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  管理人・歩く猫 これっぱかしの宝物について。真田丸とネット小説など。ご感想・メッセージなどは拍手のメッセージ欄でも各記事コメントでもお気軽にどうぞ
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「乾物屋の女将」つづきです。全二話


870R」(サイトは18歳以上推奨)でのお祭に、HN「じゃいこ」にて投稿したテキスト作品です。

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「乾物屋の女将(2)」全二話

 乾物屋をあとにした金ぴかロボは、海岸を目指して雑木林を歩いていました。
 ボディは金色からシルバーメタルに変調しており、鏡面に夜の森が映り込んで周囲と見分けがつきません。
 黒装束の吉澤とクレオは、ロボの胸の谷間に座っていました。
「ユキ、あげる」
 そう言って、クレオが布きれを投げて寄こしました。
「これは?」
「あの女将さんの。引き出しからチョッパッテ来たネ」
「レオさん! いけないよぉ下着泥棒なんて」
 吉澤は目を輝かせて布を広げました。
「小っちゃ! ヒモ! 大人しそうなフリして女将ったら夜は娼婦!」
 吉澤は熱心にタテヨコ・裏表を確かめます。クレオはやれやれと首を振りました。
「やっぱり分かってなかったネ、ユキ」
「何が?」
「あの人オトコよ。それはジョックストラップ。スポーツなんかで色々ブラブラするのをホールドするための男用サポーターネ」
 吉澤が凍りつくと、それがちょうど正しい天地で、袋状の伸縮素材がボヨンと垂れ下がりました。
「あわわ」
「普通は丸いカップを入れて保護するヨ。けど彼女、あー彼は、平らな板で抑えつけてたようネ。女の着物がもっこりすると目立つカラネー」
「じょっ、女装ってこと? なんでまた」
 クレオは肩をすくめました。
「趣味嗜好に理由ないネ。ワタシてっきりユキはオトコに目覚めたおもたヨ。いっつもホモ死ね言ってるから、見識広がるのはいい傾向おもた。なーんだ勘違い」
「なーんだじゃないですよ! 僕あの人の着替えだって見たのに!」
「肝心のトコちゃんと見たカ?」
「いや、スソがチラチラする程度……真上からだし手早かったし」
「覗き穴フィルタこわいネー。オトコの着替えも脳内補完させるネ」
「そんな、そんなぁ。ズルいよ。あんなに女髪の似合う男なんて!」


「女髪の恭介はん、いつ見ても可愛らしわぁ♪」
 座敷の上座を占めた女が言いました。
 乾物商樋口屋の女将は、下座で深々と平伏しています。
「十和子あねさん」
「お顔上げなんし」
「は」
 工藤に肩を支えられ、女将が身を起こすと、束髪が重たげに流れ落ちました。
「わざわざあねさんにお運びいただいたにもかかわらず、床についておりまして、このような略装にて」
「ええの。やつれてかえって色っぽいわぁ。あ、具合悪ぅにしてはるとこへこんなん言うたらあかんねぇ」
 十和子の口調は女将の体調を気遣うようでいて、そのくせ頑として離席は許さず、どこまでも上から目線です。その場の張り詰めた空気は、八千菊一家の権勢そのものでした。
「異人の殺し屋なんぞにうちのシマで好き勝手させしまへんえ。あ、かかった♪」
 樋口屋の外で男衆の怒号が上がり、乱闘が始まったようです。十和子はのんびりとお茶をすすりました。
「恭介はんはどーんと大船に乗ったつもりでおいやす」
「どーんと黒船?」
 誰かが呟き、十和子は声のした方をにらみました。座敷のスミには樋口屋の面々が控えています。
「大船、言うたんやし」
「主砲は黒光り?」
 ブツブツ言っているのは番頭の劉でした。丁稚が背中をつつきます。
「番頭さん。何ふざけてるッスか」
「違うの。オランダ語が聞こえるのよ。そして勝手にナニワ調に翻訳されるわ。あれはまさしく」
「ベンテニー?!」
 十和子がすっくと立ち上がりました。
「どなたはんも、ついといでやす」


 十和子が歩くと海が割れるように人が道をあけました。「裏木戸です」「裏木戸ですあねさん」と、みな口々に襲撃場所を報告します。
 十和子はアゴでくいと先を示しました。
「静かやけど、もう制圧したんか」
「は。それが……」
 八千菊の若い幹部が言いよどみ、部下に合図しました。部下に引きずられて来たのは、ズタボロになったベンテニーでした。
「ひとりかいな? エゲレス人は来なんだか」
「それが、取り逃がしましたんで」
「あほ! いつ戻ってきて恭介はんを襲うか知れんやないの!」
「ですが何だか、ベンテニーを見たとたん戦意を喪失して帰った、ような感じでして」
「分かるように説明しい」
「まずエゲレス人が防衛線にかかりました。体術に長けた奴で俺らが手こずってますと、コイツが飛び出して来て、でっかい黒いバズーカをエゲレス人に向けたんです」
「それ、今どこや。バズーカ」
「エゲレス人が軽々奪って、そのまま持って行っちまいました」
「ふーん。ベンテニーは雇い主や。契約の行き違いでもあったのやろか。尋ねてみ」
 八千菊の男衆が手慣れたやり方で「尋ね」、十和子は髪をつかみ上げられたベンテニーに、にっこり微笑みかけました。
「困ったお人やわあ。あんたはんとこのハバネロパウダーは、もううちとこの傘下では買いまへんいうことで、こないだ手打ちにしたとこやおへんか。何を引っかき回しに来やはったん……」
 十和子がイラッとした目線を寄こし、劉は飛び上がって通訳しました。
「ええと、ソノボウシドイツンダオランダ?」
「恭介はんの跡目相続も、八千菊一家が面子にかけて承認しましたんえ」
「チューリップチューリップ、アムステルダムフリーセックス……ふむふむ。どうやらベンテニーは、自作自演で樋口屋に恩を売ろうとしてたみたいですわ、あねさん」
「自分で雇った殺し屋を自分でやっつけて? それでどないなるいうのん?」
「ワシの愛を見せつけるんや~、と言ってます」
 丁稚が呆れて頭を抱えました。
「好きなコがチンピラにからまれてるとこを助けるパターンッス! 発想がダメ男ー」
「スペシャルブラックバズーカでキースなんか吹っ飛ばす予定やったんや~、だそうです」
「殺し屋の名前はキースと。バズーカ大の手荷物で検問かけてみるネ」
「ハバネロパウダーのことは何か言ってます?」
「今後は関西に販路を開拓するつもりや、ですって。あっちの方が水が合うそうよ」
「のんきなもんだ」
「せいぜい稼いだらよろし。じきに殺し屋はんがこってり違約金ふんだくりに行くやろさかい」
「違約金?」
 十和子は片手を振って劉に通訳をやめさせました。にっこりとベンテニーに微笑みます。
「殺し屋いうんは信用商売や。一度狙ったターゲットがいつまでもお天道さんの下を歩いとる、この汚名をそそぐには、依頼主を殺すか、社会的抹殺に等しいほど根こそぎ金を奪うかしかあらへん」
「わわ、大変そう~」
「歪んだ愛の落とし前は高くついたわねえ」
「放したり」
 ベンテニーは、後ろの方にいる樋口屋恭介に投げキッスを飛ばしながら、引きずられていきました。
「女でしくじった、ホモ一生の不覚、でも好っきゃー、ですって。男だってことはバレてないみたい。ガイジンからすると日本の男は華奢なのかしらね」
「あのう、恭介さんの女装はそのために? ホモ除け?」
「違うわ、八千菊一家との手打ちよ。決まってるでしょ」
「そのテウチって? 具体的に何があったネ?」
「なぁさっきからちょっと、どなたはん?」
 十和子が見回して声の主を探すと、裏木戸の屋根で、黒装束の二人組が手を振りました。
「あー! 覗きのホモのヘンタイ!」
「覗きしか合ってないですよお、番頭さん」
 吉澤が弱々しく突っ込みます。
「ドーモネ」
「僕ら、海岸でベンテニーの上陸を水際阻止するつもりが」
「ステルス迷彩にあっさりまかれテ」
「すっかり遅れて到着した」
「通りすがりの公儀お庭番ヨ」
 クレオと吉澤が交互に言い、周囲に動揺が走りました。
「待ち」
 十和子が男衆を制します。
「ご公儀の出る幕やないと言いたいとこやけど、今回殺し屋の情報をいただいた借りはあるのや」
「さすがあねさん、話せるなあ」


 忍者たちは皆と一緒に樋口屋の座敷に通されました。
 暖かいすまし汁が振舞われ、十和子は鰹と昆布の合わせだしににっこりしてから、話しはじめました。
「先代の樋口屋はんは、ハバネロパウダーでえろう荒稼ぎしてはったの。あない真っ赤っかぁの調味料は八千菊の流儀に合わん邪道もんや。それを目こぼしする代わりとして、先代はんは娘の斗貴ちゃんをうちに人質、いえ行儀見習いに寄こしてたんやけど、それを御破算にするいうことで、恭介はんにはケジメ取ってもろたんよ」
「斗貴には普通の結婚をさせた」
 樋口屋当主が重々しく言いました。
「実家が禁制品を商いしてるなどとは言わせられん。これからは真っ当なかつおだしパウダー一本でいく」
「こうして見ると、普通にガタイのいいおにーさんなんだよなあ」
 そう言って、吉澤はしょんぼりと椀をすすりました。クレオがクスクス笑います。
「ユキ、“先代亡きあと店を切り盛り”ってフレーズで、未亡人フィルタもかかったネ。女装されてもストライクゾーンぶれないベンテニーを見習うヨ」
「ちぇー。僕だって目を開かれれば物は見えますよ。例えば樋口屋さん、あなたが潜入岡っ引だったんでしょう?」
 樋口屋恭介は少し黙ってから椀を置きました。
「そうだ」
「どういうことネ。顔に傷あるいうのニセ情報だたカ」
「よく見てレオさん。メークで隠してあるんだ」
「アほんとネ」
「女装に向こう傷ではお転婆がすぎますさかいなぁ」
 十和子がウフフと笑っています。
「俺は親父の組織をぶっつぶすつもりで来た。だが親分筋の八千菊は敵に回すにはデカすぎた。だから乗っ取ることにした」
「簡単に言うなあ。で、工藤さんがその上役の与力と」
 工藤は苦笑して頭を下げました。
「ご慧眼。偽装死の詰めが甘かったようですね」
「なんとユキったら名探偵ネ! 短パン履くネ!」
「やだよレオさん、はみ出る。工藤さんの顔の傷は? それもメークですか?」
「これはまあ、お魚くわえたドラ猫を追いかけたら引っかかれまして」
「やめなさいよ」
 劉がため息をついています。
「ジンは同じ場所に傷を作って、万一のときはすべて自分が被るつもりでいたのよ。まったく、侍上がりはこれだから」
「はは。過去はきっぱり捨てたつもりですが、性根はなかなか変えられませんね」
「やーんくどりん可愛いー」
 十和子がにっこり笑ってあとを引き取りました。
「意気に感じてうち、恭介はんの親殺し、もとい跡目相続を認めましたんどす。条件つきでな」
「え、まさかそれが女装……?」
「そうかて、恭介はんみたいに凛々しいおとこはん目の前にしたら、うち恥ずかしいてよう物言わんのやし」
「だからって何も」
 あっけに取られている吉澤に、劉が耳打ちしました。
「ボスにハラ見せる犬みたいなもんよ。女装でも何でも言われた通りして、服従の姿勢を取れってこと。いっそ親切だと思ってあたしたちは女将って呼んでるんだけど、十和子あねさんは執拗に男名前で呼ぶのよねえ」
「跡目が欲しけりゃ女装しろか……。それで圧迫しすぎて体調崩したんですか?」
「女将は一本気なの」
「アイツの幸せのためなら、こんなもののひとつやふたつ」
 乾物屋の女将は、唇を噛んで股間を押さえるのでした。
 めでたしめでたし。
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