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作者さまの心情を切り捨てることがあるかもしれません。
でも小説を切り捨てることはしないと誓います。
納得行くまで向き合います。
あくまで私の納得なので、小説のためになるかどうか、誤読がないかどうかは分かりません。
E01 魔石の彫金師
「>なんとなく透けていた」の、とぼけた紹介がすき。
魔法ファンタジーな道具だて。でも異世界的なネーミングはなく、「オパールなどの宝石名」「人名のヨーロッパさ」「ロザリオ」などは現実世界の影をまとったまま使われる。西洋風俗満載な「魔女の宅急便」が「グーチョキパン屋」で日本文学であることを主張する、みたいなことだろうか。「チャーマー」「ファーマー」など職種由来っぽい姓は翻訳英語小説の気分で読めないわけじゃないけど、「>ヴェスヴィオス火山」でリアルヨーロッパが確定して困惑。祓魔師が普通にいて魔力が誰の目の前にも顕現するヨーロッパを思い描くための、ロマンのとっかかりみたいなものがほしい感じ。
「>この石は一番美しいところが端にきすぎている。こっちは石座が主張しすぎだ。」
職人の修行課程が見える楽しいダメ出し。魔石を呑むということをするのはアリエナだけのようでハテナ。魔石庫いっぱいの魔石を支配下に置いていた父親とは、彫金師としての資質が違ったのだろうか。アリエナが体を張るというドラマに没入するための手がかりが少ないように感じた。
E02 逃亡者
「>出来は悪い が、憎まれる謂れはないと思う。」
とても大人な見解。「出来が悪い」時点で「授業が分からない」「宿題を片づけられない」など自分の落ち度に気をとられることなく、心理カウンセラーが言うような結論を出せる。もうある程度「母親の欠点」を把握できてる感じ。でも主人公は「>圧制」に身を縮めるばかりで、「お母さんは正しい」を脳内理屈としても覆せないでいる。実はできあいのものばかり出す料理放棄者であるとか、親の欠けたところが見えないかぎり、これは言えない気がするなあ。
「>父親だと思ったことは一度もない。」
言葉の上だけでも「>優しい目」と形容できる誰かのことを、こうはっきり断罪できる小学生が、私の中で像を結ばなかった。「自分の家庭が世界の常識ではない」「あれはお父さんじゃない、お兄さんだ」という気づきは、色んな人がいることを経験した保護後の彼にしか分からないことでは。ロードムービーの冒頭から主人公にすべてが見えているような違和感。
犬で始まる幕開けなのに、犬の存在が世界に根付いて見えなかった。お母さんに怒られる理由のダントツ一位に「犬の世話しなさい」があると思うんだけど、この家庭にはチビの世話を気にする人が誰もいないような。
飼いたいとせがんだ子には「チビは僕の犬」という自負があるはずで、それが主人公であれば「やかましい犬」などお母さんの憎しみを共に受けていただろうし、お兄ちゃんの犬なら、どうやってか弟の捜索願いを出さないとしても犬探しはすると思う。両親のどっちかが犬好きである場合はなおさら。犬がいなくなっただけで私からしたら大事件なのに、人が一人いなくなってることが、主人公のコドモ把握の範囲内で処理されている感じ。
E03 ピンク、黒、そして白
抜き足差し足みたいな語りで、じわじわ解かれる日常の謎。「>今日も一緒じゃない。よかったね」だけで、私ならオイコラ知ってんぞーってキレるなあ。
「>これできれいに別れられる。」
璃子の嘘がドロ沼の原因ではあるんだけど、小説のドロドロさは、修羅場を自分主導で進めたい主人公の、厄介なプライドから来てる気がした。
「>そのおかげで真緒とも遠藤君とも仲良くしていられたんだから。」
ここまでぶっちゃけてくれる璃子からは、不思議なまっすぐさを感じてしまった。一方「人はいろんな顔を隠してる」ということにゾッとしてもすぐ「>見抜くことができなかった。」と反省のような口ぶりができる主人公には、璃子のトンデモ理屈も理解できるわよと理性的な自分にしがみついているようなごまかしを感じた。逃げるしかなかった別れに、モヤモヤドロドロしたものを洗い流すきっかけが見えない感じ。身軽になって未来へ進むラストが、私にはつながってこなかった。
E04 七日間の幽霊
「>私は幽霊なんだな、と実感した。」
実感と書いてあるからって受け入れてはいけない。信用できない語り手に付き合ったからは、だまされたってことがどうでもよくなるようなラストがほしかった。「どうでもいい」は、ナレーションを補い合う二人が口を揃えて言う台詞だけど、読み手の私はどこもよくなかった。
彼女の幽霊実感にアリバイを提供するかのように、彼は「幽霊見ちゃってる」自分に何の疑問も持たない。外出したら「幽霊見ちゃった」幻覚が醒めて彼女は消えてるんじゃないかと心配になったりしないし、彼女のお葬式を確かめてみることもしなかった。死を巡る不思議がどんどん軽くなる感じ。
E05 魔法
同じエメラルドグリーンを選んだことがどうしてそんなに嫌なのか分からず、何か隠された理由があるのかと思ってた。姉の笑顔に主人公がふてくされる時と機嫌が直る時では、起こってることはさほど違わないように見えた。ほんとに彼女の気持ちひとつと思うしかない。
「>嫌になってほっといたのは私だけど、勝手にさわられるのは、さすがに抵抗があった。」
「私の道具をさわらないで」という子供らしいなわばり意識として読んだ。主人公は何が嫌で何をしてほしいのか、「さすがに」とまで振りかぶるほどの基準はない子なんじゃないかなあ。
E06 虹色の毒
カラフルカクテルの酒飲み小説が、幽霊との事件談義に発展し、叙述ミステリに着地する。「>仕事で詰まると」という含みがまず好き。事件の話が始まっても、ホンキの刑事か探偵、依頼を受けた殺し屋、プロット煮詰まり中のミステリ作家など、色んな方面に期待がふくらむ。だまされ準備は万全。そのどれでもない着地を用意する義務が推理作家にはあり、「>丑三つ時」という高難度ジャンプが見事に決まった。「>指先で弾くと聡子さんにこらっ、と怒られた」などが分からず、バー所作部分は少し飛ばし読み。
「>被害者は松阪豊。なかなかの美男子。」という地の文がズルいぜ。聡子さんが「松坂さん」と呼び始めるタイミングで全てを解放する呼吸がおシャレ。「>なぜあなたはここにいるの?」小説全体に響くような一文がおシャレ。殺人自体は成功したけど犯人の保身が片手落ちで、事件としては不完全。でもそこが気にかかってたという回収がまたおシャレ。
運命の色となったインディゴがいかにも毒っぽい。ジーンズはガラガラ蛇よけのためにこの染料で染められるようになったとか聞いた気がする。毒蛇も避ける藍の毒。
E07 海賊と白と菫
「>この航路で王妃の息のかかった者が毒を盛ってくるかもしれない」
王妃はブランシュにしっかり遺産を相続してもらわなきゃ困るのでは。海賊の巣窟を通るのに軍艦をつけなかったり、危険と警戒のバランスがよく分からなかった。
「>ブランシュを見てほっと息を吐いた。そして近づいてきて、手を差し出された。」
「>腕に抱えられたブランシュは目を見張っていた。驚きの表情で船長を見つめる。」
向き合う心理をはらんでいる動作に、ブランシュだけの受け身「られる」があって読む方向がもたつく感じ。
「>ラルカンシエルの海賊討伐は厳しくなり、海賊は拿捕され縛り首になった、と公式発表された。」
あっちもこっちも海賊はいたけどどれのことだろう。「>自国の私掠船」は、上がりを国に上納したりしてお目こぼしを受けてる感じ?自分たちも海賊行為を黙認してるからよその国の海賊(そういう設定があるかは不明)掃討はそのまま国同士の戦争につながる危険があるわけで、周辺国のどこともつながってないローズとレッドの大船団は、ラルカンシエル以外の国も一致協力して討伐にかかりそう。交通の要衝の安全確保は陸海問わずどの国にとっても最優先課題だし。
縛り首を「公式発表」することが何の解決になるんだろう。処刑記録をでっちあげたようにも、無実の誰かを吊したようにも読めてモヤモヤ。掃討作戦の終了をでっちあげても海域の海賊被害は続くわけで、やっぱりモヤモヤ。
プルプルって偽名かわいい。プルプルのチョキ。違う。(動物のお医者さん) 地名由来の「>スワトウ刺繍」が登場するならたとえば「ベネチアングラス」とかもアリなのだろうか。表意人名として受け入れた現実テイストが、世界観のどこまで及んでいるのか分からずモヤモヤ。
E08 漆黒に咲く美しい花
「>綺麗」や「>美しい」や「>感動」などシーンを指し示す単語がそのまま書いてある感じ。その向こうを私は思い描きたいと思った。
「>花火の光で、顔中の汗がはっきりと見て取れる。」
夜の会話の距離感が息づく。
「>麻衣は僕にジュースを与えた。」
「>麻衣に肩を捕まれて勧められた。」
麻衣の小さな動きがシーンを動かす波になるのに、言葉選びに思い入れが薄い感じ。
E09 BUN-BORG
実況に続く一文が、「>盛大な歓声と共に実況の声が満員の観客席にこだまする。」と「歓声」についての描写から始まり、読む目がつまづいた。仮想世界のスタジアムをぱあっと思い浮かべたい冒頭だし。映画の「サマーウォーズ」みたいな大規模ネット観戦が楽しい。
賭け金が動くという大人の世界がジャズバーで展開される。子供だけのバトルと違って静かな裏バトル。実際のバトル内容がゲーム設定に踏み込む描写になると、イメージがよくつかめなかった。
子供バトルを始める手順は「ペンケースをスキャン」だけだと思っていたら
「>表同様全身をスキャンするため顔もそのまま反映される」
と棺桶仕様のアレみたいな全身スキャン設備が必要っぽいし、そこまでしても
「>BUN-BORGでは個人の身体能力は反映されない」
とあって、顔写真登録とかで間に合う感じ。名前も顔も隠すルールなのに、本名登録のノース予選チャンプが知られているのはなぜだろう。
チビ鉛筆のライトセイバー!チャンピオンの息子に世話を焼くバトル仲間だったと分かり、バーが一気に家庭的になるラストがすき。シメの台詞に何かの含みがほしい感じ。
E10 Queen in the dark
「>政略結婚の手駒以外の何物でもない。」
第一王子も第二王子もそうだと思う。自国に残れないことを主人公は嘆いているのじゃないかな。
「>言葉とは裏腹に感情のこもらない声で返してやると、」
自分の態度がこの場でどう作用してるか、オレは分かってるぜと言い張るような一人称に、「感情のこもらない声」という客観描写が違和感。「声に感情はこめてない」と本人が思ってるのはいいとして、それが相手にどう取られるかまで彼の思惑どおり、という語調は、真実のありかを混乱させると思う。「~してやると」という表現は
「>目だけは笑っていない微笑みを浮かべながら、わざと名前の部分を強調して言ってやると」
にも使われるけど、ここは主人公の怒りが正しいというシーン。改心でひっくり返されるものと一緒に、主人公の正義まで「独善」としてひっくり返されてしまう気がした。
「>そこに持参金としてまるまる一国がついてくるのであれば」
「持参金」が軽口の域であるにしても、君主(予定)の持参金がその国まるごとというのはおかしいような。君主同士の結婚なら共同統治みたいな合併想定があるかもだけど。盲目の君主を戴く予定の臣下は、思いやりじゃなくシステムとして政務サポートを充実させてそうで、夫である主人公の天下にはならないと、主人公も分かってるはず。
「>怒りの籠った声だった。」
自分の態度を傍から眺めるような描写が、シーンの集中とそぐわない感じ。
「>僕から彼女へのせめてものはなむけだろう。」
「はなむけ」は旅立つ誰かを送るイメージで、国を去る予定の主人公が使うなら「置き土産」かなあ。
「>今度こそこの盲目の王女の夫となるために。」
「>望む結婚は出来ない」という身の上は変わらない。故国の外交政策に、彼という手駒の意志は徹頭徹尾カウントされてないと思う。そこをひっくり返すぞという気概を読みたかった。フランス語の影があるのにキリスト教の影はない世界で、簡単に離婚させられそう。
E11 赤い糸
「>自分はいもしない相手を求めて、どれだけ多くの時間を無駄にしてしまったのか」
真面目な苦悩へと着地しそうに見せつつ、そんなもんうっちゃってけーと不思議な明るさが開けるラスト。そういえば、糸巻き巻きして歩いた人の口から、シリアスな人生訓を聞きたい気分にならないもんなあ。カラッとした語り口と、ラストの長文具合と、「>引っ張られているのだった。」の言い残しのなさが好きな読後感。
E12 錆色モノクローム 注
「>白と黒だけが、世界のすべてだ。」
「色が分からない」はモノクロ視野なのかと思ってた。でも「灰色が分からない」のでどうも違うみたい?最後まで読むと「白という単色と黒という単色が記号のように現れている視野である」ということみたいだけど、「モノクローム」というタイトルからして灰色の濃淡を想像せずにいられない。
「>黒っぽい石が実は灰色だと。灰色というものの存在は中々、グワンには理解しがたかった。」
「黒っぽい」と言えている時点で、灰色という中間色を見分けてることにならないかな。
気を読む能力は、「こういう凄いことができる」という戦闘シーンでたっぷり描いてあったが、日常生活がどれくらい「見えない」のかということがやっぱり分からず残った。「>こちらに目を向けてくる少女」をグワンは見えている風だし「>魚を見てもよく変化が」では「見た」と書いてあるし、「>奇妙そうな顔をする千代に苦笑する。」「>悪いことを聞いた、とばかり、曇っていく顔」が、千代の顔を見られない人の描写であるとは思いにくい。全部「気を読む」でカバーすればいいのかもだけど、「>星が見え始め、」「>麓の村が見えた。」「>薄白く見える村」など、「見える」が普通に現れるので、読んでいてすぐに忘れた。
主語の省略や脱字や細切れの短文。対象への距離感が定まらない地の文が読みにくい感じ。主語を接ぎ足しても混乱は変わらず残る気がする。
「>ぶっきらぼうな声だったが、心配は十分しているようだ。」苦もなくグワンの内心に切り込めていた地の文が、急に傍で眺めるような推測をするのはなぜだろう。
「>実に迷惑そうに言い放つ武士は、帰るぞと命令口調で言い放つ。」「迷惑そう」という気持ちのこもらない形容が、連続する「言い放つ」の強さとチグハグに響いた。
「>村の者の目が冷たく、関わりたくないと思うのは当然だった。」冷たいという描写に、「当然だった」という判断をくっつけるのは唐突なような。
「>山の中の色は黒が強く、おそらく闇が辺りを支配しているようだ。」グワンは鋭い知覚で歩を進めているはずで、「おそらく」「ようだ」と頼りない視界にいるのは誰なのか。地の文なのか。叙述が一瞬だけグワンから離れる必要があるのか。
「>結局行くんですか」
「>そういう風に見えたんだろう」
シーンの動きと言葉の上の掛け合いが重なる、キリッとしたやり取り。
「>ねぇ、本当よかったの、出て行ったりして」
何に対する気遣いなのか、台詞の意図がぼやっとして響いた。殺されそうになった村から裸足で逃げ出すのは当然だよ。助けが来てもまず「どうして来たの」と言ったり。魚捕りにキャッキャした子と簡単に命を諦めている子が結びつかなかった。