったのは、《獣》を封印した後だったから。」
世間並みな意味での愛情かどうかについて、カップルの理解がここで完全にすれ違う。でも同時に、二人の絆についての新解釈が、結局二人を強く結び合わせる。冒頭と同じ繰り返しが続いていくことを想像させながら、意味するものがぐんと変わる構成。かっちょいー!張りつめた文体は緩急が少なく、読む作業は少し退屈。

H03  さようなら、おじさま

孤独なおじさま。鷲鼻が気になって仕方ない少女がかわいい。おじさまの愛情表現が不器用なのは仕方ないとして、キスされた途端、エルシーの感情までこわばり始める。別れの決断に自分の気持ちは考慮に入れず、おじさま側の理由を勝手に先回りして自分を納得させたのは、深夜の酔っぱらいに男として恐怖を感じたからだ、と、大人になったエルシーが言葉で整理できたりしないかなと思いながら読んだ。

自分の恋心を「ただの家族愛だ」と否定することは年の差カップルにありがちな回り道だけど、彼らはお互いに「相手の」恋心を頭から否定してかかった。自分の恋だけが確かな異物としてそこにあるという羞恥と思い込みが、読み物としてしんどく、小説のテーマはそこじゃないので解決もされない感じ。

長い時間を経て化け物のようになるかもしれなかった感情は、仮死状態にされており、一回血を流してから目を覚ます。鷲鼻へのくすぐりも復活。

H04  さいわいのきみ

「>とおい、花兎の手の届かない、神様のすまいへいってしまった。」
で始まる優しい物語を、失われてしまうものという前提で読むと、後半「そういう意味ではない」と明かされてがっかりすると同時に、読み手の自分が不幸話大好き人間のように思えてきてショボンとなる。

考えたら、日だまりでウトウトする子の髪とか、御堂に満ちあふれる聖歌とか、大きい兄姉に世話を焼かれた思い出とかは、誰かが死んだりしなくても、必ず過ぎ去って失われていくものなのに、前半で主人公が「いなくなってしまった」と語ったうつくしいものは、後半になると、十年我慢すれば間違いなくその手に戻されると分かっていたもののようになっている。どこかで何かの論理がすり替えられたような。

都での彼がどんな風に変わるか、街に残る自分がどんな風に変わるか、誰にも分からないから共に過ごせぬ十年がつらいのに、「>返事なんて、ずっと昔から決まっていたひとつ以外にあるわけがない。」と断言してしまっては、ずっと願っていたものを願い通り返してもらえる日が来た驚きについて、何かに感謝することを忘れてしまっていると思う。

そして彼が無事に戻って来ても、幼い日に聖堂を満たした奇跡のような輝きは確かに二度と戻らないわけで、だからこそまばゆく見えるはずの過ぎゆく「今」を尊び惜しむことさえ、彼らにはできないんじゃないかと思ってしまった。

H05  磐縒姫(いわよりひめ)

バレエは舞台メイクがすごいから子供は全員笑われるよ、手足短いとか肩曲がってるとかの舞台栄え的な差別のほうがえぐいんだよ、と必死に弁護。まあ日本のお稽古バレエの悪習として、発表会費用を丸抱えしてくれる財閥令嬢は、陰で落書きするぐらいしか物の言えない相手なんだろうけど。容姿イマイチという前評判を本番の舞台で吹き飛ばす、という前フリに馴染みすぎたバレエ漫画ファンとしては、辞める理由は、彼女自身が踊っていても心楽しまないことであってほしかった。どんなにお上手を言われてもお手本である美女プリマのようにはとても見えない、と、自分で自分のコンプレックスを密かに増幅させる装置としてなら、バレエの華やかさは陰湿方面に活かされると思うし、心ない落書きは、彼女にとってコンプレックスのありかを指し示されたというショックになるのではと思う。

というこれぐらいの叩き台をギュッと濃縮して一文にしてあるような、キレよい語りが心地よい。心情処理がたまに乱暴でも読ませる。読ませるというのは大事だなあと。彼女がフランスに導かれるまでのいきさつがサクサク繋がり、フランスで見つけたものについてとなると、小説はいよいよ親切な説明をやめる。重要なのは、神の色への彼女の敬意がいかに清らかで私心がないかということ。巫女として神前に進む資格を備えているかどうかという諮問が、ずっと前から始まってたんだと、読みながら気づく。ひたすらな無私の心で神事を継承してきた先祖たちと違い、理知の光で神座の御簾の内をちょっと照らしたのかもしれない彼女は、過去のどこかの思い出のように神の顔を知ることを許された。ちょっと不遜、だけど特別、という彩香の特別さが、破格に善良でストイックである以上の何かで肉付けされていたら、もう脳内でアニメ化される勢いの伝奇ファンタジー。Production I.G.キャラのダークめなやつで。

H06  くれなゐの鬼

「>紅丸には関わりのないことだ。」
闇を支配する鬼にとっては、いつに変わらぬ同じ夜。孤独を運命づけられている閉塞感と重なって、大変コノミ。

「>その思いの強さが、紅丸にはわからない。わからないから不安になる。不安は、紅丸の最も嫌いなものだった。」
人外のドライな心象風景が、行動動機と一緒になったステキ文。

アクションシーンは台詞と地の文の掛け合いにテンポが見えず、読んでいてもたついた。「>間髪入れずに応じた紅丸」や「>紅丸は気にもとめない。」など、答えをそのまま書いてある感じに驚きがない。「>〈潰れ眼〉に抱えられていた少女」「>短刀のような鋭い爪を持つ右手」「>少女が小さくあげた悲鳴」など、今この瞬間起こったんじゃないことが形容として乗っけてあり、緊張感が死んだ。

「>かけるべき言葉、だなどとおこがましい。鬼の子たる自分が、一人前に、他人を慰めようだなどと、笑えない冗談だ。」
少し卑屈に響くような。ややこしい人情から自由であることを恥じる紅丸ではないと思う。

「>それはふたりのこれからの、長い旅の行く末を、表しているようだった。」
これを言われたら「そうなんだ」と思うしかない。「ようだった」という語尾が「こう感じてね」という感情の色指定のように響く。ラストの一文は全体に響きわたるから、指定付きで締めくくる自信のなさは、「自信のない小説を読んだな」という読後感になった。

H07  薔薇の娘 注

誰も嘘は言ってない、というアリバイがしっかり作られている感じ。窮屈な入り口は解放を予感させる。

秘密の核心をそらさぬオープンな語りが、母親の虐待と密かな情欲をコペルニクス的に転回させる。同時にミアの容貌が、嗜虐をそそる一定の条件を自動的に満たしていた、というような伏線にすり替わることに違和感。何にドキドキするかは人によって違うと思う。悩める母親が誰にも理解されないと思い詰めた秘密がソノ世界では共通認識として通用した、というような皮肉が、小説の真面目な語りの中に着地点を見つけられないまま終わってしまう印象。

「>恋い慕う母から忌み嫌われ自分の存在価値をどこにも見出せない、そんな終わりの見えぬ精神的苦痛」
この理屈の整った出発点が「すべてマリアのために」という狂気の土台になっているけど、途中の骨組みがつながらない感じ。「マリアは私を必要としてる」は「私がいないとマリアは困る」になって、力関係ではもうミアの方が強いのに。オープンな語りですべて言い尽くそうとしすぎているのかも。危険を提供する私娼館は安心して通えるかどうかが重要で、マリアのような子供ひとりの手引きに土地の名士が大金を払う気になるとはちょっと思えない。

傷だらけの体にほれぼれするって、狂ってるなあ。ここでは誰も「あいつ狂ってるなあ」と言わない。常に自分の側の理屈だけを注視している感じ。そこから解放される小説ではなかった。

H08  白雪異聞

捨てられた者同士の共感。女主人の登場に、清平が初対面のように驚嘆している。小説の導入としては読み迷った。「あ、違うんだな」と思えばいいんだけど。

「>恥知らず、と嗤われても致し方ない無作法」
と分厚い風俗設定がされているかと思うとひとりで街を歩いていたり、平安室町な道具だてがよく見えない感じ。

「>恨み言をもらした事は、一度も無い。」
では姫は何を言い、どんな話をする人なのか、という印象が固まらない。「>見え見えの下心」は多少隠しだてがないとおかしいような。皇子はただ横柄に庇護の申し出をしたんだと思う。

決意の武装というヤマ場が始まってから新たに出てくる情報が多い印象。「>その姿はいつもの、粗末ながらも女性らしさを失わない楚々とした着物姿」や「>剣術を仕込み軽鎧のまとい方も教えた」などが数段前で語られていたら「オオッ」と思えたかも。この場を逃れさえすれば姫は一人でも大丈夫と思えるようなあてが清平にはあったのかしら。

H09  ミューズ

水も漏らさぬ一人称。のっけから高難度ピアノ曲を「読む」という楽しさ。演奏を聴かなくても読むだけで盛り上がれる音楽評があるけどあの感じ。「音楽が鳴っていますよ」という表現に耳が慣れたら、色聴という要素を加えてもう一度。木で鼻をくくったようなですます調が、丁寧すぎるほど丁寧に色を置いていく。色聴描写という変化球に耳を慣らすためという建て前に、お話の伏線(色は静止画のように孤立してる)がぴったり張り付いてる。これを後々思い出すことまで含めて爽快。「>その中にどれだけ彼を心の底から祝福している人間がいるか」の意地悪な配置^^。「いっぺん黒い想像をするがいい」というトラップにしっかりかかる。

ミューズの愛を求めて得られなかった人の静かな諦観と分かれば、ですます調はただの丁寧語ではない。突然の名指し「>あなたみたいな人を言うのですよ。」が悲鳴のよう。お話が次の段階へ上がるときに高地トレーニングが済んでいる感じ。これまで聞いた内容がバウムクーヘン状に分厚く巻き付いている。書き手の「よし」という合図で、伏線ごと構成ごと、ばくーっといただく快感設計。

「>その事を彼女が知るのは果たしていつになるでしょうか。」
という一見怖い締めくくりが、もう一段高い場所への入り口であるかのように期待したのは望みすぎか。先生の天賦の才と天賦の呪いが、花純の希望の火を消し尽くした。……ように見えるけど実は!という展開に慣らされすぎてイカン。

単色プレイヤーは一枚の絵をひとりで完成させることがないかわり、別の誰かの音と出会って混じることができると思う。「>たどたどしくて、ちょっとツンツンしている花純ちゃんの『ラ・カンパネッラ』の方が好きです」と言ってくれるような誰かと、「ツンツンしちゃって」「ウルサイわね」と会話をするみたいな演奏世界が、花純の前にはまだ開けていないか。そこをちらっと思い出せたら、語り手である先生が使った狭義のミューズよりもっと大きくて深い女神の慈悲の腕に抱かれて、小説が終わったように思う。

H10  水の、匂い。

「>かじられたような痛み」がさらっと気持ちいい。「>ざらめ雪は粉雪とは違い、多分に黒っぽい。」陰影で知る雪景色。

「>唯一奇妙な僕の緊張感を和らげてくれ」
方言を結ぶ伏線だけど、「妙な文だな」という印象で覚えてた気が。ラストで「オッ」と思うためには不要かも。「のす」とか「だえん?」とか、えーなー方言。賢者の教えが長年のわだかまりをほぐしたというより、目の前のユキの存在感が何より主人公に「それでやってける」と保証したんだろう。

「>この世で色なんて概念ほどおぼろげで頼りないものはねんだ。」
自分への執着や見える見えないを巡る箴言がドバッと出てくる。孤独な暮らしの中でひとり考え巡らせていたものが、聞き手を見つけてあふれ出した感じ。教えを受けるばかりで終わる異界との接触に、あとちょっと精霊側からの「聞いてくれてありがとう」みたいな可愛げがあったら、夢から覚めて……という余韻が続きそう。

「>その日、僕は怒られながらも初めて一人で炭を焼いた。」
語りの余韻がぎゅーんと響きわたる一文。

H11  perfume of mystery 注

ニックネームの由来をやり取りしたりして、刑事ドラマの初回第一場ならこんな感じ。短編小説でやる意図はちょっと分からなかった。あいりのため息が小説のどこかと共鳴するようにも思えない。這いつくばって嗅ぎ取る臭跡は「perfume」より「smell」の語感のがしっくりくる感じ。特殊な職場の不思議さに、あいりがその都度見解を出してくれ、「mystery」っぽさも響かないような。

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