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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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870R」(サイトは18歳以上推奨)さんへの止まらないお祭投稿、テキスト作品ふたつめです。


鎮火は諦め、酸素を使いきるまで存分に燃えるがいい!という迷惑な前のめり投稿です^^。


例によって描写はわたし基準による全年齢向け。投稿時のHNは「じゃいこ」です。


他のHANA-MARU二次小説はこちらから。

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はなまる寄席

「はいどうもー! サカズキ兄弟です。こちらが所長で私が副所長、盃交わした義兄弟で漫才やってるんですけどもね。所長も何かおっしゃってくださいよ」
「頑張っていかんといかんなあ」
「棒読みだな! ところで昔話っていいですよね。所長は“かいばしらひめのおんがえし”ってお話ご存知ですか?」
「知らん」
「少し教えてさしあげますよ。むかしむかしあるところに、ひとりの漁師がおりました。ちょっと漁師やっていただけますか」
「ああー、今日もいい天気だ」
「すぐやってくれる! そこへしくしく泣いてる女の子が」
「なぜ泣いている」
「あのね、何かがノドにひっかかってとっても痛いの」
「見せてみろ」
「あーん」
「もっと大きくひらけ」
「あんッ」
「取れたぞ。こいつは釣り針だ。返しがあって痛かったろう」
「漁師さんどうもありがとう。お礼にあなたのお嫁さんになってあげましょう」
「何か面倒臭そうだからいい」
「じゃ、妹なら?」
「う……」
「というわけで、女の子は漁師の妹になって一緒に住むことになりました。きゃーお兄ちゃん、大きなフナムシ!」
「ああ」
「きゃーお兄ちゃん、綺麗な着物!」
「ああ」
「おトキと呼ばれるようになった妹は、嬉しいにつけ悲しいにつけ漁師に抱きつき、漁師は超まんざらでもありません」
「……今度は帯買ってってやろう」
「そんなある日、近くの港に寄港中の中国人がやってきて、漁師にこう言いました」
「あなたの妹どストライクなんだけど。口説いてもいいかしら」
「カマにはやらん」
「カマじゃないわよ! 覚えてなさい!」
「中国人は怒って帰っていきました。ところでおトキと漁師のあいだにはひとつの約束がありました」
「私を助けたときのことは、絶対誰にも言わないで。貝の娘がパカパカしすぎて釣り針を吸い込んだなんて、恥ずかしいもの」
「よく分からんが、お前が嫌なら」
「ありがとうお兄ちゃん! 今日のお土産も綺麗!」
「友禅だ。気に入ったなら柄違いで追加注文しよう」
「もうお兄ちゃんたら、そんなにあっても着られないわ。ヤドカリだってお気に入りの貝は一個でしょう?」
「おトキの例えは時々分からないのでした。そんな中、例の中国人が漁師の身辺を洗い始めました」
「昨日は友禅、今日は西陣。だいぶ金使いが荒いようね」
「漁が好調らしいッス。カジキとかカツオとか、高級魚を磯でバンバン釣り上げてるッスよ」
「磯釣りでカジキ? あり得ないわ。張り付き調査よ、マサミ!」
「うぇ~い。もしもし天音か? またしばらく帰れんから、戸締りちゃんとしろよ……んな、い、言えねえって」
「あの、劉さん」
「何よジン」
「これって漫才でしたよね」
「あらほんと、いつの間にか人数分ずらっと並んじゃったわね。ギャラは何等分になるの」
「そういう問題じゃなくて」
「セリフの量で歩合割りにすればー? 文字数覚えといてあげるわよ」
「頼んだわヨーコ。さ、しゃべくりたおすわよ!」
「ナレーションだからくどりんが一番高額ね♪終わったらご飯おごってー」
「無理して芸人ノリから始めることなかったんですね。はは……。さて、松永さんの張り付き調査で、漁師の業務形態が明らかになりました」
「朝起きて、メシ食って、妹に送り出されて、海岸をプラプラしながら午前中で100kg超えを三本、それを魚河岸に卸して、昼飯に戻って、午後は町で呉服屋を物色、晩飯用の魚をちょっと釣って帰る。優雅なもんだ」
「んまー、あたしら船持ち漁師は夜明け前から魚群を追ってるってのに! それでも燃料代が出るかどうかなのよ」
「俺も見たッスけど、糸垂らせばすぐ掛かる入れ食い状態だったッス。劉さんと行くナンパより効率いいッスよ」
「あたしは理想が高いの。そして理想のコを見つけた今、持てるテクを総動員するわよ!」
「その意気や! 愛は粘着やでーーー……」
「何、今の高速の黒船」
「金ぴかの飛行ロボが追ってるッス。ああドップラー効果……。で、どうするッスか?」
「アイツはきっと沖合から海岸まで、水中に追い込み網を仕掛けてるんだわ。そういうのはちゃんとした許可が必要なのよ。網元に告げ口してやる」
「割とセコいッスね」
「現実的と言って」
「そのあたりを仕切る網元は華宮院といい、当主は華という女でした」
「浜の掘っ立て小屋に住んでる樋口? あの人、何かやらかしたの?」
「華と樋口はつい最近まで婚約していました。樋口家の没落でその話が流れてからは、存在に触れず無視して暮らす樋口の腫れ物を、ことあるごとに華がバリバリ掻きに来る関係でした。って台本にあるんですよ!」
「……何の用だ。網元」
「外国船籍の船長から申し立てがあったのよ。寄港ルートにかかる沖合に、違法な追い込み網が設置してあるっていうんだけど」
「セコい申し立てだな」
「こちらが申し立てをなさった劉さんよ」
「いるのを知ってて言った」
「何よ、これは正当な申し立てよ! オンナを口説こうとして断られた腹いせじゃないんだから!」
「樋口は、空へ向かって長く煙草の煙を吐きました」
「俺はこの通り、磯釣りしかせん」
「河岸で聞いたら、あなた近頃はずいぶんな大物を卸してるそうじゃない。船も網も手放して以来ずっとブラブラしてたのに、装具を揃えるお金なんてあったの?」
「カジキ用の釣り針なんてチョー高いんだから。どうやって手に入れたのよ?」
「この針は俺のだ」
「それだけ言って、樋口は黙り込んでしまいました。そこへ外回りの松永から連絡が入りました」
「もしもし、どうしたのマサミ?」
「目先を変えて、樋口が出かけたあとの家を張ってたんだが。おトキって娘が洗濯物持って出たまま戻らねえ」
「探すのよ!」
「探してるっての。見晴らしがいいかと思って崖を少し上ってみた。で、浜のあんたらが見えるんだが、沖からそっちへ向かって水中を何か長いものが流れて行ってるんだ。確認できるか」
「長いもの?」
「松永の誘導で、劉の手下の仁科が海に入りました」
「あ、がぶ、あったッス! 何か来てるッス! がぶ」
「仁科が波にもまれながら端っこをつかんだのは、水深としてはちょうど磯釣りで針を落とす棚のあたりでした」
「ぐにょぐにょぴらぴらしてるッス。昆布? ダイオウイカ? リュウグウノツカイ??」
「仁科は謎の吹流しをつかんで泳ぎ、浅瀬に戻ります。華が集めた地引網の漁師たちも加勢して、よいせよいせと引き始めると、漂っていたものの全貌が明らかになりました」
「これは……着物地だわ」
「水から現れたのは、樋口が買い込んだ反物でした。それらを長く結び合わせたものが、沖からずっと続いているのでした」
「結び目が所々アンカーになって潮流に乗ってるッスね」
「染めも織りも、海水ですっかりダメになってるわ」
「あいつ……色違いが欲しかったのか」
「樋口さん、多分だけど違うわ」
「うわあ!」
「突然引きの手ごたえがなくなり、漁師たちが砂浜にすっ転がりました。樋口は残りをたぐり寄せ、反物のシッポが波打ち際でもまれるのをじっと眺めていましたが、その数間先の浅瀬にザブンと立ったのは、三枚ホタテをビキニ状に身に着けたおトキでした」
「お兄ちゃん?」
「なっ、トキッ、ほたっ、見てんじゃねえキサマら!」
「樋口はその場にいる男を端から殴り倒し、じゃぶじゃぶと水に入って行っておトキに自分の着物を巻きつけました」
「お兄ちゃんが引っ張ってたの?」
「お前、どうしてこんなことを」
「もう、恥ずかしいな。たくさん釣れた?」
「まず網元さんに、この反物のことを説明しなきゃならないんだ。お前できるか?」
「おトキは華を見てぺこりと頭を下げました」
「これ、沖から大物を誘導するのに使うんです。魚は綺麗な模様に目を回して、たどりついた先にあるどんな針にも食いつくの。ね、たくさん釣れた?」
「今日は釣ってない。いいかおトキ、こういう漁法は許可なしには……」
「待って樋口さん。ねえおトキちゃん。この反物はみんな、彼があなたの喜ぶ顔を見たくて買ったものなのよ」
「でも、つまり私への贈り物でしょう? 使ったらいけなかった?」
「いけなくはないが……。俺は魚を売った金で反物を買ったんだ。だからお前が着ないなら、もう反物は買わないし、沖の魚を誘導する必要もない。分かるか?」
「えーと釣った魚で反物を買う。その反物で魚が獲れる。魚を売ってまた反物を買う……わー無限ループッス」
「もう贈り物はいらないってこと?」
「そう言ったおトキの目から、真珠のような涙がこぼれ落ちました」
「私はホタテの貝柱姫。助けていただいたご恩返しに、海の仲間をたくさんあなたに捧げました。でもそれが、あなたにとっては意味のない贈り物だったなんて」
「意味がないなんて言っていない。だがおトキ。魚と反物が互いに収益であり支出なら、この場合の投下資本は」
「あの、樋口さん。収支決算の例えはちょっとどうかしら。“私は海のホタテ姫”っつってる子に」
「“ホタテの貝柱姫”です! 私だってまだお兄ちゃんにあげられるものがあるんですからね!」
「おトキは羽織った着物の中でごそごそし、前合わせからホタテ貝を一枚差し出しました」
「はいこれ」
「おわ、い、いらん、すぐ戻せ」
「どこの! おトキちゃんそれはどこの一枚!」
「どこのだって一大事ッス!」
「ダメですか? じゃあもう一枚」
「やめろ、もういい、ちょ、待てもうひとり蹴るから」
「逃げる仁科の頭を砂の中にめり込ませてから、樋口はおトキの元に駆け戻りました」
「よせ。お前は恩返しなんかしなくていいんだ。あのときお前のノドに刺さっていた針、あれは俺の釣り針だったんだ」
「え」
「俺のずさんな管理のせいで、お前を傷つけた。埋め合わせをしなきゃならんのは俺のほうなんだ。失くしたと思ってた針を、お前が返してくれたってのに」
「お兄ちゃん、お礼ならもういっぱいもらったわ。毎日綺麗な贈り物、嬉しかった……」
「ちょっとあなたたち。いつまでもお尻出したまま何やってるのよ」
「し、尻……おい工藤」
「ですが、漁師はこのシーンおトキに着物を貸したので、つながり的にふんどし一丁です」
「チッ」
「じれったいわねえ。とっととホタテ姫をお嫁にもらってしまえば? いいじゃない海洋生物との異種族婚。うちだってそうよ」
「ああ?」
「キースは海の殺し屋、シャチの化身よ。電波だと思われるから人に言わないでね」
「おトキ……」
「樋口はおトキを見つめました。砂浜に半死半生で転がる男たちも見守っています」
「おトキ、お嫁さんオプションは一度断ったが、俺は」
「どうしよう、私もう付き合ってる人がいるの」
「……!!」
「樋口の表情は何とも……描写ができません。華がガリガリと髪をかきむしりました」
「あーそう。参考までに誰かしら? ナマコの王子さま?」
「イカ釣り船の清十郎さん。反物があまりない頃は、自力で泳いで魚を獲ってたの。そしたら彼の網に引っかかっちゃって。ブラが」
「あ、再起不能」
「瞬間盛り上がっただけに気の毒ッス」
「追い込みのやり方を考えてくれたのも彼よ」
「そ、そうか。お兄ちゃんはちっとも知らなかった。いつの間にそういう」
「よろよろと体勢を立て直す樋口に、おトキはにっこりと微笑みました」
「お寝坊のお兄ちゃんが寝てるあいだよ。漁は夜明け前が勝負なの」
「うーん、いろんな意味でね」
「もうええわ。どうも、ありがとうございましたー!」
「って終われるかー!」
(お囃子)
(緞帳)
(拍子木「チョーン!! チョンチョンチョンチョン……」)
(吉澤「はなまる寄席は、越智水産の提供でお送り致しました。どなたさまもお忘れ物なきよう……」)
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